社会保障政策について検討する舞台の一つに、政府が設置している全世代型社会保障構築会議があります。2022年2月から実施されている一部介護職員や看護師らの賃上げは、この下部会議が決定した仕組みに沿って実現しました。5月17日にはこれまでの検討内容が、中間的にとりまとめられ、高齢者などの住まいの確保策やヤングケアラーへの支援などが盛り込まれています。この内容は、今後の介護保険制度改正を巡る議論も牽引していくことになります。
全世代型社会保障構築会議は、21年に岸田文雄首相が就任した直後に長寿・少子化社会下の社会保障全般の総合的な検討を行うために設置された会議です。経済や公共政策の専門家などのメンバーで構成され、年金や労働なども含めた制度改革について集中的に議論する場として位置付けられています。
ここでは現在、同会議は「人への投資」をテーマに、子育て支援策の拡充や多様な雇用形態に対応した被用者保険の在り方、家族の介護負担軽減などについて検討しているところです。
また、政府の方針によって2022年2月から実施されている介護や保育、看護領域で働く人の賃上げは、同会議の下に設置された「公的価格評価検討委員会」がその後の方向性について示していました。
21年末に、委員会として ・賃上げの最終的な目標を「職種毎に仕事の内容に比して適正な水準まで引き上げ、必要な人材が確保されていること」におくこと ・賃上げに関する施策を特に20 年代に注力すべきであるとすること などを提言しています。
全世代型社会保障構築会議による暫定的な取りまとめでは、社会保障制度の構築に当たってその焦点を、「高齢者人口がピークを迎えて減少に転ずる 2040 年頃」に置くこと、各種の課題を短期的、中期的、長期的に整理した「時間軸」とニーズや資源の違いを踏まえた、「地域軸」を意識しながら計画的に対策を講じていくべきことなどが指摘されています。
この考え方は、現在社会保障審議会で進んでいる次期介護保険制度改正を巡る検討でも、前提として扱われています。
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【画像】全世代型社会保障構築会議 議論の中間整理(5月17日概要版)より
また、この中間とりまとめは社会保障全般を巡る給付と負担の在り方について、「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心となっているこれまでの社会保障の構造を見直し、将来世代へ負担を先送りせずに、能力に応じて皆が支え合うことを基本」とすると、改革の方向性を示しています。これを踏まえると、その具体像はまだ見えにくいものの、介護保険領域全体に投じられる財源が増えることは考えにくそうです。
ここまでは社会保障制度の改革全般に関する部分でしたが、介護分野に関わる個別の論点としては、大きく3つの課題・方向性が示されました。
まず、今後の要介護高齢者の大幅増加に加え、単身・夫婦のみ世帯、認知症の人の増加、家族の介護力低下が予想されること、介護と仕事との両立を助ける施策の重要性についてです。
【介護保険制度周辺において求められる取り組み】 ・圏域ごとの介護ニーズを踏まえたサービスの基盤整備 ・地域全体で在宅高齢者を支えるサービス基盤の整備(医療・介護連携体制の強化など) ・介護予防や社会参加活動の場の充実 ・介護休業制度の周知の強化、男女ともを対象とした離職防止に向けた対応 ・認知症に関する総合的な施策の更なる推進(要介護者・家族介護者等への伴走型支援、成年後見・権利擁護支援など) ・ヤングケアラーの実態把握と効果的な支援策
次に、孤独・孤立や生活困窮の状態にある人々が地域社会と繋がりながら、安心して生活を送れる仕組みづくりの必要性を指摘しています。また、このテーマでは「住まい」の確保策についても制度的な対応を含めて検討するよう求めています。
【介護保険制度周辺において求められる取り組み】
・ソーシャルワーカーによる相談支援や、多機関連携による総合的な支援体制の整備 ・相談支援等における分野横断的な取り組みの推進 ・地域課題の解決のための互助機能の強化 ・独居の困窮者・高齢者等の住まいの確保策 ・老齢期の住まい確保について、地域とつながる居住環境、見守り・相談支援の提供を含めた検討(ICTの活用や空き地・空家の活用やまちづくりも含む)
3つ目の論点として、医療・介護提供体制の改革や社会保障制度基盤の強化の取り組みを必須としているほか、データの連携や活用がサービスの質の向上等に重要な役割を果たすことを指摘しています。
【介護保険制度周辺において求められる取り組み】 ・医療を含めた各サービスの機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の改革の推進。 ・個人・患者の視点に 立ったデータ管理、社会保障全体のDX推進、ICTの活用 ・費用の見える化、タスクシェア・タスクシフティング、経営の大規模化・協働化の推進
このうち、 市町村における重層的支援体制整備事業などの整備や生活困窮者への自立相談支援等の推進、認知症サポーターが活躍できる場の整備、成年後見制度を含めた総合的な権利擁護支援の推進などといったトピックは、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案にも記載されており、23年度の予算編成にも反映される可能性が強い状況です。
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