研修36_BCP不徹底リスクと責任回避の誓約書に潜むリスク

2021.10.13
2024.03.25
15:12
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目次
    BCP(業務継続計画)策定の状況
    BCP不徹底に伴う法的リスク
    「一切責任を負わない」誓約書に潜む2つのリスク

    BCP(業務継続計画)策定の状況

    2021年度介護報酬改定で、全ての介護事業者を対象にBCP(業務継続計画)の策定が義務付けられました。3年間の経過措置があるため、完全義務化は2024年度からとなります。

    BCPの不徹底は法人の法的責任に直結します。この点をお伝えするために、現在の介護事業者におけるBCP策定状況の実態と、そこから想定される法的リスクについて解説していきます。

    BCPを完成させているのは約6% 独自アンケートで

    弁護士法人かなめは2021年5月、約400法人を対象にBCP策定の進捗度合いを質問する独自アンケートを実施しました。アンケートの結果、「BCPを一通り完成させた」と回答した法人は全体の約6%でした。ほとんどの法人が、BCPの策定に着手していないか、着手しているものの作成途中という状況です。

    この結果からは、「3年間の経過措置があるので、まだ大丈夫だろう」と考えている法人が多いことが推察されます。

    全体の約6%しか策定していないということは、半数以上の介護事業者が2024年度ぎりぎりになってから、BCPの形式だけ整えるのではないかと思っています。他の介護事業者のBCPをダウンロードをし、コピーアンドペーストしてとりあえず形だけ整える、という事業者が多数出現するのではないかということを危惧しています。

    2024年度の完全義務化からBCPを策定しているかどうかは、実地指導の対象になることが予想されます。それに備える形で形式だけ整えてとりあえず準備するという事業所が増えるのではないでしょうか。

    それでは、BCPの策定が不徹底の場合にどのような法的リスクがあるのか見ていきましょう。

    BCP不徹底に伴う法的リスク

    実際に介護事業者から寄せられた法律相談

    ここで、弁護士法人かなめに実際に介護事業者から寄せられた法律相談から、BCP 不徹底に伴う法的リスクについて考えていきます。

    BCP作成が完全義務化になる2024年度を過ぎた後、とりあえずBCPは作りました。 しかし、その内容を徹底していなかったような状況で、新型コロナウイルス感染症に罹患した利用者や職員が死亡したとします。 そこで介護事業者が訴えられた場合、敗訴するリスクは高くなるのでしょうか。

    新型コロナウイルス感染症が原因で82歳で亡くなった広島県三次市の女性の遺族が、同市の訪問介護事業所の運営会社に計4,400万円の損害賠償を求めて広島地裁に提訴したという事件がありました。

    こちらの事件は裁判になったものの和解になったため、BCP策定の義務化がこのような裁判にどう結びつくかはまだ分かりません。しかし、「BCP策定が義務化されたのにもかかわらず策定していない」「策定したけれども中身が伴っていない」となると、敗訴リスクは高くなります。

    BCPとは業務継続計画のことです。自然災害が発生して止まってしまった事業をいかに早く回復するのか、従業員や利用者が感染してしまった中でいかに事業を止めずに続けていくのかを考えていくのかが肝です。例えば職員の人員体制をどのように組みなおすのかなど、事前にシミュレーションを重ねることです。

    日和幼稚園バス津波被災事件から学ぶ

    ここで、2011年3月11日に発生した東日本大震災にまつわる悲しい事件を紹介します。日和幼稚園バス津波被災事件(仙台地裁2013年9月17日判決)です。

    この事件は、園で作成されていた災害対策マニュアルの内容を実践しなかった結果、園児5名が津波に巻き込まれ、尊い命が失われてしまった件について、同園を運営する法人等の法的責任が争われた事件です。判決では、園児1人あたり約2,300万円の賠償が命じられました。

    この園では事前に以下のような災害対策マニュアルが作成されていました。

    地震の震度が高く、災害が発生するおそれがある場合は、全員を北側園庭に誘導し、動揺しないように声掛けして、落ち着いて園児を見守る。園児は保護者のお迎えを待って引き渡すようにする。

