訪問看護事業者が事業所を運営するにあたり、守らなければならない基準の一つに『人員基準』があります。
訪問看護ステーションを経営している方の中には、「看護師がいきなり辞めてしまって、人員基準を満たせなくなってしまった」、「募集をかけているけれど、なかなか応募者が集まらない」など、人材の確保・定着にお悩みの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、訪問看護の人員基準と人員基準を満たせなかった場合の対応、職員に長く働いてもらうための取り組み例などをご紹介していますので、ぜひご一読ください。
訪問看護の人員基準とは、国や指定権者(都道府県または市)が定める『訪問看護事業所で確保するべき従業員の資格や員数』についてのルールです。ここに定められる内容は、訪問看護事業所が、利用者様の尊厳保持や日常生活における自立支援に向けた適切なサービスを提供するために必要とされる職種・員数等ですから、事業者が最低限、満たさなければならない条件となっています。
介護保険法に基づく指定を受けた場合は、健康保険法に基づく訪問看護事業者の指定も受けたとみなされます。ここからは、健康保険法における人員の基準との違いにも留意しながら、介護保険法における訪問看護の人員基準を確認していきます。
訪問看護ステーションに定められる人員基準は、『看護職員』、『理学療法士等』、『管理者』となっています。
看護職員は、常勤換算で2.5人以上の配置が必要です。
また、そのうち1人は常勤で配置しなくてはいけません。
【看護職員の資格】
※健康保険法に基づく指定のみを受ける場合、助産師を含みます。
理学療法士等のリハビリ専門職は、訪問看護ステーションの実情に応じた適当数を配置します(配置しないことも可)。
【理学療法士等の資格】
管理者は、専従かつ常勤で1人の配置が必要です。
管理者の業務に支障がない場合には、訪問看護ステーションの他の職務や、同じ敷地内にある別の事業所・施設などの職務に就くことができます。
【管理者の資格・経験】
病院・診療所が行う訪問看護に定められる人員基準は、『看護職員』だけです。
病院・診療所が行う訪問看護では、理学療法士等がサービスを提供することはできないため、職種として定められていません。
看護職員は、病院・診療所が行う訪問看護の実情に応じた適当数を配置します。
常勤換算とは、常勤の職員を「1」としたときに、非常勤の職員等が常勤の何人分であるのかを求める計算方法です。人員基準に定められる看護職員の「2.5人」というのは、非常勤職員の勤務時間数も含めて常勤換算で計算し、人員基準を満たしているか否かを確認することになります。
【常勤換算数の計算方法】
「職員の勤務延べ時間数」÷「常勤職員の所定勤務時間数」=常勤換算数
看護職員の常勤換算数の計算例を見ていきましょう。
この事業所での常勤の勤務時間を週40時間とすると、以下のようになります。
40
1
14
0.35
18
0.45
2.8
このような配置状況でしたら常勤換算数で2.8人となるので、この事業所は看護職員の人員基準である「常勤換算で2.5人以上」を満たしていることが分かります。
育児や介護といった理由で短時間労働を行っている職員がいる事業所は、常勤換算数を計算する際に注意が必要です。
育児・介護による短時間労働の職員は「30時間以上勤務した場合」、常勤の職員が勤務すべき時間数を満たしたものとされます。
育児・介護による短時間労働の常勤職員がいる場合は以下のようになります。
30
訪問看護の設備基準とは、国や指定権者(都道府県または市)が定める『訪問看護事業所で確保するべき設備や備品』についてのルールであり、指定を受けた訪問看護事業者が最低限満たさなければならない条件です。
介護保険法に基づく訪問看護の設備基準は、平成十一年厚生省令第三十七号「指定居宅サービス等の人員、設備及び運営の基準」に定められ、『訪問看護ステーションの場合』と『病院または診療所の場合』のそれぞれについて定められています。
訪問看護ステーションの設備基準については、こちらの記事に詳しくまとめていますのでご覧いただけると幸いです。
介護保険法に基づく訪問看護の運営基準には、サービスの提供にあたって、作成しなくてはいけない書類や説明・確認しなくてはいけない内容など、事業所の運営にあたって遵守しなくてはいけない基準が定められています。
訪問看護ステーションの運営基準については、こちらの記事に詳しくまとめていますのでご覧いただけると幸いです。
訪問看護ステーションを運営するなかで、急な退職等により人員基準に違反してしまう場合があり得ますので、その時の対処方法について見ていきましょう。
「常勤の看護師が辞めてしまったけど、代わりの職員の採用がうまくいっていない」など、人員基準を満たせない状態になった場合は、まず指定権者(都道府県・市の介護保険課等)に報告・相談しましょう。
そこで、報告書の提出の有無、事業所の運営の可否、サービス提供の可否、報酬等のペナルティなどを確認します。また、採用活動を継続し、採用できた場合に報告書の要・不要についても確認しておきましょう。
もし、行政へ報告・相談をせずに人員基準を満たしていない状況で運営を続けた場合、人員基準違反として行政指導や行政処分が行われる可能性がありますので注意しましょう。
訪問看護の人員基準に違反し、運営を続けた場合に、行政の指導・処分の事例をご紹介します。
【東京都八王子市における指定取消の事例】
指定申請時点で看護職員の数が常勤換算方法で2.5人を下回る状態だった。にもかかわらず、常時勤務のできない看護師を常勤扱いとして「従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表」を作成。不正な手段により指定訪問看護事業所・指定介護予防訪問看護事業所の指定を受けた。
【愛知県における指定取消の事例】
監査時に、常勤の看護職員として指定申請した2人が、実際は非常勤のパート職員であるにもかかわらず、常勤職員であると偽るため、虚偽のタイムカード・給与明細を愛知県に提出した。また、常勤の看護職員として指定申請した2人が、実際は非常勤のパート職員であるにもかかわらず、常勤職員であるとの虚偽答弁を行った。
このような事例も踏まえて、訪問看護の人員基準に違反しないためにも、職員の採用や離職防止のための取り組みに力を入れる必要があります。
人員基準を遵守するには、「従業員を募集したら応募がある職場であること」、「従業員が辞めない職場であること」が重要です。
そのために、看護師等が「どのような理由から離職しているのか」を把握しておきましょう。
介護労働安定センターが発表した「令和3年度介護労働実態調査」によると、訪問看護における「前職をやめた理由」は以下のようになっています。
【前職をやめた理由(一部抜粋)】
このような調査結果も踏まえて、以下のような職員の採用や離職防止のための取り組み例が挙げられます。
【採用・離職防止の取り組みの例】
訪問看護ステーションの人員基準で特に重要なのは、「看護職員」を「常勤換算方法」で「2.5人以上」確保することです。そのためにも「職員から退職の意向を聞いた時」、「職員の増員が必要だと感じた時」には、採用活動を早急に進めることが大切です。
管理者・経営者の方々は、日々の業務に追われ「採用強化・離職防止の取り組みに着手できる時間がない」と苦慮しているかもしれませんが、適切な事業所運営を続けるためにも、職員・応募者が魅力的だと感じる職場を目指して、更なる取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。
ここでご紹介した内容が、皆様の事業所の取り組みを考えるきっかけになれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。