社会保障審議会では2022年度診療報酬改定について基本方針がまとめられたところです。12月10日の中央社会保険医療協議会(中医協)は、それを受けた意見を後藤茂之厚生労働相に提出しました。改定の基本方針には、重点課題として「質の高い訪問看護の確保」も位置付けられています。
これまで、訪問看護の方向性について検討されてきた内容を振り返ってみると、医療的なニーズを抱えたまま退院する患者がスムーズに在宅に戻るために、訪問看護ステーションがその力を発揮することが求められているといえます。
複数名訪問看護加算や退院支援指導加算の見直しを巡る検討に主眼を置き、退院時の評価を巡る議論を振り返ります。
中医協で、急性期医療や在宅医療といった分野ごとの改定方針について検討が始まって以降、訪問看護をテーマとした議論は3回行われました。個別の改定項目まで落とし込んだ検討事項は、例年通り年明け以降に示されることになるでしょう。その前に今年末には、財務相と厚生労働相間の予算の折衝を経て、診療報酬全体の改定率が決定します。
訪問看護の改定方針を巡る3回目の検討の場では、厚生労働省が検討すべき事項について、
1.訪問看護の提供体制 2.利用者の状態に応じた訪問看護の充実
を軸として整理していました。
1の切り口としては、これまで、
・24時間対応体制加算の見直しとBCP策定の義務化による有事対応 ・ICTを活用した看取りに係る医師との連携の評価と、退院直後のターミナルケアの評価の見直し(在宅での看取りを支援する体制の整備) ・機能強化型訪問看護ステーションにおける役割の強化
が検討されてきたことを当サイトでご紹介してきました。
今回は、2の「利用者の状態に応じた訪問看護の充実」を進めるためのに検討された「複数名訪問看護加算等」と「退院支援指導加算」を巡る現状と中医協での議論について確認しておきます。
まず、前者の複数人での訪問看護の評価についてです。
見直しのテーブルに上ったのが、末期がんや人工呼吸器を使用しているような重度の医療ニーズを持つ利用者などに対し、複数名で訪問看護サービス提供した場合を評価する「複数名訪問看護加算」(訪問看護基本療養費)です。
複数名訪問看護加算は、看護師等と同行訪問する職員の職種によって算定できる金額が異なっています。現行では、このうち、看護補助者との同行訪問のみ、1日に複数回の訪問を行った場合に、より高い報酬評価が得られる仕組みが採用されています。
しかし、看護師同士による訪問や准看護師らとの同行の場合は、1日に複数回訪問することへの評価はありません(下の図表参照)。
【画像】第500回中央社会保険医療協議会資料より抜粋(赤枠を編集部で追加)
そこで今回は、同加算について「看護師同士」や「准看護師の同行」などの場合にも、上位の加算区分を新たに設けるべきかどうかが検討されました。
複数名訪問看護加算の算定回数は全体として増加を続けている一方、訪問看護ステーションに所属する看護補助者は職種別従事者のわずか1%という現状もあります(下の画像参照)。こうした事情を考慮すると、ほかの職種でも複数名かつ複数回訪問する場合が十分評価されれば、医療ニーズの高い在宅療養者への手厚い支援や訪問看護ステーションの職員の労働環境の改善に結びつく可能性があります。
【画像】第500回中央社会保険医療協議会資料より抜粋
こうした方向性に沿った見直しについて委員からは、「看護補助者の場合も含めて本当に複数回の訪問が妥当であるのか、一定の歯止めを設けるべきではないか」という指摘があったものの、反対意見はありませんでした。
また、類似する検討項目として、難病等複数回訪問加算(訪問看護基本療養費)の見直しについても協議されています。
こちらは、医療ニーズが高い利用者に対して1日に複数回の訪問看護の提供することを評価する加算です。
今回は、この加算の区分を細分化し、現行の「1日に2回」や「1日3回以上」よりも多い回数の訪問を適切に評価する仕組みを設けることが検討されました。
利用者の状態に応じた訪問看護の充実を図るためのもう一方の検討事項とされた「退院支援指導加算」の見直しは、より多くの利用者や訪問看護ステーションに関わってくるかも事柄かもしれません。
見直しの背景には医療政策全体の方向性として早期の退院が促進されていることなどを受け、退院直後の支援の重要性が増していることがあります。実際に、退院日に在宅療養上必要な指導を行った場合に訪問看護ステーションが算定できる退院支援指導加算の算定者数は増加を続けています(下記画像参照)。
同加算の要件や評価の在り方を見直すために厚労省が示した資料には、退院日当日に長時間の訪問が一定程度実施されている実態も示されていました(下記画像参照)。
なお、中医協では、退院当日の訪問看護基本療養費の算定や、訪問看護ターミナルケア療養費の算定の在り方の見直しについても並行して検討が進んでいるところです。
退院当日に訪問看護ステーションの看護師らの訪問を必要とする利用者像について、島弘志委員( 日本病院会副会長)は、在宅療養に移った患者の医療ニーズは高く、退院支援指導加算を算定し、療養上の指導などを行った当日の夜でも、その状態の確認などのために訪問看護が必要になるケースがあることなどを訴えました。
保険者の立場からは、松本真人委員(健康保険組合連合会理事)が「単純に時間というファクターだけで点数に差を付けようというのは不十分」として、患者の状態や実際のケアの内容などを考慮した上でメリハリのある評価を求めました。
また、佐保昌一委員(連合総合政策推進局長)は、 退院当日に長時間の訪問をしていたり、そこで提供しているケア内容が医療処置だったりという実態について、「指導という範疇を越えている」として、評価対象となる対象を限定したうえで制度の見直しを検討して行くことを提案しました。
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