施設に所属しているケアマネジャーや介護職員の皆さまにとって、介護保険負担限度額の認定制度は馴染み深いものですよね。
サービスの利用開始時の重要事項説明を通して、介護保険負担限度額認定制度を利用者やご家族に説明している施設や事業所が多いと思います。
しかし、サービスの利用開始後に、「介護保険負担限度額認定制度の説明を受けていない。もし最初にきちんと説明を受けていたら、もっと安く施設を利用できたのに。この差額はどうしてくれるのだ」などと、トラブルになったことはありませんか。
今回の記事では、このようなトラブルが実際に裁判にまで発展したケースをご紹介します。
裁判例の紹介に入る前に、介護保険負担限度額認定制度の基本知識を改めて説明します。
介護保険サービスを利用した場合、サービス費用の1~3割が利用者の自己負担です。しかし、在宅における介護保険サービスの利用者との「負担の公平性」の観点から、介護保険施設(介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設、介護医療院)やショートステイの施設利用では、食費や居住費は保険給付の対象外であり、全額自己負担が原則です。
介護保険負担限度額認定制度は、低所得者の食費と居住費が一定額を超えた場合に、各市区町村の窓口に認定希望者が申請し、申請を受けた各市区町村が認定をすることで、超えた部分について介護保険から給付が受けられる制度です(図参照)。
それでは、裁判例の紹介に移ります。こちらは、東京地裁2021(令和3)年3月12日の判決です。
本事例は、老人保健施設のケアマネジャーが入居者に対して、介護保険負担限度額認定制度の説明を怠ったとして、原告である当該入居者が、被告である老人保健施設を運営する医療法人に対し、説明義務違反を理由として、施設利用開始時から負担軽減を受けていた場合の負担額と実際に支払った負担額との差額等、合計約180万円の賠償を求めた事案です。
原告は、介護施設側の方が情報を多く持っているのだから、「費用がもっと安くならないのか」という問合せを受けた際に、介護施設の運営法人及びその職員であるケアマネジャーが、介護保険負担限度額認定制度を用いればどのような効果が生じるかや、どのような要件に該当すれば費用が安くなる可能性があるかについて丁寧に説明する義務があると主張しました。
弁護士法人かなめ代表弁護士。29歳で法律事務所を設立。 現在、大阪、東京、福岡に事務所を構える。顧問サービス『かなめねっと』は35都道府県に普及中。 福祉特化型弁護士。特化している分野は、介護事業所・障害事業所・幼保事業所に対するリーガルサポート、労働トラブル対応、行政対応、経営者支援。 無料で誰も学べる環境を作るためYouTubeチャンネル『弁護士法人かなめ - 公式YouTubeチャンネル』を運営中。https://www.youtube.com/@kaname-law テキストで学びたい人向けに法律メディアサイト『かなめ介護研究会』も運営中。 https://kaname-law.com/care-media/