厚生労働省は6月11日に開催した介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会で、通信機能を備えた貸与の福祉用具について、介護保険の給付対象を拡大する案を取りまとめました。関連する解釈通知の改正案も示され、構成員らは大筋で了承しました。
この内容は社会保障審議会・介護給付費分科会に報告され、関係団体と実務上の課題について協議が行われる予定です。
この検討会では2024年から、本体部分に通信部分などを備えた2つ以上の機能(複合的機能)がある福祉用具について、保険給付上の取り扱いをどのように考えるべきか議論を重ねてきました。
現行の解釈通知を踏まえると、
ただし、
区分要件が設けられた背景には、別の機能が加わると用具の貸与(購入)価格が上がり、給付費が増大しかねないとの考え方があります。
しかし近年では、こうした厳格な規制が技術開発の制約につながるとの指摘もあり、福祉用具開発メーカーから見直しを求める声も上がっています。
また認知症高齢者の行方不明者の増加が社会課題となる中、より使いやすい見守り支援ツールへのニーズが高まっています。
警察庁によりますと、2024年に認知症(疑いを含む)があり行方不明になったとして警察に届け出があったのは全国で延べ1万8,121人で、この数字は10年前のおよそ1.7倍になっています。 (【画像】警察庁「令和6年における行方不明者届受理等の状況」より)
このうち491人は亡くなった状態で見つかり、その8割近く(382人)が行方不明となった場所から5キロ圏内で死亡が確認されました。
早期発見にはGPSによる位置情報が有効だとする分析もあり、こうしたことを踏まえ、検討会では時代に合わせた規制緩和について意見を出し合ってきました。
厚労省が示した解釈通知の見直し案には、具体的にどういった点が盛り込まれたのでしょうか。 まず【認知症老人徘徊感知機器】について確認しましょう。 現行の運用では、認知症である高齢者が屋外へ出ようとした時にセンサーで感知し、家族、 隣人などに通報するものとし、通信範囲は居宅内を想定しています(解釈通知P4)。
これについて見直し案では、まず区分要件を削除した上で、居宅内に加え、GPSなどで取得した屋外の位置情報を家族や隣人に通知する機能についても給付対象に加えることを盛り込みました 。 (【画像】令和7年度第1回介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会に関する資料「通信機能を備えた福祉用具の取扱いについて」より)
そして、通信機能を備えた歩行器や車いすなどもGPSなどで位置情報を取得し通知する機能を新たに給付対象とし、通信部分は内蔵でも可とします。
位置情報が通知された後の事業者の対応については、利用者と事業者との契約により、「利用者の自己負担のサービス」として利用が可能だと明記しました。
なお注意点として、福祉用具に付属しないGPS発信機を新たな種目として追加するものではありません。
「保険給付の対象となる通知機能」も整理されています。
上記で述べた位置情報に加え、 ▼バッテリーの状態 ▼福祉用具の異常・故障 ▼使用状況 といった内容について、厚労省は利用者や家族、福祉用具貸与事業者に通知する機能も対象に含むこととしました。 福祉用具の維持管理や修理交換といったメンテナンスに活用するためで、搭載種目の例として、電動車いすや歩行器、電動ベッドなどを挙げています。
また、この場合の通知後の事業者の対応については「従来の保険給付内のサービス」と位置付け、通知後即時の対応を求めるものではなく、「適時対応」と定めました。
見直し案では、「保険給付の対象外となる通知機能」もまとめました。
▼通話やチャット、動画といった他の目的で利用者が使えるもので、一般製品で代替できる機能 ▼バイタルセンシングで利用者の状態変化や体調不良を検知し、通知する機能 ▼インターホンやナースコールへの接続のように利用者が操作し緊急情報を通知する機能 ▼ナビゲーションやコミュニケーション機能 —などは対象外としました。
このほか、月々の通信料金やアプリケーションの導入、サブスクリプションの費用、スマートフォンやタブレットといった端末の導入費用、モデムやルーターといった環境整備にかかる費用も対象外にしました。
検討会の場ではこうした内容が大筋で了承され、今後正式に決定すれば改正通知が出される流れとなります。
議論の中で構成員からは、今後もルール作りについて話し合いを続ける必要があるとの意見が相次ぎました。
介護事業者の立場から斉藤裕之構成員(SOYOKAZE常務執行役員)は、福祉用具の異常・故障などの通知を受けた事業者の対応が、「即時ではなく適時対応」となっている部分について言及。「死亡していた時などに家族から責任を追求されることもあると思う。施設だと対応の遅れが訴訟につながることもあり、在宅でも同じような形になると事業者やメーカーにリスクを背負わせる形になってしまう」とし、明確に定義をしないと普及を妨げる可能性があると指摘しました。
また久留善武構成員(シルバーサービス振興会常務理事)は、個人情報保護の観点から位置情報の取り扱いについて危惧しているとし、「認知症の高齢者の場合、本人同意をどのように扱うか留意が必要だ」と強調しました。
他にも、今回の見直し案で給付対象に盛り込まれなかった「転倒・横転」の情報について、今後も検討することを要望する声もありました。五島清国構成員(テクノエイド協会企画部長)はハンドル型電動三輪車の事故が非常に多いと説明し、「農道やあぜ道での転落や転倒で身動きが取れず、亡くなるケースも多いのではないかと思う。こうした情報は発信できる形がいいのではないか」と述べました。
ルポライター・社会福祉士。ブリッジ・ジャパン(マーケットニュース執筆)、日本放送協会(N H K)、C Bニュース(医療、介護、障害分野での執筆)などを経てフリーランスに。ライフワークではハンセン病問題を継続取材。