介護事業所は、大量の個人情報を取り扱っています。その内容は非常にセンシティブなものであり、取扱いには最大限の配慮が必要なことは言うまでもありません。
しかし、実際には職員の言動から個人情報が漏えいされ、大きなトラブルに発展してしまう事例が発生しています。多くの場合、職員は「ついうっかり」「悪気はなかった」という認識していますが、過去には職員個人の責任を問われた事例もあります。
今回は、介護職員のプライベートな会話から個人情報漏洩を巡るトラブルに発展したケースを紹介し、介護事業所として日頃から意識しておくべき注意点を解説します。
【ケース】
管理者A:もしもし、特別養護老人ホームかなめ(仮称)です。
家族B:特養に入所している●●の家族の者ですが。
管理者A:いつも大変お世話になっております。本日はいかがなさいましたか。
家族B:何をのんきなことを言っているんだ!
そちらで勤務している職員が、先日、ファミレスで「●●は今重篤な病気で、もう余命いくばくもないらしい」と話していたのがたまたま聞こえてきた。
私は●●の親族だが、医者からも聞かされていない情報を何故こんな形で知らされないといけないのだ!一体どういう教育をしているのだ。同じように●●の状態を知らない私以外の親族も怒り心頭だぞ!法人としてどう対応するつもりなんだ!
管理者A:ええっ!そ、それは誠に申し訳ございません。大至急調査します!
このように、介護事業所の職員がプライベートの時間を家族や友人と過ごしている際に、職務上知り得た利用者やそのご家族に関する情報を会話の中で漏らしてしまい、重大なトラブルに発展することがあります。
ケースのようなパターン以外にも、「●●さんのご家族はお医者さんで年収が1億円くらいあるらしいよ。」といったように、職業や年収に関する情報を日常会話で漏らしてしまうなど、多種多様な事例があります。
特別養護老人ホームにおいてケースのような個人情報の漏洩事案が発生した場合、利用者は認知症や寝たきり状態で意思疎通が困難なことが多いため、利用者のご家族の訴えから紛争が勃発することになります。
皆様の介護事業所で使用している重要事項説明書や利用契約書をご覧頂くと、事業所が利用者・ご家族に負う賠償責任に関する規定が存在するはずです。介護現場で働く職員は、職務上知り得た個人情報を在職中・退職後問わず、口外しないという守秘義務を負っており、ケースの事例では、守秘義務違反と認定される可能性が極めて高いです。
守秘義務違反については民事上、賠償責任が発生します。
その職員を雇用する法人も使用者としての賠償責任(使用者責任)を負うため、ご家族側から法人が訴えられる場合もあります。
守秘義務違反について、介護現場の方から、「個人情報を漏洩した場合、法人が使用者責任で訴えられることは聞いたことがあるのですが、職員個人も訴えられることはあるのでしょうか。」という質問を頂戴することがあります。
この質問に対するご回答を結論からお伝えすると、
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は35都道府県に普及中。 福祉特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所・障害事業所・幼保事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、行政対応、経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士法人かなめ - 公式YouTubeチャンネル』を運営中。https://www.youtube.com/@kaname-law テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/