訪問看護事業所には、職員の勤怠管理や給与計算など、様々な労務管理業務があります。
日常的な業務も忙しい中で、「労務管理を効率化するにはどうすればいいの?」という疑問をお持ちの事業者の方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、訪問看護事業所の経営者・管理者の皆様に向けて、労務管理のポイントや効率化の方法などについて解説していきます。
労務管理とは、賃金や労働時間などの労働条件、安全衛生や福利厚生を管理する業務のことです。
従業員にかかわる職場環境を管理し、人材の生産性を向上させることや労災などのリスクを回避することを目的としています。
訪問看護事業所における労務管理は、以下のような業務内容が挙げられます。
それでは、労務管理の業務内容をピックアップして詳しくご紹介していきます。
雇用契約書は、事業所が従業員を雇用する際に、雇用期間や賃金、就業時間などの労働条件を取り決める文書です。雇用契約書の締結は以下の流れで行います。
就業規則とは、職員の労働条件や職場内のルールなどについて定めた事業所における規則集で、策定した就業規則に基づいて職員の労務管理を行います。
法律の改正や事業所内の制度変更時など、事業所の実情に合わせて就業規則を改定する必要があります。
勤怠管理は従業員の勤務時間や休暇などを管理する業務で、主に以下の項目を管理します。
給与計算は、基本給や各種手当などを足した総支給額から、社会保険料などの控除を差し引き、従業員へ支給する金額を算出する業務です。
給与計算業務は以下の流れで行います。
訪問看護事業所において適切に労務管理をする上で、以下のようなポイントに気をつけましょう。
それでは、一つずつ詳しく見ていきましょう。
労務管理に関する規則、規程、書類等を作成して、適切に管理することが必要です。
特に、年・年度ごとに作成しなければならない書類や、社内の制度の変更に伴い更新しなければならない規程・書類などについて、作成・変更・周知・保管等の管理をすることが重要になっています。
訪問看護事業所における夜間勤務やオンコールなどの変則的な勤務は、職員への負担が大きくなります。
適切な労務管理を行うために、以下のポイントに気を付けましょう。
ライフステージの変化等に伴い、育児休業や介護休業を取得しやすいように法整備が進んでいます。
これらの休業等に関して従業員からの相談に対応することも労務管理のひとつとなります。
適切に対応するためには、現行の法制度と給付や社会保険の手続き、社内の制度の理解が必要になります。
訪問看護事業所は、利用者の体調の変化等により急なキャンセルや予定の変更が発生します。そのようなケースにおいて、非常勤職員の勤務変更を行った場合の対応について注意しましょう。
上記の理由で従業員を休業させる場合、他の利用者宅での勤務の可能性など、代替業務を行わせる可能性等を十分に検討し、最善の努力を尽くしたと認められない場合には、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払が必要となります。
ここからは、訪問看護で労務管理を行う際に注意する点や、ルールについてご紹介していきます。注意するべき点は、以下のようになります。
訪問看護事業所は夜勤勤務やオンコールがあるため、適切に労働時間管理をする必要があります。
厚生労働省は、2017年に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定し、使用者には労働時間を適正に把握する責務があるとしています。
このガイドラインの対象となる事業場は、「労働基準法のうち労働時間に係る規定(労働基準法第4章)が適用される全ての事業場」です。
また、このガイドラインの対象となる労働者は、「労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者を除くすべての労働者」となっており、訪問看護事業所におけるほとんどの職員が対象となります。
労働時間を適切に把握するために、事業者は、
をする必要があるとされています。
始業・終業時刻の確認と記録の原則は、以下の通りです。
やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合は、以下の三点を実施する必要があります。
従業員の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成することを目的として、労働安全衛生法が定められています。
労働安全衛生法は、事業者に対して、仕事が原因で従業員が事故に遭ったり病気になったりしないような取り組みを行う義務があることを規定しています。
具体的に行わなければならないことをいくつかご紹介します。
(健康診断) 第66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。 (保健指導等) 第66条の7 事業者は、第六十六条第一項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第五項ただし書の規定による健康診断又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。 2 労働者は、前条の規定により通知された健康診断の結果及び前項の規定による保健指導を利用して、その健康の保持に努めるものとする。
(健康診断)
第66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
(保健指導等)
第66条の7 事業者は、第六十六条第一項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第五項ただし書の規定による健康診断又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。
2 労働者は、前条の規定により通知された健康診断の結果及び前項の規定による保健指導を利用して、その健康の保持に努めるものとする。
第66条には健康診断について規定があり、事業者は、労働者を雇い入れた際とその後年1回、医師による健康診断を行わなければならないとされています。
また、第66条の7には、健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師や保健師による保健指導を行うように努めなければならないとされています。
(心理的な負担の程度を把握するための検査等) 第66条の10 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第66条の10 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
第66条の10はストレスチェック制度についての規定です。ストレスチェック制度は、労働安全衛生法の改正に伴って2015年12月1日より施行され、常時使用する労働者に対して、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施することが事業者の義務となりました。
ただし、労働者数50人未満の事業場は当分の間努力義務となっています。
労働施策総合推進法の改正に伴い、職場におけるパワーハラスメント対策が、2022年4月から中小企業においても義務化になりました。
また、2022年6月1日施行の改正男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法により、職場におけるセクシャルハラスメントや、妊娠・出産・育児等に関するハラスメントの防止対策も強化されています。
ハラスメント対策は、近年問題になるケースが増えてきています。ハラスメント対策を行っていない場合、賠償責任を追及される可能性もありますので、注意が必要です。
訪問看護の労務管理を効率化するためには、以下の方法が考えられます。
勤怠管理や給与計算などの業務は、勤怠管理システムや給与計算ソフトを導入することで、計算ミスや手間を減らし、効率化することができます。
給与計算や就業規則の改訂などの業務は、社会保険労務士等の専門家に業務委託することで、適正な対応と業務負担の軽減を実現できるでしょう。
ここまで、訪問看護事業所における労務管理のポイントやルールなどについてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
一言に労務管理といってもその会社によって業務の範囲に違いがあり、様々な業務が含まれていますので、労務管理に係る業務を効率化するために、業務範囲を整理して、「ソフト・システムの導入によって効率化できないか?」、「外部の専門家に業務委託することで対応できないか?」を検討してみましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
【監修者情報】 トリプルグッド社会保険労務士法人は、トリプルグッドグループのメンバーファームとして、トリプルグッド税理士法人、トリプルグッド司法書士法人、トリプルグッド行政書士法人、トリプルグッド法律事務所、トリプルグッドウェルスマネジメント株式会社、トリプルグッド株式会社など、さまざまな専門家が連携し、ワンストップでのサービスを提供。介護特化部門を擁し介護事業者の支援に力をいれている。