2027年度介護保険制度改正に向けて議論を進めている社会保障審議会・介護保険部会。 10月9日の本部会では、担い手が不足し事業所の撤退が相次ぐ「中山間・人口減少地域」のサービス提供体制が論点となりました。
厚生労働省は、人員配置基準の緩和を特例で認めることなどを柱とする特例介護サービスの新たな類型案を打ち出しました。
訪問介護への包括報酬導入案についても、細部の検討が進んでいます。
※本テーマに関する前回の検討状況はこちら:人口減少地域における介護保険制度の「柔軟化」へ具体案―社保審・介護保険部会
2027年度の介護保険制度改正に向けて同部会では、全国を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」の3つに分類し、各地域の実情に応じたサービス提供体制を構築するという方針に沿って検討が進んでいます。 中でも「中山間・人口減少地域」では、必要とされる介護事業所が存続していくための体制の整備が急がれています。
こうした事情を踏まえ厚労省は、特例介護サービス(自治体によって人員・設備・運営基準の一部緩和を認める「基準該当サービス」や「離島等相当サービス」がある)の中に、やむを得ない場合の特例的な対応として、中山間・人口減少地域に限定した新たな類型を追加する案を示しました。
今回、この「新類型」案について、厚労省はこれまでよりも詳しいイメージを示しました。 その内容は以下の通りです。
▼地域:中山間・人口減少地域に限定 ▼指定・登録:市町村等(保険者) ▼人員配置基準:国で定める基準(基準該当サービスと同等または緩和)に従い、都道府県が条例で規定(職員の負担や質の確保に配慮することが前提) ▼報酬:地域の実情に応じた包括的な評価の仕組みの設定も可能に ▼対象:特例介護サービスの枠組みが既に認められている居宅サービスなどに加え、地域密着型サービスや施設サービスも新たに対象にする
(社会保障審議会・介護保険部会10月9日開催分資料「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築等」より)
中山間・人口減少地域では、
といった訪問系サービス特有の課題に対応するために、「出来高報酬のほかに、利用回数に左右されない月単位の定額報酬(包括的な評価の仕組み)を選択可能にする」という案も検討が進んでいます。
「包括性」導入に当たって議論を深めるべく、厚労省は今回、
ことなどを付け加えました。
委員からは方向性には理解が示されたものの、配置基準の緩和には反対の声も上がりました。
山本則子委員(日本看護協会副会長)は、「医療と介護の複合ニーズを持つ高齢者が増加すると見込まれる中、ケアの質の低下に直結する」と、慎重な判断を求めました。 また平山春樹委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局局長)も、「ICTによる効率化が1人分の労力に置き換わる状況ではない。業務負担の増加とそれに伴う離職で人材不足の加速が懸念される。緩和を行うべきではない」との立場を鮮明にしました。
包括報酬の導入に対しては、小林広美委員(日本介護支援専門員協会副会長)は、「利用者の視点では利用回数によって不公平感が生じることがある」とし、配慮を求めました。 こうした意見の他にも、報酬が選択制となることに山際淳委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は、「複雑な構造では保険者が管理しきれないのではないか」とし、「制度導入に当たっては国がリードすべき」と述べました。
ルポライター・社会福祉士。ブリッジ・ジャパン(マーケットニュース執筆)、日本放送協会(N H K)、C Bニュース(医療、介護、障害分野での執筆)などを経てフリーランスに。ライフワークではハンセン病問題を継続取材。