休日に届く業務連絡のメッセージアプリの通知。
「ちょっと確認したいだけ」のつもりでも、受け取る側には仕事が終わらない感覚を与えます。
介護現場では職員のスマートフォンに業務連絡が流れ込むことが日常化しており、それがメンタル不調や離職、さらには施設の法的責任につながるケースが増えています。
この記事では、介護現場からの具体的な相談事例をもとに、休日の連絡に潜む3つの法的リスクと、管理者がいますぐ着手できるルール作りのポイントを解説します。
こんな出来事、あなたの施設でも起きていませんか?
ある介護施設からこんな相談が寄せられました。
【相談内容】
新人のEさんがメンタルヘルス不調で休職することになりました。
きっかけは「休日のメッセージアプリのやり取り」とのことでした。
ある土曜日の夜、フロアのグループチャット(8名)に、リーダー職のBさんがメッセージを送ったのです。
内容は、「お疲れ様です。月曜日の通院介助で使う予定のファイル、所定の棚に見当たりません。誰か最後にどこに置いたか知りませんか?」という業務確認でした。
すぐに気づいたCさんが「私は分かりません」と返信。それを見たDさんも「私も心当たりがないです、すみません」と返信。一方、新人のEさんは、その日はスマートフォンから完全に距離を置く「デジタルデトックス」を友人としていたため、完全にオフラインで過ごしていました。
日曜日の夕方にようやくスマホを見ると、グループの通知が「60」になっていたとのこと。返信していないのはEさんだけという状況になっており、週明けに先輩から「なんで返信しないの?みんな探して困ってたんだよ」と厳しく叱責されたそうです。
施設長である相談者は、そのLINEグループには入っていませんでしたが、休日も業務のやり取りがされていることは把握していました。「施設として何か問題になるのでしょうか?」というのが相談の核心です。
リーダーのBさんも、週明けの業務を円滑に進めようと必死だったのでしょう。
皆様、利用者様のために一生懸命にお仕事をされる素晴らしい方々なのです。
しかし、立ち止まって考えなければならないのは、その「熱い想い」が同調圧力になっていないか?ということです。
実際、「これくらい反応して当たり前」という無言の圧力が、メンタル不調・離職・法的トラブルに発展するケースが後を絶ちません。
休日のメッセージに潜む3つの法的リスク
本ケースでは、法的に3つのリスクがあります。
- 「労働時間」とみなされるリスク
休日の連絡が「業務指示」や「不可避な業務確認」とみなされると、そのやり取り自体が労働時間と評価され、残業代の支払い対象になる可能性があります。裁判例でも、時間外の頻繁な連絡が労働時間と認定されたケースがあります。 - パワーハラスメントに該当するリスク
本来自由であるはずの休日に執拗に連絡を送り、さらに返信しなかったことを理由に叱責することは、業務上必要な範囲を超えた苦痛を与える「パワハラ」と認定される可能性が高いです。 - 安全配慮義務違反のリスク
施設長がチャットアプリ内のグループの存在や休日連絡の実態を把握しながら放置していた場合、職員の健康を守る「安全配慮義務」を怠ったと判断されるリスクがあります。
「つながらない権利」を制度として根付かせるために
今、世界的に注目されているのが「つながらない権利(Right to Disconnect)」という考え方です。フランスやスペインでは既に法制化されており、日本でも今後この考え方が主流になるでしょう。
まず着手したいのが、「勤務時間外・休日の連絡ルール」の明文化です。施設長がトップダウンで方針を示し、上席者自身がルールを率先して守ることで、はじめて組織文化として浸透します。
【運用の理想形】
- 法人からスマートフォンを支給し、管理可能なビジネスチャットツールを使用する
- 勤務時間外の送受信は原則禁止
- どうしても忘れないうちに送りたい場合は「予約送信機能」を活用し、相手の勤務時間に届くようにする
ビジネスチャットツールの導入には、「コストがかかる」という声もありますが、最近は安価な法人プランも増えています。
離職による採用コストを考えれば、決して高い投資ではありません。
とは言え、緊急事態(急変、火災、事故等)では連絡が必要な場合もあります。そのため、以下のような「例外的な場面」のルール化が重要です。
【ルールの一例】
- 勤務時間外・休日のスマホへの連絡は原則禁止
- 例外として、緊急事態(入居者の急変、事故、災害等)に限り許容する
- 「明日でいいこと」は絶対に送らない
- 連絡事項がある場合は、チャットの予約送信機能を利用する
また、やむを得ず休日に業務対応が発生した場合は、たとえ数分であっても残業代を計上しましょう。この「当たり前を当たり前にする」姿勢こそが、職員からの信頼につながります。
弁護士法人かなめでは、『働きやすい福祉の現場を、あたりまえにする』をミッションに掲げ、全国の介護事業者様をサポートしています。 職場環境づくりにお悩みの施設長・管理者の皆様、ぜひお一人で悩まずにご相談ください。