2024年度介護報酬改定では、介護職員らの処遇改善を目的とした加算「介護職員等処遇改善加算」が6月に創設されます。これによって「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ支援等加算」が一本化し、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%の介護職員等の段階的なベースアップと制度や手続きの簡素化が実施されることになります。
この記事では、「介護職員等処遇改善加算」と既存の3加算の違いや算定要件等を整理しています。
*関連ページ:介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について、vol.1226「介護職員等処遇改善加算等に関するQ&A(第1版)」 の送付について、介護職員の処遇改善に関する情報の掲載ページ(厚生労働省のウェブサイト)
「介護職員等処遇改善加算」では、これまでの「処遇改善」に関する制度が一本化され、加算率が引き上げられます。ポイントは以下の通りです。
介護職員処遇改善加算(以下、旧処遇改善加算)、介護職員等特定処遇改善加算(以下、旧特定加算)、介護職員等ベースアップ等支援加算(以下、旧ベースアップ等加算)、および新設される「介護職員等処遇改善加算(以下、新処遇改善加算)」について、対象者や配分ルール、算定要件を比較していきましょう。
旧特定加算は、「経験・技能のある介護職員」(勤続年数10年以上の介護福祉士を基本として事業所の裁量で設定)への重点的な処遇改善を行うためのものです。これまでは加算を原資とした職員間の賃金改善額について、下記の規程内が定められていました。
①「経験・技能のある介護職員」のうち1人以上は、賃金改善見込額が月額平均8万円以上、または年額440万円以上であること ②「経験・技能のある介護職員」の賃金改善見込額の平均を「他の介護職員」より高くすること ③「他の介護職員」の賃金改善見込額の平均が、「その他の職種」の2倍以上であること。 ④「その他の職種」の賃金改善後の賃金の見込額が年額440万円を上回らないこと
この”配分ルール”は2024年3月で廃止されます(後述)。
新設される「介護職員等処遇改善加算(新処遇改善加算)」では、加算の統合に伴って配分の対象者に関するルールが統一されます。「介護職員への配分を基本とし、特に経験・技能のある介護職員((中略)介護福祉士の資格を有するとともに、所属する法人等における勤続年数10年以上の介護職員を基本としつつ、他の法人における経験や、当該職員の業務や技能等を踏まえ、各事業者の裁量で設定することとする)に重点的に配分すること」と規定はありますが、職種ごとの具体的な配分割合を定めたルールは撤廃し、(Ⅰ)~(Ⅳ)のどの区分を算定する場でも、事業所内で柔軟に配分することが認められます。
※一部の職員や同一法人内の一部事業所に賃金改善を集中させるなど、職務内容や勤務実態に見合わない著しく偏った配分は不可。
なお、2024年4月・5月に旧処遇改善加算および旧特定加算を算定する場合も同様に、介護職員以外への柔軟な配分が認められるようになります。
新処遇改善加算の加算率は、現行の3加算全てを算定している場合よりもさらにプラスとなるよう設定されています。
例えば「訪問介護」で新加算(Ⅰ)を取得する場合、現行の3加算の合計加算率22.4%に対し、新処遇改善加算(Ⅰ)の加算率は24.5%と、3加算全てで最上位の区分を算定している場合と比べて2.1%のプラスとなります。
(【画像】:介護保険最新情報vol.1215(「介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」の送付について)より)
新処遇改善加算はこれまでの枠組みを踏襲し、介護職員の常勤換算職員数に基づきサービスごとに加算率が定められています。算定単位数は、介護職員等処遇改善加算を除く加減算後の総報酬単位数に以下の加算率をかけて算出します。
*(【画像】第239回社会保障審議会介護給付費分科会 参考資料1より(画像クリックで拡大))
なお、2024年度末までの経過措置期間中は、現行の3加算を取得している場合でも加算率が上乗せされます(激変緩和措置)。
具体的には経過措置区分として「新加算Ⅴ」が14区分設けられ、2024年度中は新旧いずれかの加算を算定している場合、必ず加算率が上がる仕組みになっています。
(【画像】:介護保険最新情報vol.1209(「介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(案)」の送付について)より)
介護職員の処遇改善に関する現行の3つの加算のうち、旧特定加算と旧ベースアップ等加算を算定するには、旧処遇改善加算の(I)から(III)までのいずれかを算定している必要があります。
そして、3つの加算のベース部分となる旧処遇改善加算は、介護職員の職位や任用要件の整備、スキルアップの支援などを求める「キャリアパス要件」を多く満たしているほど上位区分の加算が算定できるようになっています。
また、旧処遇改善加算と旧特定加算は、ともに職場環境等要件を満たすための取り組みを実施する必要があります。
※職場環境等要件は旧特定加算の施策と重複可能。
①職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること ②資質向上のための計画を策定して研修の実施または研修の機会を確保すること ③経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組み、または一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
※就業規則等の明確な書面での整備・全ての介護職員への周知を含む。
具体的には以下の取り組みを指します。
なお、新加算への以降にあたってはこの「職場環境等要件」も見直されますが2024年度中は見直しの適用が猶予されます(後述)。
(※画像クリックで拡大)
こちらは一定年数の勤務経験がある社会福祉士など、経験や技能のある介護職員の処遇改善に重きを置いた施策です。旧特定加算の区分は、(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類あり、上位区分の(Ⅰ)は、介護福祉士の配置要件(サービス提供体制強化加算など、事業種別に定められた加算を算定する要件)を満たしている場合に算定可能です。
区分(I)(II)に共通して以下を満たす必要があります。
※年度ごとに異なる新たな取組みを行う必要はなく、前年度と同様の取組みを継続することで要件を満たせます。
提供サービスに応じた各加算の届け出を行っていることを指します(新処遇改善加算も同様)。以下、一部のサービスについて対象の加算名を表記します。
【訪問介護】 特定事業所加算(I)または(II)
【地域密着型通所介護】 サービス提供体制強化加算(Ⅰ)または(Ⅱ)または(III)イまたは(III)ロ
【特定施設入居者生活介護等】 サービス提供体制強化加算(I)または(II)/あるいは入居継続支援加算(I) または(II)
【介護老人福祉施設等】 サービス提供体制強化加算(I)または(II)/あるいは日常生活継続支援加算
こちらも介護職員等の処遇加算のために創設された加算で、職員の毎月の給与を改善するための規定があるのが特徴です。算定要件は以下の通りです。
※「基本給」または「決まって毎月支払われる手当」の引上げ
以下の表は、2024年4月と5月に旧3加算を算定する場合の算定要件を整理したものです。
(※介護保険最新情報vol.1215より、クリックで拡大)
新処遇改善加算は、上述の3つの加算の主要な算定要件を引き継ぎ、加算率を上乗せして(Ⅰ)〜(Ⅳ)の4つに集約されます。 同加算を算定するために満たすべき要件は以下の3種類に分けられます。
(【画像】「介護職員の処遇改善」(厚労省特設ページ)に掲載の「事業者向けリーフレット」より)
理学療法士として回復期病院、リハ特化デイ施設長、訪問リハを経験後フリーライターとして独立。医療福祉、在宅起業、取材記事が得意。正確かつ丁寧な情報を発信します。