訪問介護事業を運営している皆様は、万が一事故が起きた場合に備えて十分な準備をできていますか?
事故が起きた場合、訪問介護事業者には「必要な措置をとること」、「事故の状況や対応等の記録を行うこと」が運営基準に定められています。
これらの運営基準の項目を遵守するためには、事故対応マニュアルの作成・更新、職員への周知が必要になります。
この記事では、訪問介護の事故対応マニュアルを作成・更新する際に役立つ事故事例や事故防止のための取り組みについてご紹介しています。
ここでは、2017年度に介護労働安定センターが実施した「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」に基づいて事故の説明を行います。
そのため、事故には「利用者様に身体的被害等があった場合」だけでなく「利用者様の所有物等に損害があった場合」も含まれます。
調査の報告書によると、訪問サービスにおける事故を分類すると以下のような事故が発生しています。
【事故状況分類】
事故状況分類の結果として、通所サービスや入所サービスでは「転倒等」の事故が大半を占めている状況ですが、訪問サービスでは、「紛失・破損に関する賠償」が多いという点で違いがあります。
また、利用者様に傷害があった場合の事故の傷病等を分類すると以下のようになっています。
【人身・傷害の傷病分類】
介護労働安定センターの「介護サービスの利用に係る 事故の防止に関する調査研究事業」に掲載されている訪問サービスで発生した事故の事例と原因をご紹介します。
【事例】
食後に利用者のテーブルにコーヒーを提供したが、利用者が誤って膝にこぼし火傷を負い皮膚剥離となった。
【原因】
利用者の身体状況(握力低下)があったが、重量のあるものでもなく、食事も自立介助であったため、介助者は見守りとしていた。また、提供されたコーヒーは高温でカップ自体もかなり高温になっており、利用者が持ちあげた際に、握力低下に加えカップの熱さで保持することが困難だったことが考えられる。
循環器動態の変化の大きい利用者に足浴を実施するために、テープ固定せずにパルスオキシメーターを指にはめて測定中、外れて浴槽へ落ち、破損させてしまった。
訪問マニュアルでは固定することとなっていたが、テープの固定を忘れた。 基本的に入浴時に使用対象としていない医療機器であった。酸素飽和状態を確認しているが、入浴前後の身体アセスメントを重要視していない。
自転車利用による、居宅訪問時に交差点内で他の自転車と衝突し転倒し、お互いに負傷を負った。
交差する道路で一旦停止をせず、そのまま自転車で進入した。自転車のカゴが利用者介護のための道具で重く、自転車の操作性が悪かった。
ここでは「利用者様が転倒によりケガを負ってしまう場合(傷害事故)」と「従業員が就業中に交通事故にあってしまった場合(交通事故)」について、事故の対応の流れを見ていきます。
それでは、利用者様に傷害事故が発生した際の流れを詳しく見ていきましょう。
現場にいる訪問介護員は、事故が発生した場合、利用者様の状態を確認し、必要に応じて、救急車を呼ぶことや医療機関を受診していただく等の対応を行います。
【確認のポイント】
現場にいる訪問介護員は、状況把握や初期対応が終わる段階で、事業所に事故が発生したことについての第一報の連絡をします。
事業所の事故担当者(管理者やサービス提供責任者)は、訪問介護員や受診した医療機関から得た情報によって事故の状況を把握し、利用者様の関係者や関係機関に連絡をします。
【連絡する関係者・関係機関】
事故の内容や対応などを記録します。この記録は2年間保管する義務があります。
【記録する事故の内容等】
事故が発生した場合、原因を分析し、再発防止策を検討し、職員に周知します。
【原因分析】
【再発防止策】
死亡事故や感染症の発生などは事業者の過失の有無に関係なく、市町村が定める様式の事故報告書を作成して報告しなければなりません。
市町村によって報告する内容に若干の違いがありますので、事業所の所在地の市町村と利用者様の保険者である市町村のホームページ等を確認しましょう。
ここでは神奈川県横浜市の事故報告の流れを例としてご紹介します。
【報告しなければならない事故の範囲】
【報告の流れ】
事業者に損害賠償責任がある場合は、損害賠償責任を果たさなければなりません。そのために損害保険に加入することをおススメしています。様々な保険会社が、訪問介護事業所向けの損害賠償に対しての保険商品を提供しています。
例えば、全日病福祉センターの「介護サービス事業者賠償責任保険」という保険が挙げられます。この保険では、対人・対物事故、管理下財物事故、人格権侵害事故、行方不明時使用阻害事故、感染症対応費用等に対して保険金が支払われます。
【事故の想定例】
それでは、従業員が訪問途中に交通事故に遭った場合の流れを詳しく見ていきましょう。
訪問介護員は、交通事故が発生した場合、相手の状態を確認し、警察への連絡、必要に応じて救急車を呼ぶ等の対応を行います。
現場にいる訪問介護員は、状況把握や初期対応が終わる段階で、事業所に事故が発生したことについての連絡をします。
事故の報告を受けたサービス提供責任者は、事故にあった訪問介護員の状態等を確認し、精神面や受診等で就業が不可能だと判断した場合は、別の訪問介護員の手配や訪問スケジュールの調整を行います。また、別の訪問介護員を手配できた場合は、利用者様に訪問する職員が変わった旨を連絡します。
事故の原因を特定し、再発防止策を検討して、社内用の事故報告書を作成します。
そして、同じような労働災害の再発を防ぐために、社内用の事故報告書を職員に共有します。
訪問介護事業所では事故を防止するために、どのような対策ができるでしょうか。
対策をたてるにはまず、訪問介護サービスを行う中で、どこに事故のリスクが潜んでいるのか「特定」します。次に、特定した事故のリスクを「分析」、「評価」した上で、具体的な「対応」を考えていきます。
【事故防止のための取り組みの例】
訪問介護事業所での事故事例や事故防止のための取り組みについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
事故が起きてしまうことを想定し、損害賠償責任を果たせるような保険への加入、日頃から事故を予防するための取り組みを職員に浸透させていくことなど、事前の対策が重要になってきます。
この記事でご紹介した内容が、皆様の事業所の事故防止に対する更なる取り組みの一助になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。