人口減少地域における介護保険制度の「柔軟化」へ具体案―社保審・介護保険部会

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担い手不足や事業所の撤退が深刻化する「中山間・人口減少地域」について、2027年度の介護保険制度改正で導入が検討される規制緩和の方向性が見えてきました。

これらの地域では、サービスの提供体制を維持するために制度の柔軟化を認める方針で、特例の対象は「特別地域加算」の対象地域が中心となりそうです。

特例の具体案としては、訪問介護の報酬包括化や市町村が事業所に委託して実施する類型のサービスの創設などが挙げられています。

なぜ規制緩和を検討? 2040年を見据えた介護保険制度改正の基本方針

2027年度介護保険制度改正は、2040年を見据えた持続可能なサービス提供体制の整備が主要テーマとなっており、その方向性を定める重要な転換点と位置づけられています。

その実現のため、全国を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」の主に3つに分類し、それぞれの地域特性に応じたサービス提供体制を構築していくことが、基本的な方向性となっています。

(*参考記事:2040年に向けた介護の「あり方」ポイント解説―国の中長期ビジョンが明確に

中でも、サービスの担い手と需要の減少が深刻な「中山間・人口減少地域」では、サービスを確保する観点から、人員配置基準などの規制を柔軟に運用することが重要な検討事項とされています。

中心的な話題は人員・設備基準の緩和や訪問介護の報酬への「選択制」導入

9月8日の社会保障審議会・介護保険部会では「中山間・人口減少地域」の扱いをテーマに具体的な議論がスタートしました。

検討事項は主に、

  • 制度の柔軟化や特例を認める「中山間・人口減少地域」をどこにするのか(下の表の①)
  • 「中山間・人口減少地域」に認める制度の”柔軟化”や特例の具体案を何にするか(下の表の②~⑥)

に分けられます。

厚生労働省が示した「論点」 厚労省の提案(制度改正の方向性)
① 地域の類型の考え方

(「中山間・人口減少地域」をどの地域にするか)

「特別地域加算」の対象地域を基本とし、人口減少や地域の事情等も考慮して対象地域を拡充する

※市町村の一部エリアを対象地域として指定することも検討

② 地域の実情に応じたサービス提供体制の維持のための仕組み 「特例介護サービス」(自治体によって人員・設備・運営基準の一部緩和を認める「基準該当サービス」や「離島等相当サービス」など)の枠組みを居宅サービス等以外にも拡張する

※サービス・事業所間での連携等を前提に、管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件の緩和等を行うことも検討する

③ 地域の実情に応じた包括的な評価の仕組み 訪問介護の報酬について、従来の出来高報酬と月単位の定額報酬(包括的な評価の仕組み)を選択できるようにする
④ 介護サービスを事業として実施する仕組み 給付に代わる新たな事業として介護保険財源を活用して介護サービスを実施できる仕組みを創設する

※利用者ごとの個別払いではなく、サービス提供事業所に市町村が委託費を支払う方式を想定

⑤ 介護事業者の連携強化 特定の法人や事業所が、必要な事業を一定期間継続したり、地域の事業所間の連携促進・間接業務の引き受けを行えるよう、行政による関与の方法やインセンティブ付与を検討する。
⑥ 地域の実情に応じた既存施設の有効活用 「中山間・人口減少地域」の特例として、国の補助を受けて取得・改修した10年未満の介護施設などを他の事業に活用する場合でも、介護サービス需要の変動に対応するための市町村等が計画的に行う転用であれば国庫納付を求めないことにする。

(【表】「資料1人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築」を基に編集部で作成)

特例による基準緩和と訪問介護の「報酬包括化」を巡る議論

この日の会合では、厚労省が示した各論点について様々な意見が交わされました。

全体の方針である「地域類型」の考え方については大きな反対はなかったものの、サービスの具体像を巡っては、対立する意見なども出ています。

ここでは特に、事業者にとって関わりの深い、

  • 論点②:「中山間・人口減少地域」と位置付けた地域に導入する「特例介護サービス」を拡張する案
  • 論点③: 訪問介護の報酬について従来の出来高報酬と包括報酬を選択できるようにする案

を中心に、部会での議論のポイントを見ていきましょう。

「特例介護サービスの拡張」策―管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件の緩和等を認めるべきか

まず、中山間・人口減少地域に適用する特例介護サービスを拡張する案についてです。

中山間・人口減少地域においてサービス提供体制を維持するための仕組み(厚労省案) 「離島等サービスの実施状況」(厚労省) (【画像】社会保障審議会介護保険部会資料1「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築」より。以下同様)

一方で、

  • サービスの質の低下や離職の誘発
  • いったん制度が緩和されれば今後、「中山間・人口減少地域」以外に広がる可能性も否定できない
  • 施設サービスの場合は24時間対応が必要なため、職員の負担増加や人員確保がしにくくなる恐れがある

といった懸念から効果検証などを含む慎重な検討を求める意見もありました。

訪問介護への包括報酬の導入案

訪問介護に、出来高報酬と月単位の定額報酬(包括的な評価の仕組み)を選択可能とするような枠組みを設ける案は、季節による繁閑が大きい地域や小規模な事業所の経営の安定化を図ろうとするための方策です。 中山間・人口減少地域における包括的な評価の仕組み(厚労省案)

この案については利用者や専門職の立場から反対意見もあり、

  • 利用者側の不利益(十分な判断能力がない場合や、事業所が恣意的に提供回数を定めるような事態などが起こる可能性など)
  • ケアマネジャーの給付管理に生じる負担の増大

などの不安が訴えられました。

また、住んでいる地域によって同じサービスを受ける場合でも利用者負担額が異なる点も指摘されており、次回以降の議論でより詳細な検討が行われることになりそうです。

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