基本サービスとしての「口腔・栄養ケア体制」いずれも対応の特養は約5割、新設加算の算定は限定的

2022.01.26
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2021年度介護報酬改定によって、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、以下・特養)では口腔・栄養ケアに係る体制整備や管理が基本サービスに組み込まれています。3年の猶予措置が設けられていますが、福祉医療機構の調査結果によると、約5割の施設事業所がいずれも既に「対応している」ことがわかりました。栄養ケア体制と比べやや低い水準に留まった口腔ケア体制では「歯科医院等との連携」等の要件がネックとなってると考えられます。

また、新設されたADL維持等加算や自立支援促進加算の算定率は低く、加算取得に関する事務作業負担の増加を訴える声が目立ちます。

以前ご紹介した福祉医療機構の調査結果をもとに、特養における報酬改定の影響を読み解きます。

*関連記事:LIFEの利用状況、サービス種別間で格差―登録率は老健がトップ通所介護はコロナ禍で収益低下も報酬の特例措置活用は約3割、入浴介助加算の改定に不満の声も

調査と回答者の概要

本アンケートは、福祉医療機構の貸付先のうち、介護保険法に基づくサービスを実施する 5,701法人を対象にWeb上で実施されました。

・アンケート実施期間:2021年7月29日から同8月25日まで
・アンケートへの回答総数:1,446法人(社会福祉法人は71.4%、医療法人は15.3%、営利法人は10.3%)
・アンケート回答率:25.4%

回答事業所のうち、特養の構成は「広域型(小規模型を含む)」が約8割、「地域密着型」が約2割、居室タイプは約6割がユニット型(複数回答可)でした。

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【画像】WAMの2021 年度介護報酬改定に関するアンケート結果より抜粋

特養の基本報酬の引き上げ分は加算の廃止による減収にてほぼ相殺

2021年度介護報酬改定にて、特養の基本報酬は1日当たり14〜16単位引き上げられました。その一方で、口腔衛生管理体制加算と栄養マネジメント加算が廃止となり、それらの算定要件が運営基準に組み込まれています。

これを受け、基本報酬の引き上げ分は同加算の廃止による減収にてほぼ相殺される結果になりました。前年同時期比におけるサービス活動収益に関する調査でも、ほとんどの定員規模区分で約6割〜7割が「横ばい」と回答しています。

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▲前年同時期比サービス活動収益(定員規模別)

新たに運営基準に組み込まれた口腔・栄養ケアに係る体制への対応状況は、51.7%の施設が「口腔・栄養いずれも対応」と回答。「口腔のみ対応」は5.0%、「栄養のみ対応」は26.6%との結果となりました。

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▲口腔・栄養ケアの実施体制への対応状況

【画像】2021 年度(令和3年度)介護報酬改定に関するアンケート調査(前編)(以下、同様)

ただ、栄養ケアへの対応を行っている施設が約8割に達しているのに対し、口腔衛生の管理体制への対応は6割以下と比較的低い水準に留まっています。要因として、歯科医院等との連携や、歯科医師等が介護職員に対して技術的助言等を年2回以上実施する要件が対応のハードルを高めていると予測されます。

新設されたADL維持等加算、自立支援促進加算は大部分が算定に至らず

2021年度改定で新設されたADL維持等加算、自立支援促進加算の算定状況はいずれも低水準に留まり、積極的な算定を促すには課題が残る結果となりました。

ADL維持等加算では定期的なADL評価の実施がネックに

これまで通所介護に設けられていたADL維持等加算が特養にも適用された今改定でしたが、調査時点での算定状況は同加算(I)・(II)を合わせても2.1%という結果に。「算定予定」と回答した11.0%を含めても、非常に低い水準に留まりました。

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「算定予定なし」とした理由については、「かかるコスト・手間が加算額に見合わない」が40.5%ともっとも高く、次いで「算定要件(定期的なADL評価)を満たすことが難しい」が25.9%でした。

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対象者全員への実施が求められるADL評価・測定に対し、時間やコスト面等から難しい現場の実態が推察されます。

自立支援促進加算では医師等による医学的評価の実施に難あり

自立支援促進加算の算定状況をみると、「算定している」が6.2%、「算定予定」が11.7%と、ADL維持等加算よりは若干高いものの、算定に前向きな回答が2割以下に留まる結果となりました。

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「算定予定なし」とした理由については、「算定要件(医師等による入所時の医学的評価)を満たすことが難しい」が42.9%を占めました。

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1月につき300単位と報酬は高い反面、算定には医師が入所者ごとに自立支援に係る医学的評価を入所時に行うことや、医師が自立支援に係る支援計画等の策定時に参加することなどが求められます。今後は嘱託医との連携強化や評価への関与をいかに図れるかが、算定率を左右するポイントとなるでしょう。

現場は事務負担増で打撃、加算重視の現行制度に対する不満の声も

21年度介護報酬改定改定に関する自由意見では、「ベースとなる基本単位のアップ率が低い。加算取得のための事務量が年々増えており、誰のための何の仕事をしているのか見通しが立たない」など、加算の取得にかかわる事務作業量の負担が増大している状況への厳しい意見が聞かれました。

加算の廃止に伴う運営基準への追加、新設加算の取得に向けた対応等、深刻な人手不足に新型コロナウイルス感染症の影響がのしかかる昨今、膨れ上がる負担に懸命に向き合う現場の声に耳を傾けた体制作りが期待されます。

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