研修16_新型コロナウイルス感染症と労災の関係

2021.06.16
2024.03.25
10:24
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目次
    1.新型コロナウイルス感染症発生時BCPは『ヒトのやりくり』
      2.感染を恐れる職員に出勤を命じることはできるか
        3.新型コロナウイルスに罹患した職員に補償はあるのか
          4.『労災=悪』ではない
            5.フローチャートの作成と周知の重要性

              1.新型コロナウイルス感染症発生時BCPは『ヒトのやりくり』

              令和3年度の介護報酬改定で、全ての介護事業者を対象にBCP(業務継続計画)の策定が義務付けられました(3年間の経過措置有り)。

              新型コロナウイルス感染症発生時のBCP(以下、『コロナBCP』と略します。)の最大の特徴は、『ヒトのやりくり』を如何に行うかにあります。

              (コロナBCP策定ガイドラインはこちらをご覧下さい)

              大規模震災の発生時と異なり、新型コロナウイルス陽性者が出た場合であっても、介護事業は原則として事業中断が想定されていません。介護サービスを利用する人へのサービス提供を中断すると人命に関わる事態に直結するため、中断する訳にはいかないのです。

              むしろ、陽性者が出た場合、業務量は通常時よりも急増します。それ故、コロナBCPの要は『ヒトのやりくり』なのです。より詳しくは、前回の『弁護士視点で見るBCP策定の重要性とリスクマネジメント』をご覧下さい。

              (前回の記事はこちらをご覧下さい)

              2.感染を恐れる職員に出勤を命じることはできるか

              さて、『ヒトのやりくり』が大切とは言うものの、「感染するのは怖いから出勤したくない」と主張する職員に対し、どう対処すれば良いのでしょうか。出勤命令を出すことはできるのでしょうか。具体的なケースで考えてみましょう。

              【ケース①】

              当社が運営する介護施設で、利用者15名が新型コロナウイルス感染症に罹患しました。保健所や医療機関との連携、感染者の個室管理や基礎疾患を有する職員に対する勤務上の配慮等、徹底した感染対策を実施した上で業務継続に奮闘しています。

              しかしながら、一部の職員は、「新型コロナウイルスに感染するのは怖いから出勤しない。事態が収束するまで自宅待機する。」と主張して出勤しません。第一線で奮闘している他の職員からも「何故、あの人は出勤しなくて良いんですか。」と苦言が出始めており、毅然と対応しないと職場の士気が低下してしまいます。出勤しない職員に対して出勤を命じることはできるのでしょうか。また、出勤しないことに何らかのペナルティを与えることはできるのでしょうか。

              これは、使用者側は、職員に対して危険を伴う労務の提供を命じることができるのか、という問題です。結論から申し上げますと、雇用契約の中で想定された危険であれば、労務提供を命じることは可能です。

              介護事業者は、感染症蔓延時であっても、原則として、感染症対策を徹底した上で業務を継続することが求められています。現状、新型コロナウイルス感染症についても、同様に業務の継続が求められており、介護現場で働く職員にとって、新型コロナウイルス感染症に罹患するリスクがある中で働くことは、雇用契約の中で想定された危険です。

              したがって、職場において、感染症対策等の必要な安全措置が講じられているのであれば、職員は労務の提供を拒絶することはできません。この拒絶は、単に労務の不提供であり雇用契約上の債務不履行となります。そのため、職場としては、このような職員に対し、出勤命令を出すことが可能であり、仮に出勤命令に違反して出勤しない場合には、就業規則に基づく懲戒処分等のペナルティを講じることが可能です。当然のことながら、出勤しない期間はノーワークノーペイの原則に立ち戻り、欠勤分の給与を支払う義務はありません。

