厚生労働省は11月29日、政府が閣議決定した2024年度の補正予算案を公表しました。
財政規模は8,454億円、そのうち介護分野で最も金額が割かれる「介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策」は1,103億円です。
具体策の中には、処遇改善加算(訪問看護ステーションの場合は医療保険の訪問看護ベースアップ評価料)を取得している事業所を対象とした「補助金の交付」が盛り込まれています。ただし、その用途には「職場環境改善等の経費に充てること」も想定されているため、活用方法は事業所によって判断が別れるかもしれません。
そのほか、訪問介護事業者に対する経営支援のための補助金も創設されるようです。それぞれのスキームを確認しましょう。
介護・医療・障害福祉分野の重点施策に「更なる賃上げ」
この補正予算の柱は、6つにまとめられています(画像)。
予算規模としては、Ⅰ.「医療・介護・障害福祉分野の更なる賃上げの支援等、医師偏在是正に向けた対策の推進」2,861億円、Ⅵ.「国民の安心・安全の確保」2,205億円、Ⅳ.「医療・介護DX等の推進」1,447億円などが大きくなっています。
(【画像】令和6年度厚生労働省補正予算案のポイントより)
このうち介護分野では、以下3つの施策をパッケージとした「介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策」(1,103億円)が主要な施策となっています。
- 処遇改善加算を取得している事業所のうち、更なる業務効率化や職場環境の改善を図る事業所への支援を実施する「介護人材確保・職場環境改善等事業」
- 生産性向上・職場環境改善等に関するテクノロジーの導入や投資に対する支援のほか経営等の協働化・大規模化への支援を実施する「介護テクノロジー導入・協働化等支援事業」
- 訪問介護事業所を対象とした経営支援やホームヘルパーの人材確保を促進する「訪問介護の提供体制確保支援」
(【画像】「令和6年度厚生労働省補正予算案の主要施策集」より。以下同様)
介護人材を対象とした「更なる賃上げ」の要件と補助金のスキーム
「介護人材確保・職場環境改善等事業」の概要説明資料には、「更なる賃上げ」策の実施が明記されています。
賃上げの手法は、介護職員等処遇改善加算の取得事業所を対象とした補助金の交付です。
補助金の申請にはサービス類計別に定められた「職場環境改善等に向けた取り組み」を行い、そのための計画策定等が要件になるようです。
「職場環境改善等に向けた取り組み」とは、以下の通りです。
| サービス類型 | 要件となる取り組み |
| 施設、居住サービス、多機能サービス、短期入所サービス等 | 生産性向上推進体制加算の取得等に向けて、介護職員等の業務の洗い出し、棚卸しとその業務効率化など、改善方策の立案を行うこと |
| 訪問、通所サービス等 | 介護職員等の業務の洗い出し、棚卸しとその業務効率化など、改善方策立案を行うこと |
施策の詳細は、同日発出された事務連絡で「検討中」とされていますが、補助額の用途がすべて人件費に固定されるわけではありません。「職場環境改善等の経費に充てる」ことも想定されていることには、留意すべきでしょう。
訪問看護ステーションにも補助金を交付
なお、介護職員等処遇改善加算の算定対象外である居宅介護支援事業所等へに対する手当てについては今回、言及はありません。
ただし、訪問看護については、医療保険の「訪問看護ベースアップ評価料」を算定しているステーション向けに介護施設・事業者向けのものと類似した補助金が設定されるようです。こちらは、金額が「18万円」と明記されています。
訪問介護や外国人材の確保にも補助金メニュー
介護人材の確保については、「賃上げ」や「職場環境の改善」以外にも幅広い施策が進められます。
その筆頭が、訪問介護等のサービスに特化した補助金(「訪問介護等サービス提供体制確保支援事業」)で、
- 研修体制づくりやホームヘルパーへの同行支援などにかかる経費を支援する「人材確保体制構築支援事業」
- 職員の常勤化の推進、経営や組織の大規模化・協働化などにかかる経費を支援する「経営改善支援事業」
の2つのメニューが用意されています。
加えて、人材確保を目的とした連携協議会の設置・運営や学生等をターゲットとしたホームヘルパーに関する広報等も推進が図られます。
(*関連記事:訪問介護事業に特化した支援策を実施―厚生労働省 2024年9月)
そのほか、
- 介護福祉士修学資金等貸付金貸付原資の不足が見込まれる自治体に対する原資の積み増し
- 海外での人材確保に資する取組(送り出し国の調査、訪問活動、現地説明会等)を行う事業所・介護福祉士養成施設・日本語学校等に対する支援
- 潜在介護福祉士等を対象とした公的人材機関による就職支援のモデル事業
- 地方自治体による介護未経験者を対象としたマッチング機能の強化
等に予算がつきそうです。
食材料費・光熱水費等の積極支援を自治体に呼びかけ
保険適用範囲のサービス提供価格が決まっている医療・介護・障害福祉各分野の経営においては、食材料費・光熱水費等の高騰による影響も深刻視されています。
こちらについては、エネルギーや食料品等価格の物価高騰の影響を受けた生活者や事業者の支援を図るために創設された「重点支援地方交付金」が補正予算で追加される方針です。
この交付金は地方公共団体の裁量で使えるものであるため、厚労省は、介護サービス事業所・施設等に対する支援にも活用することを改めてこのタイミングで呼びかけています。
なお、ここで紹介されている各事業の詳細は、いずれも現段階で「検討中」であり、今後の国会で審議される予定です。