2021年度介護報酬改定の審議報告案が提示、次回議論を経て年内に取りまとめへ 厚労省

2020.12.11
2020.12.14
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第196回社保審・介護給付費分科会が12月9日に開かれ、2021年度介護報酬改定に関する審議報告案が提示されました。2021年度改定は、下記の“5つの柱”が基本軸となっています。

1.感染症や災害への対応力強化
2.地域包括ケアシステムの推進
3.自立支援・重度化防止の取組の推進
4.介護人材の確保・介護現場の革新
5.制度の安定性・持続可能性の確保

基本軸に沿った審議報告案の内容としては、全サービスに関わる運営基準の変更、加算取得や人員配置基準の要件緩和の動きが目立ちました。本記事では審議報告案の概要や、具体的な改正内容を一部抜粋し、専門家からの発言とともに整理します。

目次
    感染症・災害対策強化、全サービスで取り組みが義務化
      「無資格者」へ認知症介護基礎研修の受講を義務付け
        通所系サービス等で介護職員による口腔機能スクリーニング実施の新加算
          人材確保に向けた人員基準の緩和、各種加算を含む複数の報酬体系を見直しへ
            厚労省、次回分科会後に審議報告を取りまとめる見込み

              感染症・災害対策強化、全サービスで取り組みが義務化

              2021年度介護報酬改定は、5つの柱を基本的な考え方として議論が重ねられてきました。第1の柱は「感染症や災害への対応力強化」であり、感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制を構築することを重視しています。

              こうしたを基本軸を踏まえ、感染症対策に関する取り組みの徹底を図ることを目的に、全サービス事業所を対象に「委員会開催、指針の整備、研修の実施等、訓練(シミュレーション)の実施」の取り組みを運営基準上で義務化することが示されました。

              関連記事:感染症・災害対策の研修や訓練など義務化 全サービスで運営基準見直しの方向(第192回分科会)

              さらに、感染症や災害が発生した場合でも、必要な介護サービスを継続的に提供できる体制を構築する観点から、全ての介護サービス事業者を対象に、「業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施」などを義務化することも明示されています。いずれの取り組みについても3年間の経過措置が設けられる見込みです。

              「無資格者」へ認知症介護基礎研修の受講を義務付け

              第2の柱は「地域包括ケアシステムの推進」であり、住み慣れた地域において、利用者の尊厳を保持しつつ、必要なサービスが切れ目なく提供されるよう取組を推進することを重視としています。このため、在宅サービス機能と連携の強化や、認知症への対応力向上に向けた取り組みの推進などを基本とした対応案が盛り込まれました。

              その中で、介護に関わるすべての人の認知症対応力を向上させていくことを目的とし、訪問入浴介護以外の訪問系、居宅介護支援、福祉用具貸与(販売)を除くすべての介護サービス事業者を対象に、医療・福祉関係の資格を有さない「無資格者」について、認知症介護基礎研修の受講を義務化することが明記されました。

              なお、全面e-ラーニング化の方針が示されていた研修については、「質の確保をしつつ、e-ラーニングの活用等により受講しやすい環境整備を行う」という表現に留まっています。

              通所系サービス等で介護職員による口腔機能スクリーニング実施の新加算

              第3の柱は「自立支援・重度化防止の取組の推進」であり、制度の目的に沿って、質の評価やデータ活用を行いながら、科学的に効果が裏付けられた質の高いサービスの提供を推進することを重視としています。これを受け、機能訓練、口腔、栄養の取り組みを連携強化することや、科学的介護の取り組みを推進することなどを基本とした対応案が示されました。

              通所系サービス等においては、利用者の口腔機能低下を早期に確認し、適切な管理等を行うことで口腔機能低下の重症化を防止する観点から、介護職員による口腔機能スクリーニングの実施を評価する新たな加算の創設についても記載されています。

              なお、本審議案では「栄養スクリーニング加算による取組・評価と一体的に行うものとする」との記載がありますが、日本歯科医師会の小玉剛氏は「栄養スクリーニングと合わせての実施については、歯科口腔(スクリーニング)単独でも算定できるような制度設計をお願いしたい」と意見を述べました。

              人材確保に向けた人員基準の緩和、各種加算を含む複数の報酬体系を見直しへ

              第4の柱は「介護人材の確保・介護現場の革新」であり、喫緊・重要な課題でもある介護人材の確保・介護現場の革新に対応することを基本としています。これを踏まえ、介護職員の処遇改善や職場環境の改善に向けた取り組みや、人員基準・運営基準の緩和、文書負担軽減等による業務負担の軽減の推進を目指す対応案が盛り込まれています。

              また、第5の柱として「制度の安定性・持続可能性の確保」を掲げ、必要なサービスは確保しつつ適正化・重点化を図るための対応についても明記されました。

              介護職員処遇改善加算に関しては、上位区分の算定率が高いことを踏まえ、1年間の経過措置期間を設けたうえで同加算(Ⅳ)および(Ⅴ)が完全廃止される見込みです。

              あわせて、介護職員等特定処遇改善加算について、小規模事業者を含む事業者がより活用しやすい仕組みとすることを目的に、以下の見直しを実施することが明記されました。

              ・平均の賃金改善額の配分ルールについて、「その他の職種」は「その他の介護職員」の「2分の1を上回らないこと」とするルールは維持した上で、「経験・技能のある介護職員」は「その他の介護職員」の「2倍以上とすること」とするルールについて、「より高くすること」とする。

              人材確保に関連した意見として、全国老人福祉施設協議会の小泉立志氏は「処遇や職場環境の低下を招かないことを前提に考慮すべき」と提言。対応案に概ね賛成の立場を示した他の委員からも、改定後の詳細な調査や検証を求める声が聞かれました。

              厚労省、次回分科会後に審議報告を取りまとめる見込み

              厚労省が今回提示した審議報告案について、多くの委員から多角的な意見や文言の適正化に関する要望があがりました。これらを踏まえ、分科会長の田中滋氏は「様々なご懸念や新しい提案を頂戴した。引き続き、事務局で今日の意見をしっかり検討し、次回の分科会での議論を経たうえで審議報告を取りまとめていきたい」と、今後の方針を示しました。

              議論が白熱する場面もあった本分科会ですが、次回の議論にて審議報告が取りまとめられる見込みです。引き続き、動向をチェックしていきましょう。

              引用:第196回社保審・介護給付費分科会「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告(案)の概要」、第194回社保審・介護給付費分科会「地域包括ケアシステムの推進」、第191回社保審・介護給付費分科会「自立支援・重度化防止の推進(検討の方向性)」、第190回社会保障審議会介護給付費分科会「令和3年度介護報酬改定に向けた各種調査の公表について」より

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