全国訪問看護事業協会の調査によると、2022年4月1日時点での訪問看護ステーション数は1万4,304事業所と前年度比では1,301事業所増加している。その一方、厚生労働省の調査(「令和2年介護サービス施設・事業所調査)を見ると、利用者数が39人未満の事業所数が34.8%と小規模の事業者が目立つ。また、訪問看護に従事する看護師数は20年10月1日時点で、8万1,632人となっており、訪問看護アクションプラン(日本看護協会、全国訪問看護事業協会、日本訪問看護財団が策定)が目指す25年の約15万人には遠く離れた状況である。
筆者も様々な訪問看護ステーションに伺っているも、人材確保に課題を抱えているステーションは少なくない。人材不足を解消するためには、採用だけでなく、定着につなげ、従業員を増加させていく必要があることは言うまでもない。
18年度の病院全体における正規雇用看護職員の離職率は 10.7%だった(日本看護協会2020年の調査報告) 。これに対し、訪問看護ステーションは、神奈川県の17年度看護職員就業実態調査結果では常勤看護職員の離職率が 18.1%、徳島県の18年度看護職員離職者調査結果では13.3% 、大阪府の12年度訪問看護の実態調査では離職率は17.6% といずれも病院の離職率より高い値が示されている。
看護職員の定着を促進するには必要な取り組みを明確化する必要がある。とはいうものの、医療機関併設の訪問看護ステーション(以下医療機関併設ST)とその他の営利法人を含む訪問看護ステーション(以下その他ST)では、それぞれが持つ人・物・金といった資源が異なる。
例えば、営利法人のステーションの資本金の中央値は330万円で、その内訳は下記のような分布となっているのに対し、医療法人の純資産平均総額 は15億9,763万2,000円(福祉医療機構19 年度(令和元年度)医療法人の経営状況についてより)となっている。
このような切り口だけでも医療機関併設STとその他STには大きな違いがあり、看護師にとっての印象も異なると考えられる。そのため筆者は、就職するにあたってそれぞれの職場に求めるものも、訪問看護ステーションの運営主体によって異なると考えている。
しかし、訪問看護STで働く看護職員についてのこれまでの研究では、訪問看護師の就労継続意向や定着率を上げる要因やそのために求められる環境などに着目した事例はあるものの、事業主体が一括りになっている。
そこで、筆者は医療機関併設STとその他STで働く看護師を区別し、モチベーションに影響を及ぼす要因の違いについて調査を行った。
【アンケート調査の概要】 対象:訪問看護STに従事する看護師の役職者と一般職 期間:2021年5月9日~5月28日 調査方法:googleアンケートにて無記名自己記入式調査を行った。
株式会社ビジケア代表取締役。看護師。訪問看護ステーション設立に参画した自身の経験をもとに、多数の事業所運営サポートを実施。看護師の視点で現場職員への教育や収益改善のサポートを行う。全国各地で年間700人を超える訪問看護ステーションの経営者・管理者向けに講義・セミナーを実施している。