通所介護(デイサービス)は、食事中の誤嚥事故や転倒事故、送迎中の交通事故など、事故の発生するリスクが高い環境にあります。
経営者・管理者の皆様の中には、「事故が発生した時に備えて何を準備すればいいの?」や「過失があって損害賠償を請求されたらどうしよう」などの不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、通所介護事業所で起きうる事故の事例や事故が発生してしまった場合の対応方法などを解説していきます。
この記事での『デイサービスの事故』には、サービスを提供する過程で利用者様に身体的被害および精神的被害が生じた人身傷害事故だけでなく、利用者様の持ち物の破損や紛失などの物損事故も含めています。
デイサービスで発生する事故はどのような種類が多いのでしょうか。介護労働安定センターが平成29年度に実施した「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」から、通所サービスで発生した人身傷害事故の内訳をみると、「転倒・転落」が83.7%と大半を占めています。
【人身傷害事故状況分類】
こうした人身傷害事故は、いつ・どのような業務を行っているときに発生したのか見ていくと、以下のような結果になっています。
【人身傷害の業務詳細】
そして人身傷害事故が起こってしまった場合の傷病の状況は以下のようになっています。
【傷病状況分類】
こちらでも介護労働安定センターの「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」から、通所介護(デイサービス)でも発生しうる事故の事例をご紹介します。
【事例】
入浴介助中、シャワーチェアに座った状態で大腿部を洗おうとし、太ももをあげてもらったところ、バランスを崩しそのまま後方へ転倒し、疼痛を訴えられたために、受診したところ大腿骨頸部骨折が判明した。
【原因】
シャワーチェアは背もたれのあるものではなかった。 利用者が手すり等の設備がない状態で、介助者の体を支えにしていたが、太ももをあげた際に支えがなくなった。 入浴室床はタイルで、石鹸やシャワーのお湯で、体が滑りやすい状態であった。
送迎車から降りようとした際に利用者がバランスを崩し、そのまま転倒した。 疼痛を訴えられたために、受診をしたところ大腿骨転子部骨折が判明した。
一部介助を要するも、自立した利用者であった。 添乗員が一瞬目を離した隙に、利用者自ら行動された。 複数台の送迎車がほぼ同時に施設に到着し、介護職員が送迎に多忙であった。 運転手・添乗員の安全確保のかけ言葉の欠如。 車に取り残される利用者の心理状況の配慮が欠如。
デイサービスで事故が起きてしまった場合、事業所で作成した緊急時の対応マニュアルに沿って、以下のような行動をとる必要があります。
事故等を発見した際にまず行うべきことは、利用者様の状態確認です。「ケガがあるか」、「意識ははっきりしているか」、「吐き気、嘔吐はないか」など身体的被害の状況を把握します。
次に、関係者・関係機関への連絡・報告を行います。
職員が事故を発見した場合や事故を起こしてしまった場合、速やかに管理者や看護職員へ連絡・報告して指示をあおぎ、場合によっては救急車を呼ぶなどの対応を取ります。
管理者や看護職員が常駐していない場合、緊急時にスムーズに連絡・報告が行えるように、緊急時の対応マニュアルには、「連絡先」と「報告する内容」をわかりやすく記載し、日頃から現場の職員に周知しておくことが大切です。
利用者様に被害があった場合、緊急連絡先(ご家族)に連絡することになります。
そのため利用者様との契約時には、万が一事故等が発生した場合に連絡する「緊急連絡先」、「氏名」、「関係」などを記入していただき、把握しておきます。
居宅介護支援事業所の担当ケアマネジャーに、今後のサービスの提供の調整等を行っていただく必要があるため、利用者様の状態や事故について報告します。
利用者様の死亡事故、感染症の発生など、緊急性・重大性の高い事故等については、行政(市町村)に電話で第一報の報告を行うことになります。
事故が起きてしまった場合、事故についての記録を作成し、2年間保管する義務があります。事故の状況やどのような対応をとったのかなど、詳細に記録しなくてはいけないことを職員に周知しておきましょう。
事故が起きてしまった場合、事故の要因を分析し、再発防止策を検討しなくてはいけません。
管理者を含め複数の職員で、事故の記録から、事故の原因と再発防止策について十分に検討します。また、事故の概要、原因、再発防止策について、全職員に共有します。
事故の原因や再発防止策を明確にしたら、事故報告書を作成し、行政に報告書を提出します。
行政への事故報告の流れについて、奈良県奈良市を例にご紹介します。
【事故報告をしなければならない範囲】
【報告先】
【報告の手順】
事故が起きてしまい、その事故についてデイサービス側で損害賠償を行う必要がある場合、本人や家族への賠償責任を果たさなければいけません。
運営基準に「損害賠償保険に加入しておくこと、又は賠償資力を有することが望ましい」と定められていることから、デイサービスでは何かしらの賠償保険に加入することが一般的です。
例えば、介護労働安定センターには、デイサービスを運営する事業者が加入できる「介護事業者賠償責任補償」という賠償責任保険があります。
介護事業者賠償責任補償は、サービスを提供する中で、利用者様の体を傷つける・利用者様の物を壊すなどにより、事業者に法律上の損害賠償責任がある場合に、その賠償金等が補償される保険となっています。
【介護事業者賠償責任補償の保険金が支払われる範囲】
事故が発生した場合、速やかに保険会社にファックスで事故報告書を送付します。事故報告書には、事故発生の日時、場所、被保険者の住所・氏名・事故状況、受けた損害賠償請求の内容などを記載し、事故の内容の確認、書類の審査等が終わると、支払限度額の範囲内で保険金が支払われることになります。
ここで紹介した保険以外でも、様々な保険会社で賠償責任補償の保険商品がありますので、調べて比較してみるのもいいかもしれません。
デイサービスで事故を防止するためには、サービスを提供する中でどのようなリスクがあるのか「特定」し、その中身を「分析」・「評価」した上で、具体的な「対応」の方法を考えることが大切です。
また、利用者様に身体的被害は生じなかったが、サービスを提供する中で事業者が「ヒヤリ」や「ハッ」と感じたことを、「ヒヤリハットの事例」と言い、事故のリスクを把握するために役立ちます。
【事故防止のための取り組み例】
ここまで通所介護(デイサービス)における事故事例や事故が発生した場合の対応方法などについて説明してきましたが、いかがでしたか。
事故をきっかけに利用者様・家族と事業所との関係が悪化して訴訟に発展してしまうパターンもあります。訴訟に発展することを防ぐためにも、事故が起きてしまった場合には、説明責任を果たすことが大事です。
そのためには、日頃から事故が起きてしまった場合の対応についてのシミュレーションの実施、そして事故を起こさないための対策の検討も行う必要があるでしょう。
ここでご紹介した内容が、みなさまの事業所運営のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。