看護師の定着に向けた役割と段取りの明確化―理論に基づく訪問看護経営(8)

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前回は、組織の健全性を実現していくために活用できるフレームワークGRPIモデルにおいて最も重要な『目的・目標(Goal)が明確になっている状態』をどの様にして作っていくかについて説明をいたしました。今回は、GRPIモデルのうち、『Roles(役割)』と『Process(段取り)』について詳説して具体的に訪問看護ステーションでどのようにいいチーム作りをしていくか説明していきたいと思います。

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チームメンバーの『Roles(役割)』は明確になっているか?

前回、GRPIモデルを活用した良いチーム作りに最も大切な要素である『目的・目標(Goal)』を明確にする方法について説明をしてきました。では、二つ目の要素である『Roles(役割)』についてはどうでしょうか。

以前にも取り上げましたが、訪問看護ステーションの職員からよく上がる不満には、「管理者が意地悪で、私ばかり大変な役回りをさせられている」というものがあります。この様な不満は『Roles(役割)の不明確さ』に起因していると考えられます。それでは、どうしたらRoles(役割)が不明確では無くなり、こういった不満や不和を防ぐ事ができるのでしょうか。

まず念頭においておく必要があるのは、業務や役割を分担して事業を行うのは目的・目標(Goal)の達成のためであるということです。ですので、訪問看護ステーションにおいては目的・目標(Goal)の達成のために必要な業務・役割が組織で全て網羅されており、かつメンバーのスキル・知識・経験を存分に活かせるような役割分担や訪問スケジュール等が割り振られているということが重要です。しかし、その役割や業務分担は管理者の頭の中だけで行われ、何故そうなっているのか、他の人はどのような役割を担っているのかが共有されていないと上記のような「私ばかりが・・・」といった不満が生じやすくなってしまいます。そこで、経営者や管理者は各職員がどのような役割や業務を担っているか、そして任せたのは何故なのかということを本人が腹落ちするだけではなく全職員に共有され合意形成をする機会を持つ必要があります。

チームのRoles(役割)が明確になっている状態についてまとめると、下記の様に考えられます。

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このような状態を実現するためには、職員が自らの役割や業務に自信がもてるように経営者や管理者が1on1等の定期的なコミュニケーションの機会を設けて職員個々の不安を取り除き、エンカレッジするような関わりも重要になります。そのためには日々、職員が業務に取り組む様子をよく観察し、適宜声かけや必要であれば対話をしていくことが効果的です。

また、前提として、採用の段階で個々の職員に対してどの様な役割や業務を担うことを期待しているのかを伝え、応募者のスキル・知識・経験やニーズとマッチしていることをお互いに確認しておくことも重要になります。そうすることで、採用後にお互いのニーズのアンマッチを最小限に防ぐ事ができます。

チームの『Process(段取り)』が明確になっているか?

次に3つ目の要素である『Process(段取り)』についても説明していきたいと思います。前々回、訪問看護ステーションの職員からよく上がる不満として「契約や事務仕事を教えてもらっていないし、マニュアルも無いのに、ちゃんとやっていないと先輩看護師から怒られる」という例を挙げました。この様な不満は『Process(段取り)の不明確さ』に起因していると考えられます。それでは、どうしたらProcess(段取り)が明確になり、こういった不満や不和を防ぐ事ができるのでしょうか。

まず、Process(段取り)の明確化のためにはマニュアルや手順書の作成と共有をすることになります。その際には訪問看護における手技やケア手順はもちろんですが、それだけではなく営業や新規受け入れの一連の流れや契約業務等の事務的な手順についても作成しておくと、そういったケア以外の慣れない業務に不安を感じている新入職看護職員の不安を軽減する事ができます。また、個人によってどうしても対応が異なってしまいがちなインシデント発生時の報告や対応方法、日々の業務に関する相談やスタッフ間の連携に関する手順を明確化しておくのも有効です。これらを共有しておくことで、職員個々の能力等に差があってもケアや業務を一定の水準に保ち、ひいては質の向上につなげていく事が可能になります。さらに、事業所内の意思決定フローや目標に関する評価制度が明示されていることも必要です。

チームのProcess(段取り)が明確になっている状態について、以下にまとめてみましょう。

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こうして言葉にするのは簡単ですが、個人的にはこの段取りの明確化が実務的に一番難しいところなのではないかと感じています。何故ならばマニュアルの作成自体が目的化してしまったり、マニュアルが形骸化してしまったりすることが往々にして起こるからです。

ですので、全てのマニュアルや手順書を作成するのではなく、ケアや業務を一定に保ち、ひいては質の向上につなげ自社の目指す目的・目標(Goal)に近づくために欠かせないProcess(段取り)をまず見極め、明示化したうえで共有すると良いのでは無いでしょうか。併せて留意しておきたいこととしては、何かを一度始めてしまうと中止や変更をすることが難しいということです。そのため、中止や変更するための意思決定フローも必ず明示化しておくことが重要です。特に、経営者や管理者の発案で始めたことについては、職員からやめたい、やり方を変える必要があるとはなかなか言い出しづらいものです。ですので、そういった意見が言える様な心理的安全性の保たれている職場づくりを心掛けるほか、日々の業務フローの中に見直しの機会を最初から組み入れたり、手順を明確化したりしておくといいでしょう。今ある手順の見直しに関して、自らの意見が反映されることは、仕事のやりがいやチームへの帰属意識を高めることにもつながるのでは無いでしょうか。

今回は、GRPIモデルを用いて『Roles(役割)』と『Process(段取り)』が明確になっているという状態をどの様にして作っていくかについて説明をいたしました。この二つの要素が明確になっていることでサービスの質→顧客満足度→業績が連続して向上していく良い循環のきっかけが生まれると考えられます。それでは次回は最後の要素である『Interpersonal Relationship(人間関係)』について詳しく説明をしていきたいと思います。

参考文献

• Beckhard, R. (1972). Optimizing Team Building Effort. Journal of Contemporary Business, 1(3), 23‒32.

• Steve Raue, Suk-Han Tang, Christian Weiland and Claas Wenzlik.(2013). The GRPI model ‒ an approach for team development

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