    日和幼稚園は高台に位置していたので、大規模地震の際には一旦園で待機しようという、園の実態に合った合理的な内容でした。しかし、このマニュアルは職員間で共有されておらず、ほとんどの職員がその内容を知りませんでした。

    同園の園長は大震災発生直後、園児を保護者の元へ送るべく、園から園児を乗せたバスを出してしまいました。その結果、園児を乗せたバスは津波に巻き込まれ、バスは横転。園児5名が車内で火災に巻き込まれ死亡するという悲惨な事故が発生しました。なお、津波は高台にあった日和幼稚園にまでは到達しませんでした。

    日和幼稚園バス津波被災事件高裁における和解

    この事件は控訴され、高裁においてこのような前文と和解条項が発表されました。

    和解条項の2点目には、「自然災害が発生した際に子供らの生命、安全を守るためには、防災マニュアルの充実及び周知徹底、避難訓練の実施並びに職員の防災意識の向上等、日頃からの防災体制が十分に構築されていなかったことを認める」とあります。

    これは、介護事業者のBCPに置き換えることが可能です。BCPは策定して終わりではありません。研修教育、足りないところのブラッシュアップ、研修教育のサイクルを定期的に回し続け、職場に周知徹底、浸透させていくことが大事です。

    「一切責任を負わない」誓約書に潜む2つのリスク

    実際に介護事業者から寄せられた法律相談

    ここで再び、弁護士法人かなめに実際に介護事業者から寄せられた法律相談から、「一切責任を負わない」という誓約書に潜む2つのリスクについて考えていきます。

    広島県三次市で訪問介護事業を運営する法人が、利用者の遺族から「新型コロナウイルス感染症で亡くなったのはヘルパーがうつしたからだ」と訴えられたケースをニュースで見ました。
    感染対策をしっかりと講じているのにもかかわらず訴えられてしまうと、どうして良いか分かりません。
    「利用者が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合、当法人は一切責任を負いません。」という誓約書にサインしてもらったら安心できると思うのですが、このような誓約書は問題無いのでしょうか?

    新型コロナウイルス感染症に関する訴訟リスクを予め回避するために、上記のような「一切責任を負いません」という誓約書のサインを求めることは問題無いかという質問を受けることが良くあります。

    結論から申し上げますと、このような誓約書の作成についてはお勧めしません。以下に述べる2つのリスクがあるからです。

    消費者契約法に違反して無効になる可能性

    一つ目のリスクは、消費者契約法に違反し、契約が無効になる可能性があるという点です。

    消費者契約法第8条には、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項」については「無効とする」という定めがあります。

    つまり、事故が起きたり、新型コロナウイルス感染症に感染したりしたとしても、「事業所が一切責任を負わない」という趣旨の条項は利用者の利益を不当に害するとして、法的に無効になってしまうのです。これは、せっかく作成した誓約書が、無意味なものとなってしまうことを意味します。

    利用者や家族との信頼関係の破壊

    二つ目のリスクは、利用者や家族から不信感を抱かれてしまう点です。このような誓約書は、介護事業者に一方的に有利な内容であることが明らかです。

    利用者やご家族は、このような誓約書を見てどのように感じるでしょうか。「この事業所は逃げ腰だな」と感じるのではないでしょうか。

    利用者やご家族に、このような不信感を抱かれてしまえば、介護事業運営において最も重要な「信頼関係」が破壊されてしまうリスクがあります。

    丁寧な説明こそが安全配慮義務履行に繋がる

    もしこのような状態になってしまった時は、例えばBCPで「利用者さんに対するサービス提供の優先順位を決めますよ」など、想定されるリスクに対する具体的な行動指針を、利用者やご家族と共有することで、信頼関係の構築に繋がります。

    また、こうした丁寧な説明をすることが、リスクの低減にもつながっていきますので、「一切責任を負わない」というような誓約書の作成はやめましょう。

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