新型コロナウイルス感染症がまん延する昨今、訪問介護事業を運営する皆様は、感染症に特に気を使ってサービス提供を続けていらっしゃるでしょう。
そのような状況においては、「万が一感染症が発生した場合にはどのような対応や報告をしなければいけないの?」や「現在行っている感染症対策は十分なのだろうか?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、そのような疑問をお持ちの方々に向けて、感染症を予防するための対策や発生した場合にとるべき対応についてご紹介しています。
訪問介護で対策するべき感染症の種類について、厚生労働省の「介護職員のための感染対策マニュアル(訪問系)」に沿って、説明していきます。
感染症とは、ウイルスや細菌、真菌などの微生物が、体内に侵入・増殖し、さまざまな症状を引き起こすことを指します。
訪問介護で対策するべき感染症は、侵入・増殖のパターンから大きく3つに分けられます。
まず、利用者様だけでなく職員にも感染しうる感染症についてです。これらの感染症は、集団感染を引き起こす可能性があります。
次に、健康な人が発症することは少ないとされていますが、抵抗力が低下している場合、利用者様だけでなく職員にも感染しうる感染症についてです。こちらの感染症も集団感染を引き起こす可能性があり、特に高齢者には注意が必要とされています。
最後は、感染者の血液や体液を介して感染し、発症する感染症についてです。これらの感染症は、集団感染を引き起こす可能性は少ないとされています。
このように、訪問介護事業所で対策するべき感染症は多数あります。そうした感染症の発生を防ぐためには、どのような対策が必要になってくるのでしょうか。
ここからは、感染症対策の指針・マニュアルや、職員研修などの具体的な対策について見ていきましょう。
訪問介護事業所は運営基準で、感染症の予防やまん延防止のための指針・マニュアルを整備することが義務付けられています。
指針・マニュアルには、感染症予防のための「基本的な考え方」を示した上で、「感染管理体制」、「日頃の対策」、「感染症発生時の対応」など、厚生労働省の「介護現場における感染対策の手引き」に定められる項目について網羅するように記載しなければなりません。
さらに、感染症発生時における事業所内の連絡体制や、関係機関との連携方法等も明記しておく必要があります。
また、新型コロナウイルスウイルス感染症に対する指針・マニュアルは、別途作成しておくことが望ましいとされています。
【介護現場における感染対策の手引きに定められる項目】
作成した指針・マニュアルは、訪問先でも職員が対応できるよう、持ち歩けるようなサイズで作成し、事前に配布しておくと良いでしょう。
訪問介護事業所は、感染症が発生しても利用者が継続してサービス提供を受けられるように業務継続計画(BCP)を策定すると共に、業務継続計画に基づいた研修や訓練を行わなければなりません。
※業務継続計画(BCP)の策定等は、2024年3月31日まで努力義務となっています。
感染症に対する業務継続計画には、「平時からの備え」、「初動対応」、「感染拡大防止体制の確立」など、厚生労働省の「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」に定められる項目について網羅するように記載します。
感染症を予防するために、訪問介護員などに向けて職員研修を実施することも大切です。
介護経営ドットコムでは、無料の研修動画をご用意していますので、ぜひご活用ください。
訪問介護事業所で感染対策として用意するべき備品や消耗品をご紹介します。感染が疑われる方への対応などにより使用量が増加した場合に備えて、普段から数日分は備蓄しておきましょう。
万が一、訪問介護事業所で感染症が発生した場合は、「情報共有と報告」、「消毒と清掃」、「疫学調査への協力」、「行政への報告」といった対応を行い、それぞれの段階で記録を残す必要があります。
利用者様に感染症や食中毒を疑うような症状があった場合、まずは初動対応として、情報共有と報告を行います。
【情報共有と初動対応の例】
【報告先の例】
など
感染症の診断があった場合、感染拡大を防止するために、消毒や清掃などを行います。
【消毒と清掃の例】
感染症を発症した利用者様がいた場合には、情報提供を通して、保健所などへの疫学調査に協力します。
【提供する情報の例】
感染症が発生した場合、事業者は行政に報告を行うことになります。
具体的な報告書の様式・記載内容は市区町村によって違うため、ここでは東京都練馬区における新型コロナウイルス感染(疑い)発生時の対応の例をご紹介します。
新型コロナウイルス感染(疑い)発生に伴い、区への報告が必要な場合、まずは電話で報告をします。
その後、「新型コロナ発生時提出管理シート」に必要事項を記載の上、提出します。
※2023年2月現在は事業者の負担軽減を図るため、「(3)陽性者ラインリスト」のみを提出することになっています。
出典:練馬区
さらなる感染拡大を防止するために、「施設内感染予防・拡大防止のためのチェック表(新型コロナウイルス 居宅を訪問して行うサービス)を用いて、事業所内における対策の確認をします。
さらに、PCR検査により新型コロナウイルスが陽性と判定された場合は、様式4(感染症報告書)により事故報告をします。
感染症報告書は、事業所の所在地を管轄する総合福祉事務所高齢者支援係に提出します。
ここまで、訪問介護事業所における感染症を予防するための対策や、感染症が発生した際の対応について述べてきましたが、いかがでしょうか。
感染症の発生を完全に抑えることは難しいかもしれません。そのため、職員や利用者様が万が一感染してしまった場合に適切な対応をとることができるよう、マニュアル・指針を整備するなど、日頃からの対策が重要になってきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。