訪問介護事業所(ヘルパーステーション)を運営する際は、介護保険法と、それに基づく政令や省令を遵守する必要があります。
人手不足が深刻な訪問介護事業所を経営する皆様の中には、「人員基準に違反した場合はどうなるの?」や「適切な事業所運営をするためには、どうやってスタッフを確保したらいいの?」などの疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
そのような方に向けて、この記事では訪問介護の人員基準に定められている内容と人員基準に違反した場合の対応などについて解説しています。
訪問介護の人員基準とは、事業所を運営するにあたって、最低限配置しなくてはいけない職種や人数の基準が定められている省令です。
訪問介護の基本方針は、「訪問介護の事業は、要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、入浴、排せつ、食事の介護その他の生活全般にわたる援助を行うものでなければならない。」と定められています。この目的に沿って利用者様に適切なサービスを提供するために、訪問介護事業所には、管理者やサービス提供責任者、訪問介護員を適切に配置しなければいけないことになっています。
訪問介護の運営基準には、サービスの提供にあたって、作成しなくてはいけない書類や利用者様・その家族に説明しなくてはいけない内容など、事業所の運営にあたって遵守しなくてはいけない基準が定められています。
訪問介護の運営基準については、こちらの記事に詳しくまとめていますのでご覧いただけると幸いです。
訪問介護の設備基準には、事務室などの最低限設置しなくてはならない設備や備品などについて定められています。
訪問介護の設備基準については、こちらの記事に詳しくまとめていますのでご覧いただけると幸いです。
それでは、訪問介護の人員基準で定められている具体的な職種と人数について見ていきましょう。
訪問介護員(ホームヘルパー)は、常勤換算で2.5人以上の配置が必要になります。
人員基準で定められている訪問介護員の資格要件は以下の通りです。
その他、都道府県によって定められる資格が異なる場合がありますので、詳しくはそれぞれの都道府県のホームページをご確認ください。
サービス提供責任者は、利用者数40人ごとに常勤1人以上の配置が必要になります。
ただし、利用者様の数が40人を超える事業所は、一定数の常勤のサービス提供責任者を配置した上で、常勤換算方法をとることができます。
また、以下の3つの要件を全て満たす場合に限り、利用者数50人ごとに常勤1人以上の配置が認められています。
(1)常勤のサービス提供責任者を3人以上配置
(2)サービス提供責任者の業務に主として従事する者を1人以上配置
(3)サービス提供責任者の業務が効率的に行われている場合
人員基準で定められているサービス提供責任者の資格要件は以下の通りです。
【常勤換算方法をとる場合】
利用者数が40人を超える事業所は、常勤換算方法をとることができますが、この場合は「一定数の常勤のサービス提供責任者を配置すること(下記参照)」、「勤務時間数が、常勤の訪問介護員等が勤務しなけらばならない時間数の2分の1に達している非常勤のサービス提供責任者を配置すること」、「サービス提供責任者を常勤換算数で『利用者数÷40』(少数第1位に切り上げ)以上配置すること」が必要になります。
【常勤換算方法をとる場合に配置しなくてはいけない常勤のサービス提供責任者の人数】
●利用者数が40人~200人以下の場合 (常勤換算方法としない場合に配置すべきサービス提供責任者の人数)-1
●利用者数が200人を超える場合 (常勤換算方法としない場合に配置すべきサービス提供責任者の員数)×2÷3 ※1の位に切り上げ
【計算例:利用者数60人の場合に配置しなくてはいけない常勤のサービス提供責任者の人数】
●必要となるサービス提供責任者の員数(常勤換算) 60/40=1.5人
●必要となる常勤のサービス提供責任者の員数 2-1=1人 ⇒常勤1人と非常勤で常勤換算0.5人のサービス提供責任者を配置しなくてはいけない。
管理者は、常勤で1人配置する必要があります。
ただし、管理業務に支障がない場合は、事業所内の他の職務に従事すること、または同一敷地内または道路を隔てて隣接する他の事業所の職務に従事することが認められています。
