2024年度介護報酬改定に向け、社会保障審議会・介護給付費分科会ではサービス別の対応について検討が進んでいます。訪問リハビリテーションについて、厚生労働省は認知症リハビリテーションへの取組みを評価する新たな加算の創設を提示し、賛同意見が多数を占めました。
また、医療介護連携の強化に向けた報酬体系の見直しや、老健に対し訪問リハビリテーション事業所のみなし指定を認める提案もあり、いずれも導入される見通しです。
訪問リハビリテーションに関する論点と検討状況をまとめます。
医療・介護連携の強化や認知症リハへの評価の新設などを厚労省が提示
11月6日の分科会では、訪問系サービスに関する2回目の審議が行われました。
そのうち、訪問リハビリテーションについて、厚生労働省が示した具体的な論点および改定案を以下にまとめます。
訪問リハビリテーションにおける医療・介護連携の推進に向けた見直し案
- ケアプランにリハビリテーションを位置づける際、意見を求めることとされている「主治の医師等」に、入院先の医療機関の医師を含むことを明確化する。
- 入院中の医療機関の医師が退院後の訪問リハビリテーションの必要性を判断した上で情報提供を行い、その情報提供を元に訪問リハビリテーションを実施した場合、退院後一定期間の評価を柔軟に対応する。
- 退院時の情報連携を促進し、退院後早期に連続的で質の高いリハビリテーションを実施するために、以下の対応を実施する。
(1)基本報酬の算定要件に、医療機関のリハビリテーション計画書を入手した上で、リハビリテーション計画を作成することを加える。
(2)訪問リハビリテーション事業所の理学療法士等が利用者の退院前カンファレンスに参加し、退院時共同指導を行った場合の加算を新たに設ける。
(【画像】第230回社会保障審議会・介護給付費分科会資料より(以下同様))
事業所評価加算・利用開始月から 12月を超えた場合の減算についての見直し案(介護予防訪問リハ)
- 介護予防訪問リハビリテーションの長期間利用者に関して、リハビリテーション会議で計画書の見直しを行うなど、適切なマネジメントを行った上で定期的にLIFEへのデータ提出を実施する利用者と、それ以外の利用者とで評価の差別化を行う。
- 要介護認定制度の見直しに伴い、事業所評価加算(120単位)を見直し、LIFEへのデータ提出を推進する。その上で、より適切なアウトカム評価に向けて検討を行う。
認知症リハビリテーションの推進に向けた新加算の創設案
- 認知症の方に対して、認知機能や生活環境等を踏まえ、応用的動作能力や社会適応能力を最大限に活かしながら、生活機能を改善するためのリハビリテーションを実施した際の加算を新たに設ける。
訪問リハビリテーション事業所のみなし指定に関する見直し案
- 介護老人保健施設について、医師の配置基準を満たした上で、当該施設の許可※の時に、訪問リハビリテーションに係る事業所の指定があったものとみなす。
※介護保険法第九十四条第一項又は第百七条第一項の許可
診療未実施減算「適切な研修の修了等」の猶予期間延長
- 事業所の医師以外が利用者の診療をする場合、訪問リハビリテーション事業所に、診療にあたる医師が「適切な研修の修了等」をしているかどうかの確認を義務づけ、研修の受講状況を把握できるようにした上で、事業所外の医師に求められる「適切な研修の修了等」について、令和6年3月31日までとされている適用猶予期間を3年間延長する。
- 次回改定までに事業所医師の診察が困難な理由等の解析を行い、診療未実施減算(50単位/回減算)に対し適切な対応を検討する。
訪問リハと介護予防訪問リハの基本報酬の見直し
- 訪問リハビリテーションと介護予防訪問リハビリテーションの基本報酬(いずれも307単位/回)に一定の差をつける。
地方分権に関する見直し案
- 令和4年の地方分権改革に関する提案で、指定基準における医師の必置や開設場所等の指定基準の制限を撤廃する基準緩和が提案されたことに対し、介護老人保健施設等で実施する訪問リハビリテーションについて、医師の人員基準を本体施設と同様の基準に見直した上で、みなし指定を可能とする。
厚労省の提案に対する委員の賛否
委員から発言が目立った論点を中心に、検討状況をまとめてお伝えします。
医療・介護連携の強化に向けた見直しに対する意見
厚労省はこの日の会合にて、
- 退院後の訪問リハビリテーションの利用開始まで2週間以上かかっている利用者が一定数いること
- 介護保険のリハ事業所が、疾患別リハ(医療保険)の実施計画書を入手している割合が44%に留まっていること
などを課題点として示していました。
厚労省の提案は、退院後もリハビリテーションを必要とする利用者に対して、切れ目なく質の高いリハビリテーションを提供するため、医療・介護の連携を強化しようとするものです。
提案内容に対する目立った反対意見はありませんでした。その上で、
- 理学療法士等が利用者の退院前カンファレンスに参加する場合の新加算について、実態が分からない中で、この対応案でなければ促進できないのか、よく検討する必要があるのでは。
- 医療介護連携の推進は非常に重要な課題。リハだけでなく口腔栄養もセットで提供できるよう検討を。
- 退院時にリハ事業所が決まっていない患者に対しては、退院前カンファレンスに集積できないことが想定されるのでは。
などの指摘がありました。
認知症リハビリテーションへの新加算の創設に対する意見
訪問での認知症リハビリテーションの提供を新たに評価する提案に対し、賛成意見が多数を占めました。
その上で、
- 理学療法士等がもっと介護保険制度の仕組みを知ることや、リハ職における認知症対応力向上研修の実施、認知量リハビリそのものを何なのかと学ぶなど、新たな研修が必要。
- 必要時の随時サービスの位置づけが望ましい。
との提案も出ています。
診療未実施減算の適用猶予期間の延長に対する意見
事業所外の医師に求められる「適切な研修の修了等」について、2021年度改定で提示された猶予期間(令和3年3月31日まで)に対し、さらに3年間の延長を求める提案になります。
厚労省の示した調査結果によると、診療未実施減算に係る「必要な研修等の受講」について、全く確認できていない事業所は62.1%。確認できたかかりつけ医のうち、必要な研修等を受講していた割合は3割未満は35%にのぼります。
こうした現状の中、適用猶予期間を延長する見直し案について、委員からは疑問を呈する意見があがりました。
具体的な意見は以下の通りです。
- 単にまた猶予期間を延長するという対応でいいのか疑問。減算単位の水準を見直す、あるいは質が担保されている活用可能な研修を考えることに検討の余地がある。
- 研修の受講の有無が確認できなかった原因について把握したい。延長したからこの課題が解決できるのか確認したい。
- 本来は適用期間内に必要な研修を受講していただくべきではなかったのか。対応案にある解析については、必ず行うようお願いしたい。
なお、介護予防訪問リハに対する見直し案や、訪問リハ事業所のみなし指定などについては目立った反対意見もなく、さらに詳細な検討へ進む見込みです。
今後の動向を引き続きお伝えしてまいります。