介護と医療の連携には「共通の指標・定義が必要」 社保審・介護保険部会で意見相次ぐ

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85歳以上の医療と介護の複合ニーズを抱える人が急増する2040年を見据え、地域包括ケアシステムの体制をいかに確保していくか−。

6月2日に開かれた社会保障審議会・介護保険部会ではこの課題に対応するため、医療と介護の連携を強化する方法について議論が行われました。

その中で、それぞれの分野で用いられる評価指標や定義が異なることが情報共有の妨げになっているとし、統一するべきだという提案が多くの委員から上がりました。

2027年度から介護施設で完全義務化される予定の協力医療機関の選定についても、それぞれの立場から主張がなされました。

医療と介護の連携がテーマに

この日の介護保険部会では、4月に公表された「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会」の中間とりまとめで提言された内容のうち、「地域包括ケアとその体制確保のための医療介護連携」を中心に話し合われました。

議論を前に、厚生労働省は主な論点として、以下の内容を挙げました。

▼地域包括ケアシステムにおいて、適切な医療・介護サービスを受けられるよう受け皿を確保し、急変時に通院や入院ができるよう、医療機関と介護事業者との間で情報共有や顔の見える体制を構築する必要があるのではないか。
▼24年度診療報酬・介護報酬改定で、介護保険施設と協力医療機関との連携を強化する改定が行われたが、マッチングができていない福祉施設・介護施設があり、地域差も大きい。都道府県が行う地域医療構想調整会議を活用してはどうか。
▼地域医療構想との接続の観点から、都道府県の役割と市町村の役割を整理し、地域におけるさまざまな主体の間で医療と介護が連携していくことが必要ではないか。
▼都道府県の圏域、二次医療圏や老人福祉圏域、市町村の圏域など、それぞれの圏域でどのように関係者が議論していく形が適当か。

施設系サービス 協力医療機関の定めが2027年度から完全義務化

24年度介護報酬改定ではこうした連携を進めるため、新たに「協力医療機関連携加算」が設けられました。介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院が、協力医療機関と病歴などの情報共有をするカンファレンスを定期的に開くことを評価するものです。

協力医療機関は、以下の3つの要件を全て満たす必要があります。

  1. 入所者の急変時に医師または看護師が相談対応を行う体制を常時確保
  2. 施設からの求めがあった場合、診療を行う体制を常時確保
  3. 入院を要すると認められた入所者を原則として受け入れる体制を確保

(【画像】厚生労働省資料「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」より)

さらに、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院では、協力医療機関を指定することが、3年の経過措置を経て27年度から完全に義務化されます。

特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護でも、①と②を努力義務と定めました。

しかし、実態として、こうした連携はスムーズに進んでいません。
厚労省が4月に公表した「高齢者施設等と医療機関の連携体制等 にかかる調査研究事業」では、3つの要件を満たす協力医療機関を定めている介護老人福祉施設は56.6%と約半数に止まり、介護老人保健施設で70.0%、介護医療院で72.4%、養護老人ホームで45.7%だったことが分かりました 。

(【画像】厚生労働省「高齢者施設等と医療機関の連携体制等にかかる調査研究事業」結果概要資料より)

また定めていない施設については、「まだ検討を行なっていない」という回答が介護老人福祉施設で31.6%、介護老人保健施設と介護医療院で25.0%、養護老人ホームは44.1%に上りました。

(【画像】厚生労働省「高齢者施設等と医療機関の連携体制等にかかる調査研究事業」結果概要資料より)

こうした結果を受け、厚労省は、5月末に都道府県などに向けて通知を出し、施設の連携状況の把握や、義務化されたことの周知を行い、施設を支援するよう呼びかけています。

「指定取り消しに及ぶことを知らない施設もあるのでは」 懸念する声

介護保険部会に出席した委員からは、3年の経過措置のリミットを念頭に置いた意見が多く上がりました。

健康保険組合連合会常務理事の伊藤悦郎委員は、「地域差があるとはいえ、全ての施設に実効性のある対策をとっていただきたい。経過措置期間が延長されることがないように対応してもらいたい」と念を押しました。

一方、施設側の委員は、連携を進めるためにはより詳細な現場の状況把握が求められると主張しました。全国老人福祉施設協議会副会長の山田淳子委員は、加算の算定に必要な定期的な会議を開くことが、「医療・介護ともに負担だと言わざるを得ない」とし、「要件を満たすために協力医療機関を複数定めている場合、それぞれと会議を行わなければならない。どの程度なら負担感が軽減され、介護と医療の双方にとって有益であるかの検討をお願いしたい」と提案しました。

小林司委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)も、「高齢者施設等では協力医療機関を定めるにあたり、どこに相談すればよいか分からないという課題もある。協定の締結が進んでいない理由を一つ一つ取り除いていくことが必要だ」と述べました。

こうした意見に加え、東憲太郎委員・全国老人保健施設協会会長は、「協力医療機関を定めることは運営基準になっており、3年間の経過措置が過ぎる27年の3月末までに定めていない場合、減算ではなく指定の取り消しにまで及ぶという状況を、高齢者施設の方があまり知らないのではないかと危惧している」として、周知を一層進めるべきだとしました。

 「何の薬を飲んでいたかも分からない」−共通の指標やツールを求める声

また議論の中で、医療と介護の連携を進める前提として “共通言語”を作らなければならないという意見があったことが注目されます。

日本慢性期医療協会会長の橋本康子委員は、現場で難しさを感じている点として、ADL(患者・利用者の日常生活動作)評価を例に挙げました。医療ではF I M (Functional Independence Measure)を使う一方、介護ではBI(Barthel Index)を使うといったように指標が異なることを説明。記録の方法についても、医療と介護では異なるツールを使っており、「何の薬を飲んでいたかも分からない状況になっている」と述べました。その上で、「連携の話をする時には、こうした根本的な部分を考えていかなければならない」と強調しました。

これについては、 “2040年に向けたあり方検討会”の座長を務める野口晴子委員(早稲田大学政治経済学術院教授)も、「医療と介護の両方のKPI (重要業績評価指標)やKGI(重要目標達成指標)を構築するに当たり、共通の定義を決めることが非常に重要だ」との認識を示しました。 今後、医療・介護DXを進めていく上で避けては通れない課題だと言えそうです。

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