厚生労働省は8月27日に社会保障審議会 介護給付費分科会をオンラインで開催。報酬改定に向けて、特養など施設サービスの議論が進みました。全国老人福祉施設協議会からは、新型コロナウイルスの影響で現場の負担が拡大する中、施設での高齢者死亡者数が他国に比べて少ない割合であることを評価すべきで、マイナス改定はあり得ない、プラス改定を実現してほしい、という強い要望があがっています。
全国老人福祉施設協議会は、下記の5つの視点から、基本報酬などの引き上げを求めました。
①約3割の特養が赤字で、再投下財産がない施設が約7割にのぼり、事業継続が厳しい状態にあること
②高齢者福祉施設の感染症対応を評価すること。全死亡者数に占める高齢者施設での死亡者数の割合が、フランスは51%、アメリカは39%、ドイツは37%であることに対して、日本は9%であり、感染防止策や体制構築を高く評価すべき
③介護事故報告の方法や内容について、運営基準上で明確に定義し、その取組を報酬において評価すること
④ICT導入推進にかかる体制整備(業務の役割分担から機器やソフトの活用など)を評価すること
⑤BCP(緊急時事業継続計画)や対応マニュアルの作成など、事業継続計画作成について運営基準上で明確に定義し、その取組を報酬において評価すること
既存の加算などについても、要件の見直しや新たな評価を求める様々な要望があがりました。一部抜粋してご紹介します。
●認知症専門ケア加算
人材確保の難しさや養成の手間に対して単価が低く、認知症ケアの取組が進みにくいという課題があるとして、加算Ⅱの対象職員を「認知症介護指導者修了者」ではなく「認知症介護実践リーダー研修修了者」に見直すなどの要件緩和を提案しています。
●看取り介護加算
看護師の配置や指針の策定、指針の見直しなどは体制加算として、日数の限定をなくすことを求めました。また、本人や家族等を総合的にケアするためにソーシャルワーカーの役割は重要であるとして、社会福祉士の関与を明確化し、評価を充実してはどうかと提案しています。
●CHASEなどデータ提供に関する評価
介護保険施設等におけるCHASEや通所介護におけるバーセルインデックスについて、取り組みを実施していることや、データ提供に対して加算で評価することを求めました。
●ADL維持等加算
算定要件が複雑で、事務負担等に見合った単位とは言い難いとして、下記の3段階に分けて評価することで、各事業所が取り組みやすいよう整備してはどうか、という提案がありました。
・第1段階…バーセルインデックスでADL値を測定し、データを提出することを評価する
・第2段階…「要介護度3以上の利用者が15%以上であること」、「初回の要介護・要支援認定があった日から起算して12ヵ月以内の利用者が15%以下であること」という要件を緩和した上で、評価対象期間の最初の月と6月目のBI利得上位85%の者の、BI利得合計が0以上の場合について評価する
・第3段階…1・2段階を満たした上で、評価対象期間の6月目と12月目のBI利得上位85%の者の合計が0以上の場合にさらに高く評価する
●生活機能向上連携加算
本来は、事業所単位の契約により成り立つ流れだが、個別ケアマネジメントの中で連携し、個々に算定することが望ましく、ケアマネジャーの調整で連携事業所の双方に加算が算定されなければ、取り組みは広がらないと意見しています。専門職の派遣元であるリハビリテーション事業所についても、派遣にかかる報酬上の評価を求めました。
●地域差を踏まえた送迎の充実(通所介護)
中山間地域や豪雪地域の送迎において時間や手間を要している現状から、送迎にかかる費用額の地域差を是正するために、地域特性に応じた加算の創設を求めました。
●介護予防ケアマネジメントの業務委託の価格設定
要介護者へのケアマネジメントと同等の労務負担にもかかわらず委託費が低いことで、居宅介護支援事業所の経営を圧迫しているとして、介護予防ケアマネジメントの委託料の上限額を撤廃し、人件費相当額等を上乗せした委託費に見直すことを求めました。
訪問介護、通所介護、居宅介護支援などに続き、今回、施設サービスからも基本報酬を引き上げる要望があがりました。介護業界だけでなく他業種でも、厳しい経営・運営状況が続くなか、プラス改定は実現するのでしょうか。議論の動向に注目しておきましょう。
引用:第183回社会保障審議会介護給付費分科会 小泉委員提出資料より
※本記事は「介護マスト」から移行しており、記事は2020年9月1日掲載のものです。
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