今夏公開された「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会による取りまとめ。2040年を見据えた福祉サービス全般の提供づくりの方向性を示したものであり、介護保険法改正の議論でも基礎となるため、事業者にはその内容を深く理解することが求められている。
今回は、この内容を介護施設に関わる方向けに施策がどのように具体化されていくのか、次期制度改正の検討に関わるポイントを抽出し、解説する。
今回の「取りまとめ」が示す最大のポイントは、今後の制度設計が全国一律ではなく、地域の実情に応じて大きく変化していくという点だ。
全国を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」の主に3つの類型に分け、それぞれの課題に応じた施策が検討されることになる。今後の報酬や基準に関する検討も、この地域類型を前提に進むと考えてよいだろう。
まず、大都市部においては、高齢者人口が2040年にかけて増加し続け、施設サービスの需要が急増すると見込まれる。特に、重度の要介護者や独居高齢者をいかに支えるかが重要なテーマとなる。
今後の議論の焦点は以下になるだろう。
高い地価や建築費を踏まえつつ、サービスの質を維持するための設備の基準等の在り方
次に、中山間・人口減少地域においては、施設サービスの需要が既にピークを迎えているか、今後減少していくことが見込まれる。このような地域では、多様なサービスを組み合わせてサービスを維持・確保できるよう、ニーズに応じた柔軟な対応が求められている。
そこで、以下の切り口が今後の議論の中心となるだろう。
法人等への支援策の具体案として、社会福祉法人や医療法人等が有する施設等の財産について、国庫補助がなされている場合の転用や貸付、廃止に係る補助金の国庫返納に関する規制の緩和を検討することが明記されている。特に、高齢者施設から障害者施設・児童福祉施設等への転用や、複数の施設の統合といった異なる分野を含めた横断的な検討が必要であり、地域密着型施設から広域型施設への転用についても、国庫返納が不要となるルールを明確化し運用を図るべきであるとしている。
高齢者人口やサービス需要が2040年までの間に増加から減少へ転じる見込みである一般市等では、将来のサービス過剰を招かないような制度設計が求められる。既存の介護資源等を有効活用しながら、需給の変化に応じて対応できるような報酬やサービス体系の検討が課題となるだろう。
早い段階から人口減少への備えを促すため、計画的な事業転換や連携を評価する仕組みが導入される可能性もある。
介護職員の処遇改善や職場環境の整備は、全ての地域に共通するテーマであり、引き続き最重要視されている。
2040年度までに約57万人の新たな介護職員の確保が必要であると推計されており、テクノロジー導入や業務の見直し、介護助手等への業務のタスクシフト/シェアを前もって行うことなどが対応策とされている。
デジタル行財政改革会議では、2029年までにテクノロジー導入率90%を目標とし、2040年までに施設系サービス等において約3割の効率化を目指すというKPIが設定されている一方で、現在の導入率が約32%であることを踏まえ、一層の導入支援(都道府県へのワンストップ型窓口の設置、テクノロジーの試用貸し出しができる仕組みの活用促進)が求められるなどとされている。この流れを受け、次期改定では、テクノロジーの導入や介護助手とのタスクシェアを評価する新たな加算の創設や、既存の加算の算定要件見直しといった議論も活発化するだろう。
「取りまとめ」では、介護事業を運営する法人に福祉医療機構(WAM)による資金融資など経営サポート事業、法人の合併支援業務など、経営基盤の強化に向けた多様な支援が提供されていることが示されている。
特に、社会福祉連携推進法人については、一定の要件の下で社会福祉事業を行うことを可能とし、関連業務の規模要件を緩和するといった、より使いやすい仕組みとしていく必要性が指摘されている。
小濱介護経営事務所 代表。一般社団法人日本介護経営研究協会専務理事。一般社団法人介護経営研究会 専務理事。一般社団法人介護事業援護会理事。C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問。