社会保険の適用が拡大され、アルバイトやパートといった短時間働く人にも厚生年金に加入する条件が広がることをご存知でしょうか。こうした短時間勤務の労働者を雇用している企業には、新たに対応が求められることになります。中小企業にもこれから段階的に対象が広がるため、どのような影響が考えられるかを知り、必要な対応を確認しておきましょう。
現在、厚生年金被保険者の総数が常時500人を超える事業所は、「特定適用事業所」と呼ばれています。一定基準を満たすパートタイマーやアルバイトを、社会保険被保険者とする手続きをしなければなりません。
2022年10月からは、年金制度に関する法律の改正によって特定適用事業所の規模要件が引き下げられ、厚生年金被保険者の総数が常時100人を超える事業所は、一定基準を満たすパートタイマーやアルバイトを社会保険被保険者にする手続きが必要となります。
「常時100人を超える」とは、厚生年金被保険者の総数が、1年間のうち6カ月以上100人を超えることが見込まれる場合のことを意味しています。
24年10月からは規模要件がさらに引き下げられることになり、厚生年金被保険者の総数が常時50人を超える事業所も同様の取り扱いとなります。
なお、特定適用事業所に該当するか判断する場合の従業員数は、社会保険適用事業所に使用される厚生年金被保険者の総数です。基準よりも短い時間働いている労働者や70歳以上の健康保険のみに加入されている高齢者は、今回の適用拡大に関わらず、特定適用事業所の判断に関係しません。
厚生労働省や日本年金機構では、社会保険適用事業所の調査を実施しながら、社会保険適用拡大の啓蒙活動を行ってきました。
ところで、社会保険料は事業所と従業員がそれぞれ半分ずつ負担します。負担方法は、従業員の給与から天引き後に事業主が日本年金機構に支払う形で行います。
これまで社会保険の対象外とされてきたパートタイマーやアルバイトが社会保険の対象になれば、企業にとって大きな負担となります。特にパートタイマーの比率が高い介護事業所においては、人件費が大きく上昇することとなります。また、パートタイマーやアルバイトの立場に立つと、給与から社会保険料が天引きされるため、手取りが大きく減少します。可処分所得の減少による生活苦から離職を選択する者の発生も予想されます。
22年9月30日まで十分に時間があります。従業員が22年10月1日以降に社会保険被保険者になりたいのか、なりたくないのか、事前に対象となるパートタイマーやアルバイトと話し合っておくことが大切です。社会保険被保険者になりたくないと意思表示した対象者には、労働条件の変更を速やかに行います。事業所によっては、就業規則の変更整備が必要になることもあるでしょう。
ここからは、今回の法改正で新たに社会保険の適用拡大の対象となる事業所のことを、「特定適用事業所」と呼びます。
Office SUGIYAMA グループ代表。採用定着士、特定社会保険労務士、行政書士。1967年愛知県岡崎市生まれ。勤務先の倒産を機に宮崎県で創業。20名近くのスタッフを有し、採用定着から退職マネジメントに至るまで、日本各地の人事を一気通貫にサポートする。HRテックを精力的に推進し、クライアントのDX化支援に強みを持つ。著書は『「労務管理」の実務がまるごとわかる本(日本実業出版)』『新採用戦略ハンドブック(労働新聞社)』など