訪問看護ステーション運営の鍵は看護管理者にあります。どのような事業展開を考えているにせよ、管理者育成は重要な経営課題です。今回は、訪問看護ステーションの管理者を育成するために
何をすべきか、どうするのが良いかについてのヒントをご紹介したいと思います。
こちらの図は訪問看護事業で働く人に必要な能力を階層別に示したものです。カッツモデルをベースとして弊社がご提案しています。
訪問看護ステーションの管理者に必要なスキルは大別すると3つあり、「コンセプチュアルスキル」と「ヒューマンスキル」と「テクニカルスキル」があります。それぞれのスキルは明確に区別できるものではありませんが、大まかな理解のために活用いただければ幸いです。
ここでお伝えしたいことは、ステーションの成長段階によって管理者に求められる能力も変わっていくということです。開設当初は看護師の人数や訪問件数が少なく、人的資源管理もシンプルです。この段階では、管理者自身も現場業務の比重が高かったのが、看護師数や利用者数が増えるにつれて現場業務の比重が低くなってくる、というイメージをしていただくと分かりやすいと思います。組織運営の立場からは、新たなスキル獲得や成長を管理者が楽しめる支援が重要です。
訪問看護現場の教育では、同行訪問やプリセプター等によるOJTのほか、内外の技術研修等のOff-JTも活用されているでしょう。しかし、管理者の教育については頭を悩ませている会社が多いかもしれません。管理者の教育においてもやはりOJTとOff-JTを組み合わせていくことは効果的です。
OJTの実施に当たっては、新任管理者が他事業所の管理者のそばでその業務を学ぶか、現場と管理者の間に職位(リーダー等)を置いて管理者業務を段階的に学んでいくのが良いでしょう。しかし、このような方法をとるには社内に複数事業所があるか、一定の事業所規模が必要です。また、そのような条件が整っていたとしても、既存管理者が業務を教えるだけの余裕が無かったり、管理者業務のマニュアル化や言語化ができていなかったりすれば効果的な育成は難しいのではないでしょうか。
よく訪問看護事業者の方から「階層別研修を実施したいのだけど」とご相談をいただきます。階層別研修とは、現場看護師−リーダー−主任−看護管理者というように階段状に職位を置いて、階層別に必要な研修を行っていくような育成方法です。多くの場合は、現場職からリーダー、主任と階層が上がるにつれて管理業務が徐々に増えていくようになります。このような方法では、管理者候補者が徐々に管理職としての業務を増やしていくことで、ゆっくりと無理なく準備ができるため役割移行がスムーズに行えると考えられています。
ただし、このような階層別教育研修を行うためには、組織としての事前準備をしておくことが必要になります。どのような職位を置くのか組織図を作成し、各職位の業務内容について具体的に決めておかなければ、研修内容を決めることができません。また、職位に応じて給与がスライドする、階層別研修を受けることによる今後のキャリアの見通しを示す等の待遇面も対応させていかなければ職員の不満が生まれてしまいます。そして、最後にどのような研修をするのかを決めなければなりません。
また、よくある悩みとして、「座学の管理者研修で学んだ知識は現場で役に立てることができない」というものがあります。経営学の知見はそのまま看護の現場に当てはめることが難しいようですが、これまでお伝えしてきたような身近な事例のように日々の実践と結びつけることで、現場で活用できるスキルに発展させることができます。
そこで、弊社ではケースメソッドという教育方法を看護管理者向けに提供しています。ケースメソッドでは、実際に看護管理者が直面しやすい事例への理解や対処法を参加者全員で考えディスカッションをすることで、座学でありながら実際に経験したような学びを得ることができます。
以上のように、訪問看護管理者の教育には工夫や準備が必要でなかなかハードルが高いものです。ファーストステップとしては、会社内に訪問看護管理者が複数人いるのであれば、管理者業務において互いに苦心していることについて話し合い解決策を一緒に考えるというのも有効ではないでしょうか。話し合いの際には社内上位職者や外部有識者等をファシリテーターとしておくことで、客観的に状況を整理しながら前向きな解決策を考える場とする等の工夫をすると良いでしょう。それと並行して、上長が1on1をしながら看護管理者の日々の悩みの解決と成長の支援をしていくことで、訪問看護管理者が何に力を入れて活動し、何を困難と感じているのかが分かるようになり、研修のヒントとなるのではないでしょうか。
訪問看護というビジネスは看護師や療法士等の現場職員がサービス提供することで売り上げが立ちます。管理者は目標達成のために訪問件数や売上の管理だけではなく、現場職員が働きやすい環境を整えていくことが重要な役割となります。その際には、目先の利益を負うだけではなく、遠くの目標を見据えつつ足元を固めていくということが求められます。やることが多く大変な仕事ですが、とてもやりがいのある仕事だと思います。そこで、この連載が訪問看護経営者・管理者の皆様が目指す目標や夢を共有し、現場との対話を通じて良い訪問看護ステーションを作っていくヒントとなれば幸いです。
スティーブンP.ロビンス(2015)『【新版】組織経営のマネジメント』、ダイヤモンド・グラフィック社
ロバート・L・カッツ(1982)『スキル・アプローチによる優秀な管理者への道』、DIAMOND ハーバード・ビジネス
(つるがやまさこ)合同会社manabico代表。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修等の仕組みづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。 【合同会社manabico HP】https://manabico.com※プロフィールは記事配信当時の情報です