2027年度介護保険制度改正に向けた大きな焦点である「利用料2割負担の対象拡大」を巡る議論が、重要な局面を迎えています。
12月1日の社会保障審議会・介護保険部会で、厚生労働省は2割負担の対象となる所得基準を、現行の「280万円以上」から引き下げる複数の案を提示しました。
その具体的な基準と、急激な負担増を防ぐための「配慮措置」について解説します。
新たな基準:年収230万円までの範囲で検討
現在、介護保険の利用者負担は原則1割ですが、「一定以上所得者(単身世帯で年収280万円以上)」は2割、「現役並み所得者(同340万円以上)」は3割となっています。
(【画像】第130回社会保障審議会介護保険部会資料1より。)
今回、厚労省は2割負担の対象を「所得上位30%」程度まで拡大することを視野に、以下の4つの所得基準案(単身世帯の年金収入等)を示しました。
▼「単身世帯で260万円以上」
▼「単身世帯で250万円以上」
▼「単身世帯で240万円以上」
▼「単身世帯で230万円以上」
(【画像】第130回社会保障審議会介護保険部会資料1より。赤枠は編集部で追加)
最も対象が広がる「230万円以上」が採用された場合、対象者は最大で約35万人増える見込みです。
負担増への「配慮措置」は2パターンを提案
負担割合が1割から2割になると、最大で月2万2,200円の負担増になります。そのため、厚労省は2種類の配慮措置を打ち出し、いずれかを運用することを提案しました。
【配慮措置案①】「当分の間、月7,000円を上限とする」(期間は未定、最大負担額の3分の1相当に抑制)
【配慮措置案②】「預貯金が一定額以下の対象者は自己申請で1割負担に戻す」
それぞれの案の財政的な影響は、以下の通りです。
▼配慮措置案①(月7,000円が上限)を適用した場合
- 基準額「260万円」:対象者は約13万人増、介護給付費は約80億円圧縮
- 基準額「230万円」:対象者は約35万人増、介護給付費は約210億円圧縮
▼配慮措置案②(預貯金等が一定額以下で1割に戻す)
※預貯金のモデル(単身世帯)として「700万円以下」「500万円以下」「300万円以下」の3つを例示。
それに基準額「260万円」「250万円」「240万円」「230万円」を当てはめた試算を示しています。
例)預貯金額が300万円以下の場合
- 基準額「260万円」:対象者は約9万人増、介護給付費は約90億円圧縮
- 基準額「230万円」:対象者は約22万人増、介護給付費は約220億円圧縮
預貯金額の対象となるのは普通・定期預金、有価証券、投資信託など。 案②を導入する場合は市町村の事務負担を軽減するため、負担割合の切り替え時期を後ろにずらす案も検討されています。
議論の対立:財政安定か、高齢者の生活か
介護費用の総額が制度創設時の約4倍の14兆円に上る中、制度の持続可能性を巡って賛否が激しく対立しています。
【賛成・推進派】財源確保と世代間公平を重視
「所得上位30%までで見直しをすべき。配慮措置は上限設定を設ける案が現実的だ」 (伊藤悦郎委員/健康保険組合連合会常務理事)
「制度を支える側が減り、支えられる側が増える構造的な課題は物価高以上に深刻。改正は不可欠」 (野口晴子委員/早稲田大学政治経済学術院教授)
【慎重・反対派】生活困窮と利用控えを懸念
「年金収入に頼る多くの利用者がサービス利用を諦めたり、暮らしに行き詰まることを深く懸念する」 (和田誠委員/認知症の人と家族の会代表理事)
「月7,000円の配慮措置でも年8万4,000円の負担増だ。“当分の間”が終了すれば年26万円以上の増額になる。介護を要する人にこれほどの負担が納得されるか疑問」 (平山春樹委員/日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局局長)
また、日本医師会の江澤和彦委員からは「預貯金額が同じでも、年齢や余命によって必要な金額は異なる」として、一律の資産基準に対する懸念も示されました。
現場への影響と今後の見通し
これまでは「高齢者の生活への影響」を理由に3度見送られてきた本議論ですが、「骨太の方針2025」には年末までの結論が明記されており、今回は決定される公算が高まっています。
介護事業者にとっては、利用控えによる運営への影響に対応したり、資産要件が採用された場合の利用者支援が求められたりする可能性があります。

