高齢者社会ラボによる『介護の質の評価に関する調査』(以下「本調査」)の結果がまとまりました。このコラム(全6回の連載)では、私も関わったその調査の結果のなかから「気になるポイント」を示し、介護支援専門員(以下「ケアマネジャー」)のみなさんの実務に役立つ情報を示し、私の意見を述べてみたいと思います。
第1回目の今回は、ケアマネジャーが業務のうえで孤立的になり、力量の向上や不安の軽減に繋がるような仕事ができていないのではないか、という私の問題意識について述べてみましょう。
本調査の結果で気になったポイントのひとつは、「アセスメントにおける分析時の連携相手」の集計データ(図)です。
(【画像】高齢社会ラボ「介護の質の評価に関する調査(アセスメント編)」よる)
これをみると、アセスメントにおいて分析を行うときに「他のケアマネジャー」と連携しているという割合が、思いのほか低い数値となっています。
具体的には、「他のケアマネジャー」と「ほぼ毎回連携している」が約31%、「たまに連携している」が同じく約31%にとどまっており、残りの約40%のケアマネジャーは連携をさほどとっていないということが読み取れます。その一方で、「介護職員」「ソーシャルワーカー」と連携していると答えたケアマネジャーはこれと比較すると明らかに多い数値が示された点が、かなり意外に感じられました。
つまり、ケアマネジャーはアセスメントで悩んだとき、同じ事業者に勤務している同じケアマネジャーや、近隣の他の法人(他社)に勤務している同業のケアマネジャーに相談をすることはあまりなく、ひとりで抱え込んでいるのではないか、と懸念されます。
そうだとすれば、アセスメントの知識や技術も向上しませんし、心理的な悩みや負担感も軽減はしないでしょう。とりわけ経験の浅いケアマネジャーにとっては、どのようにして業務に取り組めばよいのかわからず、キャリアの継続にも影響を及ぼしかねません。
もしかしたら、これはここ数年のコロナ禍によって、ケアマネジャーの働き方・動き方が、感染拡大防止の観点から制限されてしまっていることの影響なのかも知れません。
専門職にとっては、同職種での「ピア・レビュー」(仲間内・同職種でのお互いの業務内容の吟味や分かち合い)が重要で、それがさまざまな効果を生むことも報告されています。ケアマネジャーにも同じことが言えるでしょう。
経年的に行われている別の調査※)をみると、居宅介護支援事業所の1事業所あたりのケアマネジャーの人数(常勤換算)は、2001年に約1.6人だったものが、2009年には約2.7人、2018年には約3.4人と増加していることを示しています。同じ事業所内の同業者は増加しているにも関わらず、ケアマネジャーがケアマネジャーに相談・連携することがあまり進んでいないのは不思議な気もします。
こうした状況への対応策としては、地域包括支援センターでは制度上の必須の業務として「包括的・継続的ケアマネジメント支援業務」を実施しており、地域内のケアマネジャーのさまざまなサポートを主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)などが行う仕組みも構築されているはずです。また、特定事業所加算を算定している居宅介護支援事業所では、その加算の要件として地域内の他の居宅介護支援事業所と共同で事例検討会や研修会等を実施する義務が課せられており、法人の枠を超えたケアマネジャー同士のコミュニケーションも一定程度は可能になっているはずです。
このようにケアマネジャーを巡る環境は好転しているはずなのに、孤立的に仕事をしているケースが多いというのはなぜなのでしょうか。
これについては、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務や居宅介護支援事業所の共同での研修会等が形骸化していることがうかがわれます。そして、それを活性化していく責務が、主任ケアマネジャーにあると言えます。
それに加え、ケアマネジャー自身にもみずからの悩みやみずからの課題を同業同職種に打ち明けて、その助言を求めるような姿勢が求められます。専門職にはそうした努力も欠かせません。
ケアマネジャーがケアマネジャー同士で連携することが難しいという実態は、コロナ禍が影響している可能性もあります。そうした観点からは、ICT技術(オンライン会議システムなど)を活用してピア・レビューを行うことも求められます。そもそもケアマネジャーの業務ではICT活用があまり進んでいないという複数の指摘もあり、事業所としての環境整備も必要なのかも知れません。
なによりも、そうした新しい技術や、主任ケアマネジャーらが培っている地域内の連携システムを上手に活用し、ひとりひとりのケアマネジャーが主体的に周囲の同業同職種と相談などを行うように意識する必要もあります。そうすることで、アセスメントの技術の向上と不安感・負担感の軽減につながっていくでしょう。
※) 『居宅介護支援事業所及び介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業報告書』p19,三菱総合研究所,2019
社会福祉士、介護支援専門員。1986年から社会福祉・医療分野での相談援助の実践に従事。医療ソーシャルワーカーや居宅介護支援事業所での介護支援専門員の実務経験を経て、2005年から東洋大学で福祉専門職養成教育と介護保険制度・ケアマネジメント等の研究に従事。現在、東洋大学福祉社会デザイン学部教授。