人員基準で定められている管理者の資格要件は特にありません。ただし、訪問介護員やサービス提供責任者を兼務する場合は、訪問介護員やサービス提供責任者の資格要件を満たす必要があります。
常勤換算とは、常勤の職員を「1」としたときに、「非常勤職員が常勤の何人分に相当するか」を計算する方法のことです。
訪問介護員の配置基準は、「常勤換算方法で計算した人数」が定められていますので、非常勤職員も含めて、人員基準を満たしているかどうか確認することになります。
【非常勤職員の常勤換算数の計算方法】
「従業者の勤務延べ時間数」÷「常勤従業者の所定勤務時間数」=常勤換算数
常勤の勤務時間を週40時間の事業所を例に、訪問介護員の常勤換算数を見ていきましょう。
したがって、このケースでは訪問介護員の人員基準である「常勤換算で2.5人以上」を満たしていることになります。
勤務日や勤務時間が不定期な登録訪問介護員(登録ヘルパー)の常勤換算数の計算に使用する勤務延べ時間数は、以下のいずれかの方法で計算します。
【登録ヘルパーによるサービス提供の実績がある場合】 登録ヘルパーの前年度における週当たりの平均稼働時間を、登録ヘルパー1人当たりの勤務延べ時間数とします。
【登録ヘルパーによるサービス提供の実績がないまたは極めて短期の実績しかない場合】 登録ヘルパーが確実に稼働できるものとして勤務表に明記されている時間のみを、勤務延べ時間数に算入します。勤務表上の勤務時間と実態が乖離している場合には、勤務表上での勤務時間の適正化の指導の対象となります。
常勤職員が育児や介護により短時間勤務を行っている場合は、「30時間以上勤務すれば常勤の従事者が勤務すべき時間数を満たしたものとする。」という取扱いになります。
例えば、常勤の訪問介護員の勤務時間が週40時間の事業所であっても、育児により短時間勤務の常勤訪問介護員が週30時間働いた場合、常勤「1」とカウントして、人員基準の訪問介護員の計算に含めることができます。
訪問介護事業所で、職員が退職し、採用が上手くいかず、一時的に人員基準を満たせない場合はどのような対応が必要になるのかを見ていきましょう。
【推奨する対応】
行政に報告や相談をせず、運営指導(実地指導)等で人員基準違反が明らかになった場合は、報酬の返還や指定取消等の行政処分にまでつながってしまう恐れがありますので注意しましょう。
訪問介護の人員基準に違反した場合の指導事例を見ていきましょう。
訪問介護を提供する資格がない職員が訪問介護サービスを行っていた。
無資格者2人が2カ月間で延べ約200回従事。
指定申請時に、管理者兼サービス提供責任者が常勤として勤務することができないにもかかわらず、常勤の管理者およびサービス提供責任者であるとして記載した「従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表」を提出。不正な手段により指定を受けた。
事例でもご紹介したように訪問介護の人員基準違反は、「資格要件を満たさない職員だったケース」と「人数が足りなかったケース」が多いようです。
このような人員基準違反に該当しないようにするための対策として、「採用した職員の資格を確実に確認すること」と「人材の採用と離職防止の取り組み強化」が挙げられます。
特に、「人材の採用と離職防止の取り組み強化」を進めるためには、離職した理由を把握し、待遇や職場環境等を改善することが必要になります。
【介護労働安定センターの令和3年度介護労働実態調査の主な前職をやめた理由】
【人材の採用と離職防止の取り組み強化のための具体的な施策】
ここまで訪問介護の人員基準について述べてきましたが、いかがでしたでしょうか。
訪問介護には「訪問介護員は常勤換算で2.5人以上」、「管理者は常勤で1人」、「サービス提供責任者は利用者数40人ごとに1人以上(大規模の場合は特例あり)」といった最低限配置しなくてはいけない職種と人数が定められています。
訪問介護員やサービス提供責任者の人員基準は計算のパターンがいくつかあることから、継続的に人員基準を満たしていることを確認して、適切な事業所運営を行いましょう。
ここでご紹介した内容が、皆様の事業所運営のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。