特別養護老人ホーム(特養)における2024年度上半期(4月-9月)の収支実績見込みについて、本業における利益を示す「サービス活動増減差額」が前年度同期比で減少した法人が2割を超えたことが、福祉医療機構(WAM)の調査で分かりました。
24年度介護報酬改定では、特養を取り巻く厳しい環境を踏まえて基本報酬が引き上げられたものの、物価高騰が経営を圧迫する状況は続いているとみられ、注視する必要がありそうです。
福祉医療機構は、今年上半期の経営状況について、WAMに登録している特養を運営する537の社会福祉法人を対象に調査を実施しました。
9月2日から23日にかけてオンラインでアンケートを行い、回答のあった399法人(有効回答率74%)の結果を「社会福祉法人経営動向調査」としてまとめ、10月に公表しています。
それによると、24年4月から9月までの特養の経営実績(見込み)について、本業で確保した利益に当たるサービス活動増減差額は、前年度同期と比べて「減少」したと回答した法人が22.1%となりました。「増加」したと回答した法人は19.5%、「横ばい」は58.4%でした。
(【画像】福祉医療機構「社会福祉法人経営動向調査「2024年9月調査」 」より。以下同様)
詳しく見てみると、「サービス活動収益」の時点では、減少したという回答(13.1%)よりも、増加したと回答した法人が16.3%と上回っています。主な理由では、「利用者単価の増加」が46.2%と半数近くで、次いで「利用者数の増加」が41.5%となりました。
その一方で「サービス活動費用」については、「増加」と答えた法人は31.0%に上り、「減少」の6.3%を大幅に上回りました。
理由として、「経費の増加」が40.7%以上と最も多く、それに「人件費(従事者1人当たり人件費)の増加」(30.9%)、「人件費(職員数)の増加」(25.2%)が続きました。
福祉医療機構では併せて、特養事業を含む社会福祉法人全体についても、四半期ごとに調査を行なっているD I(景気動向指数)の9月分を公表しました。
業況判断について、「良い」「さほど良くない」「悪い」の3つの選択肢のうち、「良い」の回答数割合から「悪い」の回答数割合を差し引いて算出したところ、9月は前回調査(6月)よりも4ポイント上昇してマイナス5でしたが、3カ月後の先行きは5ポイント低下し、マイナス10となりました。
このような状況の背景には、長く続いている物価高の影響が色濃く反映していると考えられます。水道代や電気代・ガス代といった光熱費をはじめ、給食用材料費・給食委託費などのコスト負担が、経営に重くのしかかっているものとみられます。
例えば、全国老人福祉施設協議会など介護9団体が直近でまとめた別の調査によると、介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院)の6月時点のコスト負担は、4年前と比べて電気代が55%増、ガス代が51%増、燃料費が32%増となったことが明らかになっています。
これらを踏まえると、介護報酬がプラス改定になり利用者単価が上がったことや、コロナ禍による休業が影響した昨年度に比べて利用者数が増えたことなどで、収益が増した施設が一定程度あったものの、それを上回るコスト負担に対して手立てを講じることができないといった状況も窺えます。
また、6月から処遇改善加算制度が一本化され、加算率の引き上げが始まったものの、他産業との賃金格差の縮小に向けて取り組みを進めるには、到底賄いきれないとの声も多く上がっています。
経営を後押しするための更なる対策を求める動きもあり、今後も注意深く動向を見ていく必要があります。
ルポライター・カメラマン。ブリッジ・ジャパン(マーケットニュース執筆)、日本放送協会(N H K)、C Bニュース(医療、介護、障害分野での執筆)などを経てフリーランスに。ライフワークではハンセン病問題を継続取材。