引き続きこのシリーズでは、現場のリーダーや管理者からよく聞かれる悩みを題材に、介護現場で起こりやすい人材問題とその対処法について検討したいと思います。
第4回は、職員同士の「人間関係のこじれ」です。特養のフロアリーダーDさんの悩みについて一緒に考えてみましょう。
(事例は、筆者が見聞きした実話を題材にしたフィクションです)
Dさん:「人間関係の問題は、大きなもの小さなもの色々ですが、施設の中では毎日見聞きしてあとを絶ちません。一つが片づいたかなと思うと、また二つぐらい出てきたり・・・」
やれやれという表情でため息をつくDさんは、福祉系の専門学校を卒業し、現在の社会福祉法人に入職して7年目。フロアリーダーとしては2年目の若手リーダーです。
Dさん:「トラブルとまではいきませんが、“あの人は嫌い、この人は嫌い”とか、“あの人はやる気がないから一緒に仕事をするのは嫌だ”とか、“あの人とはペースが合わないから組みたくない”とか、そんなことは日常茶飯事ですね」
Dさん:「あとは、“あの人は、リーダーがいない時はさぼっている”とか、“あの人はできない、足を引っ張る”とか、そういう告げ口のようなものもよく耳に入ってきます」
「忙しくなると、なおさらですね。誰かが休んだりすると、“また休んでいる”というような皮肉を言ったり、“あっちのフロアは暇にしている!”と文句を言ったり、誰かに何か言われると“そんなこと言ったって、こっちは忙しいんだから!”って感情的になる人がいたり・・・。」
「もう本当に、いつもそんな感じです。人間関係をどんなふうにバランスをとっていけばいいか、というのが難しいところですね」
Dさんが言うような人間関係の問題は、どこの介護現場にも多いのではないでしょうか。実際、介護労働実態調査(介護労働安定センター)の労働者調査を見ると、前職の介護の仕事を辞めた理由の第一位は、毎年「職場の人間関係」となっています。
逆に言えば、この人間関係の問題をうまく調整・コントロールできれば、人材の定着と職場の安定につながると考えることができます。
一体どう対応したらよいのでしょうか。
人間関係の問題が表面化した時は、いつものことと放置せず、まずは一次対応をした方が良いでしょう。例えば、「先輩の〇〇さんの言い方がきつくて、悩んでいる」とか、「同僚の〇〇さんとペースが合わないので、一緒に仕事をしたくない」など、メンバーの誰かから人間関係について相談があった場合などです。
他者から見れば大した問題ではないように見えても、本人にとっては精神的に追い詰められるような大きな問題であることも多いものです。また、ちょっとした人間関係の問題が、職場の雰囲気を悪くさせているということもあります。
相談したにも関わらず放置してしまうと、相談者はもう頼るすべがない、事態が改善する見込みがないと考えてしまい、離職にもつながりかねません。まずは、相談したらリーダーが話を聴いてくれた、動いてくれた、という事実が重要です。
さらに、軋轢が生じている職員の間に入って、両者の言い分を十分に聴き、仲裁して対立を収束させるなど、起きている問題を速やかに円満に解決できるのが望ましいと言えるでしょう。それぞれが、心を開いて話をしてみると、案外うまく問題を収めることができるケースも多いのではないでしょうか。
しかしながら、上述した対応は、あくまでも一次対応(応急処置)に過ぎません。火種を消したと思っても、またどこかから、別の火種が飛んできたりするのが常です。一体どうしてなのでしょうか。
茨城キリスト教大学経営学部准教授。博士(政策学)、MBA(経営管理修士)。人事労務系シンクタンク等を経て現職。公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査検討委員会」委員。著書に『福祉サービスの組織と経営』(共著)中央法規出版(2021年)、『介護人材マネジメントの理論と実践』(単著)法政大学出版局(2020年)など。