前回までは介護労働実態調査(介護労働安定センター2021年公表)のデータをもとに、介護事業所の人材問題について業界の全体的な傾向と対策を検討してきました。
このシリーズでは、レンズを虫の目に切り替えて、現場のリーダーや管理者からよく聞かれる悩みを題材に、介護現場に起こりやすい人材問題とその対処法について検討したいと思います。
第1回のテーマは、「辞められてしまうのが怖くてダメなことをダメと言えない」という、リーダーの悩みについて一緒に考えてみましょう。
以前の回でも触れましたように、介護職員の離職率は、長期的な推移としては低下傾向にあります。しかしながら、離職者のうち1年未満に辞めてしまう人が35.6%、1年以上3年未満に辞めてしまう人は24.8%、合わせると約6割が3年未満に離職しており、早期離職は引き続きの課題と言えます。
やはりせっかく採用した人材が早期に辞めてしまう損失は大きいと言わざるを得ません。介護職は「引く手あまた」なので辞めても他で就職先を探しやすいという労働需給の問題は大きいと言えるでしょう。
以下の事例は、特養フロアリーダーAさんの悩みです。あなたがAさんの上司、またはスーパーバイザーという立場だとすると、どのようにAさんにアドバイスしますか?
(事例は、筆者が見聞きした実話を題材にしたフィクションです)
Aさん: 「介護の求人は多数あるので、職員が“いつ辞めてもいいんだよ”と、そう思いながら働いているんじゃないかなと、つい思ってしまいます。厳しいことを言って、“だったら辞めます”と言われてしまうのが一番怖いですね。ダメなこともダメと言いにくくて、指導の仕方もなかなか難しいなと感じています」
Aさんが上記のように考えるようになったのは、過去に自分の言動が職員の離職につながったことがあったからのようでした。
茨城キリスト教大学経営学部准教授。博士(政策学)、MBA(経営管理修士)。人事労務系シンクタンク等を経て現職。公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査検討委員会」委員。著書に『福祉サービスの組織と経営』(共著)中央法規出版(2021年)、『介護人材マネジメントの理論と実践』(単著)法政大学出版局(2020年)など。