近年、高齢者虐待をめぐる介護事業者の皆様からの相談が増えています。
特に、利用者の怪我や内出血が見つかった際、事実関係が不明確なまま家族から「職員による虐待ではないか」と疑われるケースは、デイサービス事業者にとって大きなリスクとなります。また、現場の精神的な負担も大きな問題です。
今回は、デイサービス利用者が怪我をしていることがわかったとき、家族から理不尽に虐待を疑われた場合を想定し、
- 事業者としてまず何をすべきか
- 高齢者虐待防止法上、どのような対応が求められるのか
- 職員と事業所を守るための実務対応
について、解説します。
【相談事例】利用者に内出血が見つかり、家族から「虐待だ」と責められたケース
今回の相談事例は次のとおりです。
実際に多くの事業所で起こり得る典型的な相談事例です。
私はデイサービスの管理者です。
とある利用者のことで大変困っています。
その利用者は、うちのデイサービスの利用を開始したばかりで、その日はまだ3回目の利用日でした。
その日、デイに来られた後、脇腹に内出血があるのを発見し、看護師が「これはすぐに家族に連絡しないと」と言ったため、家族に連絡をしたのです。
そうすると、家族が「え?内出血?あなたたち、うちのお父さんを虐待したのでしょう!これは虐待ですよ!」といきなりすごい剣幕で騒いだのです。
私たちとしては、利用者が脇腹を負傷するような身体接触自体がデイサービス内でなかったと考えており、家族からいきなり当事業所の虐待を疑われて困惑しています。
一体どのように対応すれば良いのでしょうか?
デイサービスとしては非常に困惑する事例です。
このように、あらぬ虐待の疑いをかけられた場合、どのように対処すべきでしょうか?
ポイントは次の3つです。
①事実関係を時系列で正確にまとめる
②市町村に速やかに虐待通報する
③家族と信頼関係が構築できなければ別の施設へ移行する
以下、順番に解説します。
デイサービスが「虐待を疑われた」ときに取るべき3つの実務対応
①感情論を排し、事実関係を時系列で正確に整理する
自分たちは虐待していないと認識しているケースであっても、相談事例のように、家族から突然虐待の疑いをかけられてしまうことがあります。 そのような場合に、まず落ち着いて実施すべきことは、事実関係を時系列で正確に整理することです。
相談事例では、デイサービスの利用を開始してからまだ3回目の利用日に起きた出来事でした。 つまり、利用開始から現在に至るまでの経緯を、比較的限定した範囲で整理できる事案だといえます。
そこで重要になるのが、脇腹の内出血を確認するに至るまでの経緯を、具体的に記載することです。 相談事例では、脇腹を負傷するような身体接触はデイサービス内ではなかったとのことですから、送迎の場面を含め、当日どのような介助を行ったのかを時系列に沿って整理していきます。
その結果、脇腹を負傷させるような介助が一切なかったのであれば、その内容を事業所としての報告書にまとめておくことが重要です。 また、当日の状況だけでなく、前2回の利用時についても、脇腹を負傷するような出来事がなかったかを検証するため、実施した介助内容を正確に記録しておきましょう。
このように事実関係を積み上げて整理することで、脇腹を負傷するような事象はデイサービス内では発生していないことを、第三者に対しても説得的に説明することが可能になります。 感情的に「うちの事業所ではない」と主張するのではなく、冷静に事実を整理し、客観的に説明できる状態を整えることが、最初に取るべき対応です。
② 高齢者虐待防止法に基づき、市町村へ速やかに通報する
事業所としては「自分たちの職員が虐待を行った事実はない」と考えている場合であっても、利用者に怪我や内出血が見つかり、虐待の可能性が否定できない状況では、高齢者虐待防止法に基づく対応が求められます。
実務上、このようなケースでは、デイサービス職員による虐待ではなく、家族による虐待が疑われる事案であることも少なくありません。 実際に、利用者本人から事情を聴き取る中で、「家族に叩かれた」「自宅で怪我をした」などの説明が得られるケースもあります。
その場合は、高齢者虐待防止法上の義務に則って、速やかに市町村に虐待通報をしましょう。
通報の際には、①で整理した事実関係、すなわち
- 利用開始からの経緯
- 当日および過去の利用時に実施した介助内容
- 事業所内で虐待に該当する行為が確認されなかったこと
といった点を、客観的な事実として行政担当者に共有することが重要です。
③家族と信頼関係が構築できなければ利用継続を再検討する
今回の相談事例のケースでは、家族との信頼関係の構築は難しそうですが、虐待疑いをかけられているので、誠実に説明する責任はあると思います。 調査した結果をふまえ、ご家族と面談し、事情を説明しましょう。
それでもデイサービス側の虐待を疑うようであれば、もはや信頼関係の構築が難しい事案と判断し、速やかに別の事業所へ移行してもらうことをお勧めします。 デイサービス側の職員が関与していない事案であるにもかかわらず、虐待があったと決め付けて難癖をつけてくるような家族とは、今後の利用においても多くの衝突が予想されます。 職員の精神的負担を考えても、信頼関係の構築が難しいと判断するケースでは、別の事業所へ移行して頂くことを組織として決断した方が良いと思います。
以上、今回は、家族から理不尽に虐待を疑われた場合に、どのように対応すべきかを解説しました。
弁護士法人かなめでは、『働きやすい福祉の現場を、あたりまえにする』をミッションに掲げ、日本全国の福祉事業者の方々を法的な観点からサポートしています。
高齢者虐待事案に対応することは、精神的にも相当疲弊すると思います。
また、高齢者虐待防止法や老人福祉法等の法的な専門知識を前提とした対応が求められます。
高齢者虐待事案で悩んでおられる事業者の方々は決して自分たちだけで悩まず、弁護士に相談の上、適切に対応していくことをお勧めします。
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