借金がある生活困窮者は介護施設に入れるか?―ケアマネジャーからの法律相談

2024.08.16
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今回は、ケアマネジャーからよく寄せられる相談事例についてとりあげます。

経済的に困窮している利用者が、在宅生活を継続するのが困難な状況に陥った場合の施設への入所支援について、弁護士の立場から解説します。

亡くなった夫の借金があり施設入所を諦めている利用者

【あるケアマネジャーからの相談】

担当している利用者に、要介護4でほぼ寝たきり状態の方がおられます。意思疎通は可能です。

先立たれたご主人が生前、個人商店を営んでおり、亡くなった時に、ご主人に約2,000万円もの借金があることが分かりました。それ以降、この利用者は律儀に返済しておられたようです。ただ、そのせいで日々の生活を切り詰め、体を壊してしまい、働けなくなりました。

本来は、在宅での生活は限界ですので、介護施設への入所が必要ですが、この利用者は、多額の借金があること、収入がないことを理由に、施設入所を諦めています。

このままの状態が続くと利用者の生命が危機にさらされるのは目に見えています。

このような、借金がある生活困窮者の利用者に、施設に入って頂く方法は無いのでしょうか。

今回のようなケースでは、

  1. 利用者の借金を帳消しにする「自己破産手続き」を行う
  2. 必要最低限の生活ができるようになるため生活保護の申請手続きを行う
  3. 法テラスを活用して①②の手続きを弁護士に委ねる
  4. ケアマネとしては施設入所に向けた動きを①②と同時並行で行う

という4つの方法を取ることをお勧めします。

順に解説します。

借金がある利用者の施設入所の支援4つのステップ

利用者の借金を帳消しにする「自己破産手続き」とは

「破産したら人生終わりだ」などと思う人もいるようですが、自己破産手続きは決して人生を破滅させるような怖いものではありません。法定の要件を満たせば借金が帳消しになり、生活の再建を図ることができる裁判所を通じた手続きです。

もちろん、本来であれば、借金は返す義務があります。借金を帳消しする、というのは借金を負う人からすれば幸せかもしれませんが、お金を貸している人の立場に立てば、とても理不尽な制度に見えます。ただ、到底借金を返すことができない状態の人を、いつまでもその状態にしておくことの方が、社会全体としてはマイナスが大きいです。そのため、法律で定められた厳格な要件を満たせば自己破産は認められ、借金の返済も免除されることになっています。

今回の相談に登場する利用者も、ご主人が残した借金を律儀に返済しておられたようですが、体を壊し、収入源も無くなった状態ではもはや返済は不可能です。返せない借金を抱えた状態では精神的にも負担が大きく、それが本人の健康に与える負の影響も大きいです。このような状態からいち早く生活を再建すべく、自己破産手続きを選択することはマストと言えるでしょう。

必要最低限の生活ができるようになるため生活保護の申請手続きを行う

次に、収入に乏しく、生活を継続するのが困難なようであれば、生活保護の申請を行いましょう。

生活保護を受給することにより、自宅から施設に転居するために必要な費用、家賃、食費等の様々な扶助を受けることが可能になります。

法テラスを活用して自己破産と生活保護の手続きを弁護士に委ねる

①②の手続きを誰に委ねるか、という点については、弁護士に委ねることをお勧めします。自己破産手続きについては、準備する資料も多岐にわたりますし、裁判所を通じた手続きですので、法的な素養が必要です。多くの弁護士は、個人の自己破産手続きの申立業務を日常的に行っていますから、ケアマネの皆様に近くで頼ることができる弁護士の知り合いがいれば、是非、利用者に紹介してあげて下さい。

仮に、知り合いの弁護士がいない場合は、法テラス(日本司法支援センター)の無料法律相談を利用すると良いでしょう。法テラスは日本全国にありますので、まずは電話で問合せしてみましょう。

そして、生活保護の申請代行手続きも、自己破産手続きの依頼とセットで弁護士に委ねると簡便です。生活保護を申請する際には、利用者本人の経済状況を行政担当者に報告するのですが、この時、自己破産手続きの申立書類一式を持参すると、手続きがスムーズに進みます。自己破産手続きの申立書類には、利用者本人の資産状況が詳細に記載されていますから、生活保護課の担当者も状況が一目瞭然になる訳ですね。

さて、肝心の弁護士費用はどうするのだ?と疑問に感じた読者も多いと思います。

安心して下さい。

法テラスの制度は、弁護士費用を法テラスが立て替えて支払ってくれるのですが、原則として、利用者はその立替費用を分割で返済しなければならないことになっています。もっとも、生活保護受給者の場合には、法テラスに対して、償還免除申請書と生活保護受給証明書を提出することで、立替費用の返済義務が免除されます。つまり、制度上、弁護士費用の負担なく、弁護士に依頼することが可能になる訳です。

ケアマネとして施設入所に向けた調整を①②と同時並行で行う

ここまで、借金があり、収入も乏しい要介護者が利用できる制度として自己破産手続きと生活保護についてご説明しました。

同時に、ケアマネジャーの皆様は、利用者のために適切な施設を探して頂き、施設に対して利用者が今置かれている状況を丁寧に説明し、入所に向けてサポ-トしてあげて下さい。

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