経営者や管理者として「決算書を読めるようになりたい」と会計の本を手に取ってみたり、簿記の勉強をしてみたり、と色々試してみたけど挫折してしまったという方は少なくないのではないでしょうか。
皆さんに安心して頂き、また認識を改めて頂くために伝えたい事は「決算書や数字が正確に読める事」と「正しい経営判断が出来る事」は別の能力だという事です。
経営者や管理者ができなくてはいけないのは正しい経営判断であって、必ずしも税理士や会計士のように細かく数字を理解する必要はありません。
むしろ、数字を細かく読みこなそうと思うがために正確さや細部にとらわれてしまい肝心の会社のお金の流れの全体像が見えなくなるという落とし穴にはまってしまうのです。
今回の記事で伝えたい内容は以下の2つです。
このお金のブロックパズルの考え方は恩師である経営コンサルタントの和仁達也氏から教わりました。8年間現場で活用してきた経験を踏まえてお伝えさせて頂きます。
まず、税理士や会計士が見る経営数字と、内部の経営判断に使う数字の違いについて考える前に、会計を分かりづらくしている理由を挙げてみます。
・銀行員、税理士や株主など社外の関係者が見やすい表記になっている ・財務会計と管理会計でルールが違う ・細かい数字まで理解しないといけないという固定観念
2つ目に挙げた通り、実は税理士や会計士が見ている会計は財務会計であり、私たちが経営判断で使う会計は管理会計であるという違いがあります。
医療現場で看護師やセラピストは採血データを見ることが多いですが、その採血データがどのような仕組みで機械から算出されたのか、あるいはなぜその表記が採用されているのかは、現場では重要ではありません。その数字から患者がどういう状態にあるのか、どういう治療やケアが必要なのかを判断することの方が重要です。
財務会計や簿記を勉強する事は、その採血データを出している機械や表記の勉強をしている事に近いのです。
決算書では、会社の体調を見て、この数字が悪いから肝臓が悪い、太りすぎである、骨粗鬆症であるなどというように、数字から悪いところを読み解きます。そうやって、必要な判断・対処が分かるのです。
しかし財務会計ではそれを把握しづらいため、私たちが使いやすいように管理会計に変換しなおす必要があります。その管理会計を分かりやすく、どの方にも使いやすくしているのが7つのブロックパズルです。
以下に示す図が、7つのブロックパズルの全体像です。
ここからは7つのブロックパズルについて説明をしていきます。 実際に紙に書きながら読み進めて頂くと効果的です。
お金の出入りは図のように収入(売上)と支出(経費)、そこから余るお金(利益)から成り立っています。 訪問看護ステーションの収入と支出を図にすると以下のようなイメージになります。
これを、ブロックパズルへと変換していきます。 まずは収入となる売上高から記載していきます。
売上から変動費を引いていきます。 この時の変動費とは売上高と連動して増加する費用になります。
訪問看護の現場では、ガソリン費用や移動費用が該当します。
クリニックなどでは薬剤、点滴などの医療用品などが該当します。
そしてここで押さえておきたいことは、図で見ても分かるように、他の経費が差し引かれていくのは粗利からであり、ここで残った金額が会社の利益になるという事です。
そのため、いかに粗利を多くするか、粗利率を高くすることが重要になってきます。
訪問看護の場合、自転車訪問をしている事業所であれば粗利率100%、車やバイク移動している事業所であれば粗利率95%前後になってくるかと思います。
特に、自費サービスを始める場合は粗利をどれくらいの範囲でコントロールするかが重要になってきます。
次はこの粗利から固定費を引いていきます、引いて残った分が利益(経常利益)になります。
固定費は人件費や家賃、光熱費など、会社を運営する上で毎月だいたい同じ金額で費用がかかってくる経費の事を指します。
もし変動費か固定費か区別ができずに迷う項目があれば、一旦は固定費に入れてみて下さい。
その上で毎月5万円以上変動するようであれば変動費に振り分けてみても良いかと思います。
まずはお金の流れの全体像を把握する事、会計に対して慣れる事を優先して下さい。
次は固定費を「人件費」と「それ以外のもの」に振り分けていきます。
訪問看護運営では人件費が大きな割合を占めます。(ここでは粗利に占める)人件費の割合の事を労働分配率(人件費率とも言います)と呼びますが、訪問看護ステーションの労働分配率は60%が目安となります。
労働分配率が50%ほどであれば、60%程度に調整するよう賞与を上げたり、新たなスタッフの採用を検討したりするなどといった目安を置く指標として活用できます。
利益欄に入れる数字は、決算書の「経常利益」が該当します。
ここで実際にブロックパズルに書き直してみる練習をしたいのですが、ブロックパズルに数字を入れるにはおススメの順番があります。
数字を入れていく順番 (1)売上高 (2)粗利(売上総利益) (3)利益(経常利益) (4)人件費
実際の決算書はこのブロックパズルでいう固定費がバラバラに書かれていたり、固定費にあたる項目が多くて計算しにくかったりすることがあります。
図でも分かるように、固定費は売上高から粗利と利益を引いたものなので、粗利と利益が分かれば固定費も自動的に分かるのです。同様に人件費が分かれば、その他の経費も分かりますし、売上高と粗利が分かれば変動費も分かります。全部の項目の合計を計算していかなくても、ポイントとして必要な数字が分かれば他の数字が同時に分かるのです。
下のような数字になれば正解です。
最初は入力するのに時間がかかったり、ブロックパズルがどういう形でどんな項目があったのかを忘れてしまったりするかもしれません。
ブロックパズルの図を頭に入れ、何も見なくても書けるようにしていきましょう。
次回の記事では実際にこのブロックパズルをどのように使うのかについて解説していきます。
のぞみ医療株式会社取締役。ビジケア株式会社経営企画担当者。看護師、保健師。平成22年大阪大学医学部附属病院でICU、精神科勤務。平成26年開業医を育てる院長のもとで、経営・会計学を学ぶ。平成29年-令和2年、ビュートゾルフ練馬富士見台に管理者として勤務、同時に数社の社外CFO、COOとして経営企画、財務を担当。令和1年ビジケア株式会社に参画。令和3年のぞみ医療株式会社取締役に就任。