第195回社保審・介護給付費分科会が12月2日に開かれ、2021年度の介護報酬改定に向けた運営基準の改正事項案が示されました。しかし、「グループホームの夜勤職員体制の見直し」と「ユニット型指定老人保健施設等におけるユニット定員の緩和」の2点に関しては、委員からの反対意見が多く決定持ち越しとなりました。本記事では取りまとめが保留となった上記2点について、背景や提案内容を委員の意見とともに整理します。
グループホームの夜勤職員の配置について、当分科会にて繰り返し協議が重ねられてきました。現行の人員配置基準は1ユニットごとに1人以上の配置であり、介護老人保健施設等の他のサービス(2ユニットごとに1人以上)よりも手厚い配置となっています。これは、火災事案を踏まえて2012年度改定にて厳格化されたものであり、以前まで認められていた2ユニット1人夜勤の例外規定が廃止された経緯があります。
厚労省は、深刻な人手不足により人材の確保が困難であること、2015年度の消防法令改正によって原則すべてのグループホームにスプリンクラーの設置が義務付けられたことなどを踏まえ、「3ユニットの場合であって各ユニットが同一階に隣接しており、一体的な運用が可能な構造で、安全対策をとっていることを要件に、夜勤2人以上の配置に緩和することを可能とする」改正案を提示しました。
この改正案に対し、委員からの意見は賛否両論。全国老人保健施設協会の東憲太郎氏は「介護人材の不足は危機的な状況にある。(夜勤体制の改正案は)要件もかなり厳格なものとなっていることから、事務局の提案に賛成」と意見を述べました。
その一方で、日本看護協会の齋藤訓子参考人は「今後さらに利用者が重度化していくことや看取りのことを考えると、緊急性のある対応に3ユニット2人夜勤では支障が出ることが危惧される。今一度慎重な検討を」と提言。その他にも複数の委員から慎重な検討を求める声が聞かれる結果となりました。
短期入所系・施設系サービスの個室ユニット型施設について、個室ユニット型施設のケアの質を維持しつつ、人材確保や職員定着を促すことを目的としたユニット定員の緩和案が議論されてきました。ユニット定員の緩和には「個室での介助時に、別の職員による他の入居者の見守りがしやすい」「1ユニット内での職員の勤務シフトが組みやすい」などのメリットがある一方、委員からは職員の業務過重や個別ケアの質の低下などを懸念する意見が聞かれてきました。
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これまでの議論を踏まえたうえで、厚労省は「介護・看護職員の平均的な配置を勘案して職員を配置するよう努めることを求めつつ、1ユニットの定員を15人を超えない範囲で緩和する」改正案を提示しました。
しかし、NPO法人高齢社会をよくする女性の会の石田路子氏の「現場で働くスタッフの過重化が想定でき、非常に懸念している。この改正案でいいのか疑問」という意見をはじめ、複数の委員から強い異論が訴えられ、本改正案に検討の余地を残す形となりました。
こうした協議の結果を受け、分科会長の田中滋氏は上記2点の改正案に関して「今日、決定を強行するわけにはいかない」と判断。グループホームの夜勤職員体制については、「委員からの意見を踏まえて、取り扱いについて分科会長本人と事務局とでさらに相談を行う」とし、ユニット定員については「安全性、質の確保、実効性の担保の部分について、引き続き事務局で対応案を検討し、次回もう少し議論をしなければならない」として、取りまとめを次回以降へ持ち越しました。
上記2点以外の改正案については、概ね決定方向とされ、介護報酬改定に向けて具体化されていく見込みです。
引用:第193回社保審・介護給付費分科会「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)の報酬・基準について」より
理学療法士として回復期病院、リハ特化デイ施設長、訪問リハを経験後フリーライターとして独立。医療福祉、在宅起業、取材記事が得意。正確かつ丁寧な情報を発信します。