いよいよ1年後に迫った次期介護保険制度改正・介護報酬改定。この1年間で介護施設・事業所の運営に大きくかかわる制度や施策の概要が明らかになってくる。今回は、3つのトピックに沿って今年度の動きなど、着目しておくべきポイントを解説したい。
介護業界の人材不足は、日本全体の問題であり、背景には出生率の低下や労働人口の減少がある。特に、介護を必要とする高齢者の増加に伴い、介護職員の需要は今後も高まっていくと考えられる。このような状況において、ICTの活用は介護業界における人材不足の解決策として期待されている。
介護業務の効率化やケアマネジメントの改善策として期待されるのが、2023年4月20日からスタートするケアプランデータ連携システムだ。これによって、介護サービス提供の記録や請求のやりとりが紙ベースから電子データに移行する。ケアマネジャーは、毎月、利用者の提供票を作成し、担当事業所へ紙に印刷して渡している。一方で担当事業所は、毎月末に提供票にサービス提供実績を記載して担当のケアマネジャーに紙媒体で戻す。結果、ケアマネジャーに机の上には、月初に提供票が100枚近く積み上がることになる。例えば、利用者が30人、各利用様に3つの事業所を位置づけていたら90枚の提供票が戻ってくるわけだ。この100枚の提供票を給付管理ソフトに手入力している。この作業だけでも2~3日かかっているのが現状だ。
連携システムを使う事で、ケアマネジャーはPCの画面上で提供票を入力して電子データで提供票を送るようになる。担当事業所は画面上で実績を打ち込み、電子データで戻す。ケアマネジャーはこのデータを給付管理ソフトに落とし込むだけで作業を完了する。従来の手入力作業が不要となることで圧倒的に業務が簡素化され、月初業務が1日もかからなくなるのだ。
ただし、このようなICTシステムの導入には、費用対効果を考慮する必要がある。また、導入に伴う管理業務の変革、さらには利用者やスタッフのトレーニングと意識改革も必要となる。
ICTの活用は、サービスの質の向上や負担軽減、コスト削減などの効果が期待できるが、適切な導入・運用が必要となるのが常である。
こうしたICT化が進められることで、ケアマネジャーの手間が削減されることが期待されている。また、ケアマネジャーの一人あたりの担当件数が増え、収入が確保されることが見込まれる。これは、介護業界における人材不足の問題を解決する上で重要な点であり、ケアマネジャーの処遇改善にもつながると考えられている。ケアプランデータ連携システムによって浮いた時間を活用して、逓減制の特例である担当件数44件への転換も可能となるだろう。
経営者には、ICT化を進めることで人材不足の問題を解決し、業務効率の向上や処遇改善を図ることが求められる。その先に、業界の慢性的な課題解消の道筋が見えてくる。
【画像】国民健康保険中央会説明資料より引用
2024年度の制度改正の注目ポイントに、在宅サービスでの新型サービス創設がある。12年改正で創設された、定期巡回随時対応型訪問介護看護と複合型サービス(現在の看護小規模多機能型居宅介護)以来、12年振りのことだ。
居宅要介護者の選択肢が増え、より柔軟な介護ニーズへの対応が期待されている。特に都市部は、人口密度が高く介護需要も高いため、このような複合型サービスが必要とされているだろう。
新サービスの詳細や指定要件、報酬体系については、23年度に社保審・介護給付費分科会で検討されることとなっている。厚生労働省の審議時点での説明からは、「訪問介護と通所介護の複合型である可能性が高い」とされているが、詳細はまだ未確定のようだ。ほかに複数の組み合わせが検討される可能性もあるので、今後の情報に注目したい。
訪問介護と通所介護の複合型として新たに創設されるサービスは、小規模多機能型居宅介護とは異なる特徴を持つ可能性がある。
小濱介護経営事務所 代表。一般社団法人日本介護経営研究協会専務理事。一般社団法人介護経営研究会 専務理事。一般社団法人介護事業援護会理事。C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問。