訪問看護の運営基準に「虐待の防止」の項目が加わったことから、虐待防止に関するマニュアルや委員会の設置、担当者の選定などの準備を始めているのではないでしょうか?
そのような時に、「虐待防止検討委員会や研修はどのように行うの?」や「訪問看護ではどのような虐待が発生するの?」という悩みをお持ちの方も多いでしょう。
この記事では、訪問看護の経営者・管理者の皆様に向けて、運営基準で定められた虐待防止の取り組みや、虐待の事例などについて解説していきます。
2021年度の介護保険法改正では、訪問看護の運営基準に新たに「虐待の防止」の項目が追加されました。
第三十七条の二 指定訪問看護事業者は、虐待の発生又はその再発を防止するため、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。 一 当該指定訪問看護事業所における虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について、看護師等に周知徹底を図ること。 二 当該指定訪問看護事業所における虐待の防止のための指針を整備すること。 三 当該指定訪問看護事業所において、看護師等に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること。 四 前三号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと。
第三十七条の二 指定訪問看護事業者は、虐待の発生又はその再発を防止するため、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
一 当該指定訪問看護事業所における虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について、看護師等に周知徹底を図ること。
二 当該指定訪問看護事業所における虐待の防止のための指針を整備すること。
三 当該指定訪問看護事業所において、看護師等に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること。
四 前三号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと。
これらの虐待の防止に関する措置は、2024年4月1日より義務化となります。ここからは、虐待の防止に定められる内容について見ていきましょう。
虐待防止検討委員会は、虐待等の発生の防止・早期発見に加え、虐待等が発生した場合に確実に再発防止をするための対策を検討する委員会です。
委員会は定期的に開催することが必要で、テレビ電話装置等を活用して行うことができるとされています。
【虐待防止検討委員会の構成メンバー】
※構成メンバーの責務と役割分担を明確にすることが必要
虐待防止検討委員会では、以下の事項について検討し、そこで得た結果を職員に周知する必要があります。
【虐待防止検討委員会の検討事項】
虐待防止のための指針・マニュアルには、以下の項目を盛り込む必要があります。
【虐待防止のための指針・マニュアルの項目】
訪問看護事業所の職員に対して実施する虐待防止のための研修は、
とされており、研修の実施内容については記録する必要があります。
また、虐待防止のための教育を職員に浸透させるために、
が求められています。
虐待防止検討委員会や研修の実施や、指針・マニュアルの整備などを適切に実施するために、虐待防止の取り組みを推進する専任の担当者を置く必要があります。
この担当者は、虐待防止検討委員会の責任者と同じ職員が務めることが望ましいとされています。
ここで、高齢者虐待の定義について再確認しましょう。
訪問看護事業者が遵守しなければならない法律の一つに、高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)がありますが、この法律では、高齢者虐待について「養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待」と定義しています。
高齢者虐待は、暴力的な行為(身体的虐待)だけでなく、暴言や無視(心理的虐待)、必要な介護サービスの利用をさせない(介護・世話の放棄・放任)などの行為も含まれます。
家族などによる高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数は以下のようになっています。
一方、介護事業所の職員などによる高齢者虐待の相談・通報件数、虐待判断件数は以下のようになっています。
ここからは、虐待の主な種類をご紹介します。高齢者虐待防止法では、虐待の種類を5つに分類しています。
【高齢者虐待の種類】
高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
高齢者虐待にはどのような事例があるのか、種類別にそれぞれ見ていきましょう。
訪問看護で、職員による虐待を予防するためには、以下のような対策が考えられます。
訪問看護で利用者様への虐待が疑われる場合、どのような対応をとれば良いのでしょうか。
家族からの虐待が疑われる場合と、職員からの虐待が疑われる場合に分けて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
高齢者虐待防止法では、家族から虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合、速やかに市町村に通報しなければならないとされています。
(養護者による高齢者虐待に係る通報等) 第七条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。 2 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。 3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。
(養護者による高齢者虐待に係る通報等)
第七条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。
訪問看護の利用者様で虐待が疑われる方がいた場合、速やかに市町村または地域包括支援センターの高齢者虐待対応窓口に相談・通報する必要があります。また、ケアマネジャーなどと連携を取りながら、今後の対応を考えましょう。
高齢者虐待防止法では、事業所の職員が、自事業所の職員から虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合、速やかに市町村に通報しなければならないとされています。
(養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等) 第二十一条 養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。 2 前項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。 3 前二項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。 4 養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けた高齢者は、その旨を市町村に届け出ることができる。 5 第十八条の規定は、第一項から第三項までの規定による通報又は前項の規定による届出の受理に関する事務を担当する部局の周知について準用する。 6 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項から第三項までの規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。 7 養介護施設従事者等は、第一項から第三項までの規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。
(養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等)
第二十一条 養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
3 前二項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
4 養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けた高齢者は、その旨を市町村に届け出ることができる。
5 第十八条の規定は、第一項から第三項までの規定による通報又は前項の規定による届出の受理に関する事務を担当する部局の周知について準用する。
6 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項から第三項までの規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。
7 養介護施設従事者等は、第一項から第三項までの規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。
職員から「虐待を受けたと思われる利用者様を発見した」と相談を受けた場合は、速やかに市町村に通報する必要があります。また、虐待の疑いを市町村に通報した職員を、通報したことを理由として解雇などを行ってはいけません。
訪問看護事業所で高齢者虐待が発生した場合は、事故報告を求める自治体もあります。ここでは、兵庫県神戸市の例をご紹介します。
【報告しなければならない事例】
【報告方法】
ここまで、訪問看護の運営基準に定められた虐待の防止に関する取り組みや、虐待が発生した際の対応などについて述べてきましたが、いかがでしたでしょうか。
運営基準に新設された「虐待の防止に関する措置」は、2024年4月1日より完全義務化となります。虐待を防ぎ、虐待を発見した時に適切に対応するためにも、虐待についての委員会の設置、研修の実施を早めに開始することを検討してみましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。