訪問介護の制度的限界と今後の展望―保険外サービスの可能性を探る②

2025.05.01
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本連載では、保険外の訪問介護・看護サービスの事業開発や普及に関わる立場から、将来にわたって必要とされる訪問介護事業について考察していきます。

今回は、介護保険サービスとしての訪問介護にできることと、保険外サービスが価値を発揮できる領域について紹介します。

保険内サービスとしての訪問介護の限界と保険外サービスの可能性

日本の介護保険制度下で提供される訪問介護サービスには、対応できる内容や時間に明確な制約があります。

例えば、訪問介護職員が生活援助で食事を作る際、その対象として認められるのは要介護者本人だけで、同居家族の食事は作ることができません。また、散歩の付き添いや趣味・娯楽の外出支援は介護保険では認められていないのが現状です​。サービス利用時間にも上限(要介護度ごとの支給限度額)があり、その範囲を超える支援は原則保険ではカバーできません。このような公的保険サービスの“隙間”を埋める形で登場したのが、保険外の自費サービスです​。

保険外サービスは利用者負担が全額となる分、割高ではあるものの、その柔軟さが強みです。介護保険では賄いきれないニーズ、例えば「もっと長時間連続して介護を受けたい」「自由に外出して趣味や旅行を楽しみたい」といった希望を叶えるために、事業者が自費の訪問介護サービスを開始するケースは少なくありません​。

また、近年は世帯構造や介護ニーズの多様化により「仕事と介護を両立する家族(ビジネスケアラー)」が増え、使い勝手の良い保険外サービスが社会的にも求められるようになっています​。

介護保険報酬の抑制で経営が厳しくなる中小事業者にとっても、保険外サービスは保険制度改定の影響を受けずに収益源を多角化(事業の多角化)できる“頼みの綱”として注目されています​。

介護保険制度と事業者経営の双方の持続性を高める切り札として、自費サービスの位置づけは重要性を増していえるでしょう​。

25年2月には日常生活支援や介護予防につながる多様な民間サービスの充実を目的に「介護関連サービス事業協会」が設立されました​¹⁾。今後は事業者側のノウハウ不足の解消や利用者への周知、料金体系の透明化といった課題に取り組みながら、保険外サービスの需要を開拓していくことが期待されています。

訪問介護×〇〇で叶える!多様化する社会ニーズに応じるサービス

高齢者やその家族らのニーズが多様化する中、私達イチロウでも、生活支援や暮らしの楽しみを支えるため、多職種で連携しながら新たなサービスの組み合わせによって事業領域を広げています。

保険外で提供するオプションとして、こうしたサービスを自ら拡充している訪問介護事業者も存在しています。

具体的な領域としては次のようなイメージです​。

・生活支援サービスの拡充 – 掃除・調理・洗濯といった家事代行や、買い物代行・外出付き添いなど日常生活支援全般。介護保険ではできない家族分の家事や大掃除、庭の手入れなども柔軟に対応します​。また、一人暮らし高齢者の見守り訪問や話し相手サービス、離れて暮らす家族に代わって安否確認を行うサービスも提供されています​。これらは利用者の孤立感を和らげ、家族の負担軽減にもつながります。

・趣味・娯楽や社会参加の支援 – 利用者が趣味活動や旅行に出かける際の付き添い(トラベルヘルパー)、コンサートやスポーツ観戦への同行支援など、人生の楽しみを諦めないためのサービスです​。ペットの世話が難しい高齢者にはペットケアサービスを提供し、一緒に暮らし続けられるよう支援する事例もあります。これらのサービスは利用者の精神的な充足と生きがいづくりに直結し、健康寿命の延伸効果も期待されます​。

・医療/介護の橋渡しとなるサービス – 介護保険ではカバーされない長時間の見守りや夜間の付き添いのニーズに応え、夜間帯の巡回やコール対応を行う訪問介護サービスを提供する事業所もあります​。これは在宅で療養する利用者の不安を和らげ、家族が夜間安心して休息できるメリットがあります。また、医療的ケアが必要な利用者向けに、看護師が随時訪問して点滴や必要な処置を行う保険外サービスを組み合わせるケースもあります。介護と看護の垣根を越えた柔軟な提供体制が、重度の要介護者の在宅生活を支える基盤となっています。

こうしたサービスの多様化は、利用者の生活の質を高めるだけでなく、事業者にとっても新たな価値を提供することによる差別化ポイントとなり得ます。保険内外の枠組みや職種の壁にとらわれず、地域の高齢者を支える包括的なサービス展開が、これからの訪問介護事業者に求められる役割と言えるでしょう。

参考サイト:

1) 介護関連サービス事業協会

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