前回の記事では、裁判例を分析し、事前対策の重要性を考察しました(*前回の記事:行方不明事故にどう備える?介護事業者が実践すべき対策~事前対策編~
皆様の介護施設でも、利用者が職員の気付かない間に離設しないよう様々な対策を講じられていると思います。例えば、施設の出入り口にセンサーを設置する、離設時に音が鳴るような仕組みを導入する、エレベーターを暗証番号式にする、入口付近にある事務室から出入り口の様子をしっかり確認するよう事務室で勤務する職員に指示する等、介護施設の状況に応じて様々な取組みがなされています。
これらは、離設事故が生じないようにする「事前対策」です。
筆者が独自に調査したところ、「事前対策」に注力する介護施設は多いのですが、いざ離設事故が発生した後の「事後対策」に注力する介護施設は少ない印象を受けました。
具体的には、「事後対策」については、「職員で手分けして必死に探します」というような精神論に依拠した対策に偏る傾向があり、システマチックな捜索体制を構築できていない介護施設が多数見られました。
その理由の1つとして、「介護施設で利用者を預かっている以上、離設事故はあってはならない。」との強い意識が根柢にあるのではないかと筆者は考えています。
皆様もご存知のとおり、各自治体が運営している『認知症高齢者等の見守り・SOSネットワーク』(※編集注…参考:2014年9月19日老健局長名通知<「今後の認知症高齢者等の行方不明・身元不明に対する自治体 の取組の在り方について」)という事業があります。
この事業は、主に、認知症等により、外出中に道に迷う可能性のある高齢者等を早期発見する制度です。事前登録した対象者が行方不明になった場合、警察や当該事業に協力する事業者(コンビニ、ガソリンスタンド、介護事業者など)が皆で行方不明者を捜索しようという取組みです。
この事業は、在宅における認知症高齢者等を対象にして策定されています。
実際に、筆者の調べた限り、認知症の利用者が介護施設に入所する際に、介護施設から「万が一、施設から出て行ってしまった場合の備えとして、見守り・SOSネットワークに事前登録しておきませんか。」といった具合に活用している例はほとんどありませんでした。
つまり、介護施設側も、自治体側も、そして利用者のご家族も、「介護施設に入所しているのだから、離設事故が起きないように備えておくのが当然だろう。」と考えているのです。
このような意識から、介護施設側は、「事前対策」にはしっかりと費用を投じ、システムを導入するなどして万全の策を講じますが、「事後対策」については、「あってはならない。離設事故は恥だ。」という気持ちから、対策が疎かになるのではないかと思います。
結果、離設事故発生時には、「職員の皆で手分けして頑張って探そう!」という精神論に依拠した人海戦術に頼る他なくなるのです。
離設事故により利用者が亡くなった場合、ご遺族が介護施設に対し、安全配慮義務違反があるとして損害賠償を求める事態に発展することがあります。
裁判では、事前対策のみならず、離設事故発生後の捜索が十分であったのか、という事後対策の点が争われることもあります。
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は35都道府県に普及中。 福祉特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所・障害事業所・幼保事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、行政対応、経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士法人かなめ - 公式YouTubeチャンネル』を運営中。https://www.youtube.com/@kaname-law テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/