              「感染を恐れる職員に対して、あまりにも酷い仕打ちではないか。」という声も聞こえてきそうですが、ここは一旦立ち止まって最優先課題は何かを考える必要があります。

              介護事業者の最優先課題は、業務継続です。

              筆者は、業務継続において優先すべきことは、業務の遂行と職員の安全のバランスだと考えています。職場において感染症対策の徹底等の安全措置が講じられているのであれば、業務継続を阻害する要因は徹底的に排除しなければなりません。

              経営者や管理者が、「働きたくないと主張する職員に強く命令するのは嫌だな。かえって怒らせてしまったらどうしよう。」「もしこれで新型コロナウイルス感染症に罹患させてしまったらどう責任をとれば良いのだろうか。」などと躊躇し、「なんとなく怖いので出勤しません。」という一部の職員の主張を受け入れてしまうと、業務継続に必要な人員を確保できなくなってしまいます。

              何より、第一線で奮闘している職員らからは不満の声が噴出するでしょうし、最悪の場合、離職してしまうかもしれません。業務継続にとって不可欠な職員らの離職は、介護事業所にとって何よりの痛手です。

              感染症対策等の必要な安全措置を講じることはもちろん大前提です。介護事業者としては、安全措置を講じた上で、職員に対して、そのことを十分に説明し、それでも労務の提供が拒絶される場合には、毅然とした対応をとるようにしましょう。

              3.新型コロナウイルスに罹患した職員に補償はあるのか

              【ケース②】

              私が働いている介護施設で、利用者15名が新型コロナウイルス感染症に罹患し、私も新型コロナウイルス感染症に罹患してしまいました。これからしばらくの間、入院したり自宅待機をしたり、働けない状態になります。給料が出なくなってしまうと、生活が立ち行かなくなり不安です。このような状態で何か補償は受けられるのでしょうか。

              感染症対策を徹底していたとしても、職員が新型コロナウイルス感染症に罹患することはあります。ケース②のような状況がもし皆様の介護事業所で発生した場合、まず何よりも先に『労災保険』を検討するようにしましょう。

              労災保険制度は、労働者が業務中の災害や通勤を原因として被った負傷、疾病、障害または死亡に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。

              労働者が、労働基準監督署に労災の申告をし、これに対して労働基準監督署が、労働者の被った負傷等が業務を原因として発生したものであるか否かを調査し、認定する、というプロセスを経るのが通常の流れです。

              ここで重要な点は、患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、 介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象とされており、労災認定の基準が緩和されているという点です。

              (新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて)

              すなわち、ケース②のような状況では、労働基準監督署の調査も速やかに行われ、原則として労災認定がなされ、その結果、新型コロナウイルス感染症に罹患した職員は、入院費用や治療費、休業補償等の補償を受けられることになります。

              上記緩和措置は、実は1年以上前から実施されているのですが、意外なことに、介護事業に従事する労働者の他、使用者でさえも、多くはこの運用を知りません。したがって、介護事業所としては、この機会に、労災に関する緩和措置について、積極的に職場で周知するようにしましょう。

              なお、当然のことながら、新型コロナウイルス感染症に罹患したケースであっても、労働基準監督署が調査の結果、労災認定をしない場合もあります。その場合は、全国健康保険協会の傷病手当金の申請を行うようにしましょう。

              (新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数等)

              4.『労災=悪』ではない

              『労災=悪』というネガティブなイメージを抱いている経営者や管理者がいますが、労災認定がされたからといって、その企業が『悪』ということではありません。

              前述したように、労災保険制度は、労働者が業務中の災害や通勤を原因として被った負傷、疾病、障害または死亡に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。

              つまり、労災認定がされるかどうかと、「その企業に安全配慮義務違反があるかどうか」「過失があるかどうか」とは無関係です。安全配慮義務違反が無かったとしても傷病が業務に起因しているのであれば労災認定されます。

              労災保険制度は、あくまで働く人への補償制度ですので、『善悪』の問題とは切り離して考え、間違っても労災申告を妨害するようなことはしないようにしましょう。

              5.フローチャートの作成と周知の重要性

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