【今回インタビューした経営者プロフィール】
河野 淑孝 こうの・よしたか
株式会社ケアプラス 代表取締役
熊本に介護保険内の事業として、居宅介護支援と訪問介護、福祉用具の3事業を展開しています。
また、介護保険外の事業では介護に特化した人材紹介・派遣、初任者研修など介護資格のスクール事業、企業主導型保育園を展開しています。
私は医療法人で10年ほど役員として経営に関わっていましたが、病院の新築や電子カルテの導入などが一段落したタイミングで、ふと自分の人生について考えるようになりました。
自分と向き合った末に残ったのは、「社会の役に立ちたい」「自分の力を試したい」「いろんな場所に行きたい」という思いでした。
結果的に、これからますます高まるであろう在宅介護において質の良いサービスを提供し、スタッフが長く楽しく働ける会社を作ることを決意しました。
やはり訪問介護のヘルパーが足りないという課題です。
地域の訪問介護に対するニーズはかなり高く、開設から半年くらいでヘルパーの空きがないために新規依頼をお断りするケースが増えてきました。地域の役に立ちたいと起業したのに、いい形で応えられていない自分たちの不甲斐なさに落胆し、絶対に何とかしようと話し合いました。この悔しい思いが私たちを突き動かす原動力になっていると思います。
その頃、居宅介護でもスタッフの知り合いで働きたいといってくれた方がいましたが、保育園の空きがないために働くことができないということがありました。ようやく保育園が空き、入社してもらえたのは結局一年後のことでした。
ヘルパーが集まらない課題に対しては、自分たち自身で集めてみようと人材部門を立ち上げ、保育園の空きがない課題についても、自社の保育園があればいいということで保育園を立ち上げました。
その後、居宅のケアマネージャーも訪問介護のヘルパーも増えてきましたが、その多くは他の職場を辞めてケアプラスに来てくれた人でした。自分たちの会社のスタッフが増えるのはいいことですが、介護業界の中で奪い合いをしていても地域の介護人材不足は解消されない、という次の課題に直面しました。
人材不足解消のためにまず考えたのは、介護に携わる人を増やすことでした。社会的にも外国人材の受け入れというテーマが大きな関心を集めており、私自身も人材部門のスタッフを連れて数カ国を視察しましたが、結果的にケアプラスとしては日本人の介護人材の育成・教育に注力することにしました。外国人材の受入れ自体を否定しているのではなく、ベトナムなど現地送り出し機関との連携で不安があったことと、熊本という地域の介護の現状を考えたときに外国からの人材を責任をもって受け入れられるという確信が持てなかったからです。
そこで国内で介護人材を育成するために、入門的な資格である介護職員初任者研修を開講することにしました。受講料を安くすれば集まるだろうと安易な気持ちでスタートしましたが、期待していたほど受講生が集まらなかったため、半年くらいたったところで受講料を無料にしようと決めました。
社内から戸惑いの声もありましたが、いざ無料にしてみると口コミで広がり数ヶ月後にはキャンセル待ちが出るようになりました。生徒が増えたことで講師のモチベーションもあがり、生徒のみなさんから感謝の声も多くいただくようになりました。収入はないのでもちろん赤字ですが、他の部署のスタッフもその意義を十分理解してくれており、無料の初任者研修講座はケアプラスの社名に込めた思いを具現化する大切な事業になっています。
最初は収入がなかったスクール事業ですが、初任者研修修了生から介護福祉士実務者研修も開講して欲しいという要望もあり、2年目からは有料で実務者研修講座も開講しています。
4年目の現在は初任者研修と実務者研修の受講者数もかなり増え、毎年10名ほどヘルパーとして入社してくれるようになりました。また受講生の就職相談も増えたので、人材部門も介護に特化して人材紹介だけでなく人材派遣の認可も取得しました。介護スクールと人材部門が密に連携を取りながら、地域の介護人材の育成と定着に寄与したいと考えています。
私は介護の現場経験がないので実務はみんなに任せきりですが、では自分の役割は何かと考えてみると、スタッフのみんなが活躍できる舞台を整えることだと思っています。
労働環境を整えることももちろん大事ですが、自分たちの仕事に誇りを持てることはそれ以上に重要です。利用者様やご家族からあなたでよかったと感謝されたり、自分たちが社会に貢献できていると実感できる仕事をしたいですね。
知識も経験値もまだまだ足りませんが、地域の解決すべき課題は何かを考えたり、その課題の根っこはどこにあるのかを探ったり、いろんな解決策を模索したりすることは本当に楽しくて夢のあることです。
うまくいかない原因を制度や環境のせいにするよりも全部自分たちで解決するつもりでやる方が楽しいですし、起業してたった5年の期間を振り返ってみてもあきらめなかったことで乗り越えられたことの積み重ねだったような気がします。
これからも想定外の事態は起きるでしょうし、私たちを取り巻く環境も目まぐるしく変化するでしょう。未来を正確に予測しようとすること自体あまり意味はないし、どんな状況でも楽しめる人や組織が強いと思います。
世界で一番高齢化の進んだ国で介護事業に携わるということは、広い世界の一番端っこで仕事をしているようなものです。介護の問題を解決したり状況を打開するようなアイデアを生み出すためには、もっともっと成長する必要があります。そもそも課題を解決する以前に適切な課題を見つけて設定できるかが問題で、そのためには社会を時間的にも空間的にも俯瞰でき、しかも高い解像度で見る力が必要であるような気がします。
起業してから意識的に海外に行くようになりましたが、自分がいかに知らないかということを知ることができました。また世の中が落ち着いたらいろんな国に行きたいですし、事業を軌道に乗せて他のスタッフにもどんどん海外に行ってもらいたいと思っています。
楽しみながら一人一人の世界が広がって、結果的に組織としても強くなれば理想的ですね。
まずは在宅介護サービスをさらに充実させて、施設介護については人材育成や福祉用具などでお手伝いができればと考えています。
また介護スクールでは資格の取りやすい環境をさらに整えて地域に介護の有資格者をどんどん増やしたいですね。一人一人の専門性が上がることで地域の介護サービスの質が上がり、組織の生産性も上がり、個人の給与水準も上がれば三方良しだと思います。
介護事業以外の人材事業や保育事業で、高齢者とは違う世代との接点ができたことで企業としても可能性が広がったと感じています。
現在の事業内容は起業したときに描いていた事業展開とは違いますが、仕事をする中で浮かび上がってきた課題を克服するためにがむしゃらにたどってきた結果ですし、これからも目の前の課題を解決するために必要な手を打っていくという形かなと思います。
5年後や10年後にどうなっているのかわかりませんがとにかく楽しみです。
社会に必要とされ続けるためにはどうあるべきか、私たちはどう生きるべきか、終わりのない問いと向き合い続けたいと思います。
介護経営ドットコムの記事を制作・配信している編集部です。日々、介護事業所を経営する皆さんに役立つ情報を収集し、発信しています。