2021年6月4日の国会で後期高齢者医療における自己負担2割負担の導入法案が可決した。経過措置があるものの、22年秋から年収約200万円以上が対象だ。また、今年4月、財政制度審議会において24年介護保険法改正において、2割自己負担層の拡充が提案されている。もしかしたら、24年時には一定の高齢者層は医療と介護の自己負担が2割となる可能性も否定できない。本連載の最終回となる今回は、医療と介護の自己負担2割について考えていきたい。
後期高齢者医療2割自己負担層の拡充で年間約2000億円の医療給付費が抑制できるという。このことで、既存の自己負担3割層と新たな2割負担層を併せると高齢者の約30%が該当することになる。
1人当たりの医療費は高齢になるにつれて増加する。2025年には団塊世代全てが75歳以上となり、急激に医療費が伸びることを見据え、一定の所得のある人には負担してもらうということだろう。
また、4月15日の財政制度審議会資料では「今般の後期高齢者医療における患者負担割合の見直しを踏まえ、介護保険サービスの利用者負担を原則2割とすることや利用者負担2割に向けてその対象範囲の拡大を図ることを検討していく必要」という提案が明記された。
現在の介護保険利用者のうち、自己負担2割及び3割の対象者は約10%が該当し、残りの約90%が1割自己負担となっている(表を参照)。しかし、24年介護保険制度改正において財務省提案が実現し仮に年収200万円以上を2割負担となれば、その対象は3倍にも膨らむことになる。
この約30%層の多くは厚生年金受給者であり、従来、国民年金受給者と比べて老後は安心と考えられてきた。しかし、今後の負担増を考えると、そうともいえなくなる。そもそも年間200万円の年金収入があっても、そこから定期的に上がる介護や医療の保険料が天引きとなり、可処分所得が目減りしていく。
いっぽう年金給付は減ることはあっても増えることはない。そうなると、年金収入を家計の中心に据えている厚生年金受給者にとって、医療と介護が2割自己負担となると厳しい状況になるだろう。
確かに、預貯金を使っていくことも考えられるが、要介護状態となる年齢になると退職金などの蓄えも減少しているだろう。年齢別の要介護認定率は、85歳以上になった段階では、50%を超える(表を参照)。厚生年金受給者であっても85歳や90歳になった段階では預貯金も、かなり目減りしてるのではないだろうか?
かといって娘や息子の仕送りも期待できるか?といったように、高齢者の家計問題を想像するだけでも厳しいに違いない。
このように医療や介護において一定程度の2割自己負担が実現されると、介護サービスにおける「利用控え」が生じることが予想される。特に、在宅介護分野においては顕著に表れると考えられる。
淑徳大学総合福祉学部教授(社会保障論、社会福祉学)。介護職、地域包括支援センター職員として介護係の仕事に従事後、現職。『介護職がいなくなる』岩波ブックレット。その他、多数の書籍を公刊。