社会保障審議会・介護保険部会では、”ケアプランの有料化(自己負担の導入)”など、長年結論の先送りが続いているトピックスについて動きがありました。
厚生労働省は新しい提案として、所得の多い利用者を対象に負担を求める案や、給付管理を切り分けて手数料を徴収する案を示すなど、年末の取りまとめに向けた落としどころを模索しています。
「制度の持続可能性」の確保に関する論点│2027年度介護保険制度改正へ
11月20日の同部会では、「持続可能性の確保」が議題となりました。
2027年度介護保険制度改正に向けた主要テーマの一つであり、すでに複数回話し合いがもたれています。
今回は、厚労省がこのテーマを巡る個別の課題や方針を以下10点に集約して示しました。
- 総論
- 1号保険料負担の在り方
- 「一定以上所得」、「現役並み所得」の判断基準
- 補足給付に関する給付の在り方
- 多床室の室料負担
- ケアマネジメントに関する給付の在り方
- 軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方
- 被保険者範囲・受給者範囲
- その他(金融所得、金融資産の反映の在り方)
- その他(高額介護サービス費の在り方)
なお、同部会では、政府の方針(2023年12月22日閣議決定の「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」)で、2027年度までに
- 2割負担の範囲の見直しについて結論を出す
- 利用者負担への金融所得の保有状況・金融資産の反映の在り方等の検討を始める
ことが挙げられていることと、
さらに、2040年頃を見据え、
- 「負担能力に応じたより公平な負担の在り方」も検討する
ことになっていることを踏まえて、年末までに27年度制度改正に向けた提言がまとめられることになります。
以下、主な議題について、厚労省が示す制度改正の方向性と部会の委員の受け止めについて整理します。
「一定以上所得」、「現役並み所得」の判断基準の見直し(2割・3割負担の対象拡大)
2割・3割負担の線引きについて、厚労省は高齢者の金融資産の保有状況や預貯蓄額を踏まえた議論に踏み込みました。
要介護(支援)世帯の金融資産を40・50代と比較するデータなどを示し、「相対的に負担能力があり、負担が可能と考えられる方に、2割負担の対象範囲を拡げること」などを提案しています。
この案については、利用者負担が増えることだけでなく、自治体の事務負担も懸念されています。
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(【画像】第129回社会保障審議会介護保険部会資料より。以下同様)
なお、具体的に金融所得を利用者負担にどのように反映するかは、現在、医療保険制度の見直しに向けた議論でも検討事項となっているところです。介護保険側では医療保険の対応を待って具体的な検討を進めることになりそうです。
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補足給付の更なる細分化
補足給付は21年度の見直しに続き、さらに細分化する提案がされています。
提案に対しては賛意が多かったものの、利用者の支払い能力を正確に把握する具体的な方法が明確でない段階では「時期尚早」との意見もありました。

多床室の室料負担
こちらは、介護老人保健施設と介護医療院の多床室の室料を利用者の自己負担とする案です。
2025年8月から老健や介護医療院の一部類型で導入されていますが、この対象を拡大する方針に対し、主に経営当事者が反対しています。
軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方
要介護1・2の利用者を対象とした生活援助サービス等への保険給付を外すか否かについては、今回、新しい提案はありませんでした。
移行について具体的な検討を進めるために必要なデータとして現在、厚労省が総合事業の実施状況を調べているところです(令和7年度老人保健健康増進等事業等)。
厚労省は今回、この見直しについて「引き続き、包括的に検討を行う」と投げかけていることから、27年度制度改正での対応は見送られる見通しです。
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被保険者範囲・受給者範囲の見直し(第2号被保険者の年齢引き下げ)
こちらは中長期的かつ抜本的なテーマで、第2号被保険者の対象年齢を40歳未満に引き下げるという案です。
大きな進展はなく、検討事項として持ち越しになる可能性が高そうです。
高額介護サービス費の在り方
高額介護サービス費は創設移行で2回見直しが行われ、一般的な所得があるとみなされる層の上限額引き上げや、上限額を設定するための収入区分の細分化が行われています。27年度改正に向けても見直しの余地があるとして議論の俎上に上っています。
ケアマネジメントの有料化を部分的に導入する3つの案
「持続可能性の確保」を巡る議論の中でも反対意見が多い、ケアマネジメントの有料化についてです。
特に、サービスの”利用控え”への懸念を踏まえ、厚労省は今回、新しい案として、
- 利用者の所得状況を勘案してケアマネジメントを有料化する
- 特定施設入居者生活介護以外の「住宅型」有料老人ホーム(該当するサービス付き高齢者向け住宅を含む)の入居者に対するケアマネジメントを有料化する
- ケアマネジャーの給付管理を始めとする事務的な業務について、ICTによる業務効率化が十分に進展するまでの間、実費相当分を利用者負担として求める
ことを示しました。
ただし、利用者団体や日本介護支援専門員協会、事業者団体など従来からケアマネジメントの有料化を反対する立場の委員は、今回の厚労省案にも強く反対しています。