介護業界で働く人々と介護事業所をオンラインで繋ぐマッチング事業に取り組み、注目を集めている若手起業家がいます。大学時代に訪問介護事業所を設立し、現在は、株式会社み─つけあの代表を務める洞汐音(ほら・しおん)さん。 「介護にかかわるすべての人を繋ぐ」というコンセプトのもと、難しく見えがちな介護業界の情報をオンライン上でわかりやすく利用者に伝え、介護業界の人材不足を解消するためのマッチング事業に取り組む洞さんに、介護経営の未来像について聞きました。
*連載記事:介護業界のDXを推進するキーパーソンたちに聞く─ DXで介護経営の未来はどう変わる?(1:一般社団法人日本ケアテック協会代表理事・鹿野佑介さん)、(2:社会福祉法人善光会・宮本隆史さん)
【画像】洞 汐音氏
高校まで米国カリフォルニア州ロサンゼルスで育ち、日本に帰国してから介護領域で起業した経歴を持つ洞さん。若い時から介護に目を向けた理由を尋ねると、「早稲田大学への進学のため日本に帰国し、祖父母が暮らす家に通っていた時に、生活の中で介護が必要となっている局面が見えてきました。自分自身も巣鴨という高齢者が多いエリアに住んでいたこともあり、超高齢社会の日本が抱える介護の課題に関心を持ちました」。
当時、製薬企業でインターンとして働いた経験をもつ友人から、日本の介護保険制度の複雑さや介護職の低賃金問題などについて知らされ、海外と日本の保険制度の仕組みの違いについて調べるように。2016年には、大学時代に自ら訪問介護事業所を設立し、ヘルパーの仕事も経験しました。
介護現場を経験する中で、介護保険制度は3年に1回の改正の度に規約や確認事項が増え、書類仕事が煩雑になりがちであること、そのため書類の作成・管理にも手間がかかり人件費が低く抑えられがちであること、また、運営上ではファックス中心の紙のやりとりや電話での伝達が主流であり、ICT化の遅れが運営の効率化を妨げている事実に気づきます。
そこから、非効率な面がまだある介護業界の運営の仕組みをデジタルトランスフォーメーション(DX)で効率化することで人手不足の課題を解消し、ヘルパーの賃金水準も高めていこうという、現在の起業プランにたどり着いたといいます。
「み─つけあ」という社名は、「介護にかかわるすべての人を繋ぐ」というコンセプトのもと、meets(会う)+care(ケア)から名付けました。世界一の高齢化率を誇る日本で、介護ニーズは年々高まる一方。しかし、いざ介護が必要になった時、市町村や地域包括支援ケアセンターなど、介護にかかわる公的機関に迷いなくアクセスできる利用者ばかりではありません。
「まず一般の方にとって、介護保険制度はとても複雑に見えると思います。自分の家族に介護が必要になった時に、どこから情報を探したらいいのか、認定や制度はどうなっているのか、手続きをどうするべきなのか、介護に関する基本的な知識や情報を持っていない方がまだまだ多い。すでに介護保険サービスを利用している方の中にも、例えばケアマネジャーとの相性の悪さを感じているのにもかかわらず、『ケアマネジャーは変更できない』と思い込み、何年も我慢している方もいます。知識のなさから希望する介護を受けられていない方が多いことが、大きな課題と考えました」と洞さん。
(しんむら・なおこ)一般社団法人ハイジアコミュニケーション代表理事・理事長。公衆衛生学修士。医療健康ジャーナリスト。慶應義塾大学スポーツ医学研究センター研究員。日経BP社に長く勤務し、シニア女性誌を発行する出版社ハルメクを経て、2020年4月から現職。ヘルスケア領域を中心に各種コンテンツの企画構成・取材・執筆を行いつつ、ハイジアとしては研究機関や大学の研究支援活動の一環として、コホート調査の運営なども請け負う。