訪問看護ステーションの人材定着支援②転職受け入れ時の研修制度・相互理解

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前回は、人材定着のためのオンボーディング支援において実践するべきアクションを2つご紹介しました。せっかく良い人材を採用できても、受け入れ支援が不十分では、職員に期待していた能力を発揮する機会が失われ、早期離職にもつながってしまいます。そこで今回はオンボーディング支援においてするべき3つの取り組みについて、具体的に説明をしていきたいと思います。

効果的なオンボーディングのための取り組み:組織社会化への支援

前回、オンボーディング支援においてするべき3つの取り組みをご紹介しました。今回は3つ目の“組織社会化への支援”について解説します。

個人が組織に馴染むために、支援できることとしては次の3つが指摘できます。

①業務を円滑に遂行するための「職場での人間関係構築への支援」

職場に新入社員が初めて来た際に、最初にすべきことは円滑な業務遂行のための人間関係構築を支援していくことです。

ここで念頭に置いておいて欲しいのは、人間関係構築への支援と言っても、“職員同士が仲良くなるように支援する”のでは無いということです。職場は仕事をする場所であって友達を作る場ではありません。ですので、職場で目指すべき良い人間関係とは、“困った時や何か気付いた時に安心して相談でき、業務が円滑に、かつより良いものとなるような関係”であるべきです。

それでは、新入社員がそのような職場で人間関係を構築するためには、例えば以下のような取り組みが考えられます

  • プリセプター、メンター制度
  • 困った時には誰に相談をすれば良いのか、要件別に具体的に伝え、本人と当該社員とを事前に繋いでおく(例えば、「有給取得のこと等の人事労務関係で相談がある時には、まず人事部のAさんに相談すると良いから先に紹介しておきますね」という形で新入職社員と人事部のAさんの間を取り持っておくなど)
  • 管理職との定期的な1on1等で職場内での人間関係についても確認し支援をしていく

もちろん、前提として既存の職員同士で良い人間関係が築けていない場合には新入社員が良い人間関係を築くことも困難となってしまいます。(職場内で良い関係性を築くためのヒントとしては心理的安全性の記事をご参照いただければと思います。)

よく「もう既存の職員は人間関係が悪すぎてダメだから新入社員に期待しよう」という言葉を耳にすることがありますが、新入社員頼みは通用しません。経営者・管理職として、誰にとっても良い職場となるように普段から介入をしていくことが重要です。

②③「導入・実務研修の実施」におけるポイント

次に、②導入研修、③実務研修を実施する際のポイントをご説明します。この内容は、これまで解説してきたことを反映した内容になっています。導入研修や実務研修でこうした内容を繰り返し伝えていくと良いのではないでしょうか。

  • 新入社員に自分が転職というストレスの高い時期にあることを自覚してもらい、組織としてどういった支援ができるのかを伝える(例えば、最初は気が張っているが1カ月くらいすると疲れが出てきて体調も崩しやすくなるので、そのような時には遠慮せずに早めに相談してもらえれば訪問等を調整できると伝えておく等)
  • 早く組織に馴染むために自らすべきこと「プロアクティブ行動」について理解してもらい、実行しても大丈夫だということを伝える(例えば、今回の①で説明したような職場の人間関係構築のための具体的な支援をここで入れることや、最初はどうしても失敗したり思うようにいかなかったりすることがあるものだと受け入れ側も理解しているのであまり気にしすぎ無いようにして欲しいと伝える等)
  • アンラーニングとリスキリングの必要性について理解し、実行を促す

最後の、アンラーニングとリスキリングについては少し詳しく説明をしていこうと思います。同じ看護師という職種であっても、転職して職場が変われば今までの職場、業務と異なる点が多々出てきます。看護の目的それ自体はどこで働いていても同じですが、求められる看護技術や知識、周辺業務と言われる看護実践を行うための業務(例えば、看護記録の入力方法や労務管理のための勤怠入力法等)が異なってきます。

そのため新入社員には知識や前提をアップデートすることが求められます。この“今までとは違う”ということを自覚しているかどうかによって、新入社員本人と支援する周囲のストレス度合いも大きく異なってくるように感じます。

訪問看護に転職した際に求められるアンラーニングとリスキリング

それでは、訪問看護に転職してきた際に何が以前の職場と違ってアンラーニングすべきことなのでしょうか。そして、新入職社員がリスキリングとして何を学ぶ必要があるのでしょうか。例えば下記のような項目が考えられます。

  • 病院や施設と訪問看護の違い
  • 自社への理解(理念や目的、人事制度、働き方等)
  • 訪問看護の基礎知識(法律・基準・報酬等)
  • 業務の流れややるべき事、求められる事(特に周辺業務についての具体的なマニュアルの共有や研修は重要)

新入社員が以前いた職場の当たり前に囚われずに、いち早く新しい職場に馴染むためには、これらの内容を導入研修や実務研修、職場でのOJTで繰り返し伝えていく必要があります。しかし、小規模なステーションでは、これらの内容全てを自前で行うことは難しい場合も多いでしょう。そのような場合は、外部研修等を活用しながら、かつ大切なものは社内で力を入れて行っていくというメリハリをつけて実行していくと良いのでは無いでしょうか。

人材定着につながる実践へ意識してアクションを

今回は1年で最も採用人数が多い時期に4月というタイミングで、入職時にどのような点に注意する必要があるのか、そして何をすれば良いのかという視点から看護師人材管理のヒントをご紹介してきました。今まで無意識にされていたことも多いのでは無いでしょうか。しかし、記事の中でも繰り返し強調していますが、何事も「自覚して行うかどうか」が効果的な実践につながる分岐点なのではないかと思います。今回紹介した内容を、この4月の新入職社員の採用からぜひ活用して定着に繋げていただければ幸いです。

参考文献

髙木晴夫(2008)『企業組織と文化の変革』,慶應義塾大学ビジネス・スクール

齊藤光弘・中原淳編著,東南裕美・柴井伶太・佐藤聖著(2022)『M&A後の組織・職場づくり入門』,ダイヤモンド社

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