21年介護報酬改定の目玉の1つ「科学的介護」は、始動当初から大きな課題に直面しているのではないだろうか?実際、新規利用申請に係るはがきの発送が遅延するなど、一部、スムーズな事務運営が難しく、提出すべきデータの猶予期間を令和3年8月10日と先延ばしとなった。また、現場の介護スタッフ等の意識はどうであろうか?科学的介護の意味を理解しながら前向きに取り組んでいるだろうか?本稿では、科学的介護の課題について考えてみよう。
介護経営者にとって科学的介護情報システム、いわゆる通称「LIFE(Long-term careInformation system)」を活用して、厚労省へ利用者の状態などのデータを提出することは、「加算」取得から考えれば避けては通れない。
特に、施設系介護事業所を中心に「科学的介護」は至上命題であり、より経営と介護報酬(主な対象ノ加算は下記に記す)について考えていかなければならない。
科学的介護推進体制加算(Ⅰ)及び(Ⅱ)、個別機能訓練加算(Ⅱ)、
ADL維持等加算(令和4年4月以降の加算算定に係るデータ提出)、
リハビリテーションマネジメント加算(A)ロ及び(B)ロ、
リハビリテーションマネジメント計画書情報加算並びに理学療法、
作業療法及び言語聴覚療法に係る加算、
褥瘡対策指導管理(Ⅱ)、
褥瘡マネジメント加算、
自立支援促進加算、
排せつ支援加算、
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅱ)及び(Ⅲ)、
薬剤管理指導の注2の加算、
栄養マネジメント強化加算、
口腔衛生管理加算(Ⅱ)、
科学的介護推進体制加算、
栄養アセスメント加算、
口腔機能向上加算(Ⅱ)
しかし、介護現場の受け止め方はどうであろうか?データ入力を誰が行うか?「PDCA」サイクルにおけるフィードバックによる介護サービスの提供をどうしていくか?これまでの業務から考えて、より「負担」が強いられると考える職員も多いと考えられる者も少なくない。
介護経営者は「事業収支」を踏まえれば、これらの「加算」取得は当然と考えるだろうが、現場の介護スタッフらは「やらされ感」に陥ると、モチベーションが低下する。しかも、実際の入力項目において、真の介護サービスのあり方に繋がる効果的なデータなのかと疑問に感じる介護スタッフも多いのではないだろうか?
本当に役立つデータがフィードバックされ、自分達の介護サービスに参考になるのであれば、モチベーションも上がるであろうが、厚労省が求めているデータは、医学系情報に偏り疑問と考えるスタッフも少なくないであろう 。
そもそも、「科学的介護」の考え方は、医療分野においては意思決定をするにあたっては「根拠」「価値」「資源(サービス供給量)」といった3要素が重要という「エビデンスに基づく医療(EBM)」が参考にされている(図1参照)。
淑徳大学総合福祉学部教授(社会保障論、社会福祉学)。介護職、地域包括支援センター職員として介護係の仕事に従事後、現職。『介護職がいなくなる』岩波ブックレット。その他、多数の書籍を公刊。