この連載では、コンサルタントとして介護事業者の総合的な経営支援に関わる立場から、特に中小規模の事業者様からよく受けるご相談とその対応についてお伝えしています。
前回は、代表的な課題を「採用」「営業活動」「運営指導」に整理しました。
今回は、このうちの「採用」に効果的な人材獲得戦略の策定を立案する方法について、実践的に解説します。
採用に当たって、現在、大手求人サイトや広告代理店に採用活動を外注している介護事業者がほとんどだと考えられます。介護職員1人当たりの平均採用単価は約55万円に達します。
(【画像】厚生労働省「地域ブロック別の職種別平均手数料及び離職率について」掲載資料)から抜粋
特に、月間売上が200〜400万円程度の事業者にとって、この採用コストは大きな負担となっており、投資に踏み切るのが難しい状態です。さらに、採用活動が成功しても、従業員の定着率が低い場合には、再度、採用活動に取り組む必要があり、コストがさらにかさむケースもあります。事業者は、採用の度に生じる負担に頭を悩ませているのが現実です。
こうした現状を打破するためにお勧めしているのが、自社や自事業所にあった「採用戦略の立案」です。
戦略の立案とは、簡単に言うと「どうやって目的を達成するか」を考えることです。例えば、目的が「いい人を採用すること」だとしたら、外部の業者に丸投げするだけではなく、「どのような方法で採用するか」「どんな人を採用したいのか」「どこに募集をかけるのか」など、具体的な方針を明確にする必要があります。
戦略を立てるときに、まず大切なのは、自社の状況を知ることです。お金がたくさんあるのか、あまりないのか。人材が集まりやすい地域にいるのか、そうでないのか。これを理解した上で、自社にできる最適な方法を選ぶのが戦略です。つまり、「自分の目的に向かって、どんな手段や道を選ぶべきかを計画すること」が、戦略の立案ということです。
それでは、人材獲得のための戦略の立案、その方法について具体的な解説に移りましょう。
5つのステップに分けてお伝えします。
まずは、自社の強みと弱みを把握することが必要です。例えば、ある介護事業所は「地域密着型のサービス」を強みとしており、利用者や家族との信頼関係が強力であった一方、「給与や福利厚生が他の事業所より劣っている」ことが弱みでした。これにより、給与面で他事業所に負けてしまい、応募者が集まりにくい状況にありました。これが強みと弱みの把握です。また、どの職種で人手が不足しているのかを把握することも重要です。訪問介護職員が不足している場合であれば、そこに注力して募集する必要があります。そのうえで過去の採用活動でうまくいかなかった点(たとえば、応募は集まったが面接後の辞退率が高いなど)も洗い出し、改善策を考えます。
次に、具体的な採用目標を設定します。
例えば、「6カ月以内に介護職員を3名採用する」「採用コストは1人あたり30万円以内に抑える」など、数値目標を明確にしましょう。
Professional Care International株式会社代表取締役。17歳で介護業界に入り、高齢者虐待をなくすことを決意。全国200箇所の施設を見学し、NARBRE合同会社を史上最年少で設立。訪問介護事業を展開する。その後、介護・福祉業界向け総合コンサルティング会社を設立。事業再生、運営指導対策等の総合コンサルティングサービスを提供し、全国150社以上を支援。ITに強く、DX化を推進する。現在は複数の会社役員を務め、全国で研修やセミナーを実施している。