岸田文雄政権の発足以降、介護や看護に携わる方々の賃上げについて、その動向が話題になっています。介護職員に対する手当てについては、「介護職員処遇改善支援補助金」の創設や、10月に臨時の介護報酬改定が実施されることが決まりました。それでは、介護職員処遇改善支援補助金の支給対象外となっている訪問看護事業の従事者の処遇はどうなるのでしょうか。看護師の賃金を巡るこれまでの議論や決定事項から読み解いてみましょう。
2021年11月に政府がまとめた経済政策を受け、12月20日に成立した21年度補正予算には、介護職員や保育士、看護師らの月収を来年2月から9月まで引き上げるための経費が盛り込まれました。これにより、介護職員(または対象施設・事業所が指定する職員)の賃上げを実施するための「介護職員処遇改善支援補助金」が創設されます。
しかし、訪問看護事業所は、この補助金の支給対象から外れています。
介護職員処遇改善支援補助金の創設について、厚生労働省が社会保障審議会・介護給付費分科会の委員に書面で説明した際、日本看護協会常任理事の田母神裕美委員は、介護保険施設や看護小規模多機能型居宅介護などの介護領域で働く看護職員の処遇改善について、検討の機会を設けるよう求めました(第205回社会保障審議会介護給付費分科会・21年12月24日)。
特に、訪問看護については「あらたな方策の検討が必要」と強調しています。
これに対し厚労省は、10月以降の臨時報酬改定について協議を開始した22年1月12日時点で、「介護職員処遇改善支援補助金の要件・仕組み等を基本的に引き継ぐ」形で加算を創設することを提案しています。この方針に変更がなければ、訪問看護事業所は10月に新設される加算も算定できないことになります。
【画像】第206回社会保障審議会介護給付費分科会資料(2022年1月12日開催)
国は看護師の賃上げを明言していたはずですが、訪問看護は蚊帳の外なのでしょうか。看護師の賃上げを巡る検討について少し遡ってみましょう。
岸田首相は就任直後に、看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入増を目指すため、公的価格の在り方の抜本的見直しを検討する「公的価格評価検討委員会」創設を表明しました。
その直後にまとまった先述の経済対策には、「まずは、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、段階的に収入を3%程度引き上げていくこととし、収入を1%程度(月額 4,000 円)引き上げるための措置を、来年2月から前倒しで実施した上で、来年10月以降の更なる対応について、令和4年度予算編成過程において検討し、必要な措置を講ずる」と記載されていました。
【画像】「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(2021年11月19日閣議決定)より抜粋し、赤枠を編集部で追加
「地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関」とは、具体的には、「救急医療管理加算を算定する救急搬送件数200台/年以上の医療機関」か、「三次救急を担う医療機関」を指します。
ここで勤務する看護職員ら(医療機関の判断によって理学療法士や作業療法士、看護補助者の処遇改善に充てることも可能)には、2月から9月までの間、医療機関に支給される予定の補助金によって月額4,000円相当の引き上げが行われることが決まっています。
ここからも外れている訪問看護の賃上げの扱いは、「来年10月以降の更なる対応」の検討事項として扱われると考えられます。
公的価格評価検討委員会が年末にまとめた中間整理には、その方向性について
▽まずは、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員について、収入を3%程度引き上げていくべきである。 ▽あわせて、管理的立場にある看護師の賃金が相対的に低いこと、民間の医療機関であっても国家公務員の医療職の俸給表を参考としている場合が多いことも指摘されており、今回の措置(2月から9月までの一部看護職員らの賃金引き上げ)の結果も踏まえつつ、すべての職場における看護師のキャリアアップに伴う処遇改善のあり方について検討すべきである。
と明記されています。
日本看護協会が11月25日に公的価格評価検討委員会に提出している意見書では、訪問看護ステーションの看護職員の賃上げは訪問看護基本療養費への加算で、介護報酬・障害福祉サービス等報酬については看護職員の配置が要件とされているサービスに対応する処遇改善分の加算を設け、手当てする必要があるものと主張していました。
その後に中間整理で示された方向性に対しては、おおむね歓迎する姿勢を示しています。
また、2022年4月に実施される診療報酬改定については、本体の改定率がプラス 0.43%、このうち、「看護の処遇改善のための特例的な対応」に0.20%を充てることが決まったところです。
こうした流れを踏まえると、訪問看護事業所で働く看護師らの手当を検討する場は、主に中央社会保険医療協議会になるのかもしれません。
なお、22年度診療報酬改定による看護の現場で働く人の収入引上げについては、別途中医協として見解が示される予定です(リンク先資料P10)。
これまでの議論では、看護師の処遇改善については一定の理解が示されつつも、ほかの医療専門職代表委員から「医療職種や医療スタッフ、従事する全ての医療関係職種に対して幅広く引きあげることが必要」などと言った意見が挙がっています。
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