訪問介護のよくある事故事例とは?事故防止のための取り組みもあわせてご紹介

2023.01.30
2023.12.01
ホーム事業所運営訪問介護訪問介護のよくある…

訪問介護事業を運営している皆様は、万が一事故が起きた場合に備えて十分な準備をできていますか?

事故が起きた場合、訪問介護事業者には「必要な措置をとること」、「事故の状況や対応等の記録を行うこと」が運営基準に定められています。

これらの運営基準の項目を遵守するためには、事故対応マニュアルの作成・更新、職員への周知が必要になります。

この記事では、訪問介護の事故対応マニュアルを作成・更新する際に役立つ事故事例や事故防止のための取り組みについてご紹介しています。

目次
    訪問介護で発生する事故とは?
    訪問介護で事故が発生した時の流れ
    訪問介護の事故防止のために行うべき取り組みとは?
      まとめ

        訪問介護で発生する事故とは?

        ここでは、2017年度に介護労働安定センターが実施した「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」に基づいて事故の説明を行います。

        そのため、事故には「利用者様に身体的被害等があった場合」だけでなく「利用者様の所有物等に損害があった場合」も含まれます。

        調査の報告書によると、訪問サービスにおける事故を分類すると以下のような事故が発生しています。

        【事故状況分類】

        • 訪問先の紛失・破損に関する賠償・・・56.3%
        • 転倒・滑落・・・23.2%
        • 来訪時の交通事故・・・4.2%
        • ペットトラブル・・・2.8%
        • ケアプラン・・・0.7%
        • 車いすと壁の間に挟まれた外傷・・・0.7%
        • 不明・・・0.7%

        事故状況分類の結果として、通所サービスや入所サービスでは「転倒等」の事故が大半を占めている状況ですが、訪問サービスでは、「紛失・破損に関する賠償」が多いという点で違いがあります。

        また、利用者様に傷害があった場合の事故の傷病等を分類すると以下のようになっています。

        【人身・傷害の傷病分類】

        • 骨折・・・54.5%
        • 打撲・・・15.2%
        • あざ・腫れ・擦傷・裂傷・・・12.1%
        • 捻挫・・・6.1%
        • 脳障害・・・6.1%
        • 死亡・・・3%
        • その他・・・3%

        訪問介護で発生した事故の事例と原因

        介護労働安定センターの「介護サービスの利用に係る 事故の防止に関する調査研究事業」に掲載されている訪問サービスで発生した事故の事例と原因をご紹介します。

        事故事例①見守り中の人身事故

        【事例】

        食後に利用者のテーブルにコーヒーを提供したが、利用者が誤って膝にこぼし火傷を負い皮膚剥離となった。

        【原因】

        利用者の身体状況(握力低下)があったが、重量のあるものでもなく、食事も自立介助であったため、介助者は見守りとしていた。また、提供されたコーヒーは高温でカップ自体もかなり高温になっており、利用者が持ちあげた際に、握力低下に加えカップの熱さで保持することが困難だったことが考えられる。

        事故事例②利用者様宅での破損事故

        【事例】

        循環器動態の変化の大きい利用者に足浴を実施するために、テープ固定せずにパルスオキシメーターを指にはめて測定中、外れて浴槽へ落ち、破損させてしまった。

        【原因】

        訪問マニュアルでは固定することとなっていたが、テープの固定を忘れた。 基本的に入浴時に使用対象としていない医療機器であった。酸素飽和状態を確認しているが、入浴前後の身体アセスメントを重要視していない。

        事故事例③訪問介護員が移動中の事故

        【事例】

        自転車利用による、居宅訪問時に交差点内で他の自転車と衝突し転倒し、お互いに負傷を負った。

        【原因】

        交差する道路で一旦停止をせず、そのまま自転車で進入した。自転車のカゴが利用者介護のための道具で重く、自転車の操作性が悪かった。

        訪問介護で事故が発生した時の流れ

        ここでは「利用者様が転倒によりケガを負ってしまう場合(傷害事故)」と「従業員が就業中に交通事故にあってしまった場合(交通事故)」について、事故の対応の流れを見ていきます。

        事故発生時の流れ①傷害事故

        それでは、利用者様に傷害事故が発生した際の流れを詳しく見ていきましょう。

        利用者様の身体状況の確認や安全確保

        現場にいる訪問介護員は、事故が発生した場合、利用者様の状態を確認し、必要に応じて、救急車を呼ぶことや医療機関を受診していただく等の対応を行います。

        【確認のポイント】

        • 意識レベル
        • 出血の有無
        • 顔色、表情の変化
        • 負傷部位の腫れ、皮膚の変色の有無

        現場の訪問介護員から第一報を受ける

        現場にいる訪問介護員は、状況把握や初期対応が終わる段階で、事業所に事故が発生したことについての第一報の連絡をします。

        利用者様の家族や関係各所連絡・報告

        事業所の事故担当者(管理者やサービス提供責任者)は、訪問介護員や受診した医療機関から得た情報によって事故の状況を把握し、利用者様の関係者や関係機関に連絡をします。

        【連絡する関係者・関係機関】

        • 利用者様のご家族
        • 利用者様の担当ケアマネジャー
        • 市町村

        事故の記録の作成

        事故の内容や対応などを記録します。この記録は2年間保管する義務があります。

        【記録する事故の内容等】

        • 利用者様の基本情報(氏名、年齢、性別、住所)
        • 利用者様の身体状況(要介護度、認知症高齢者日常生活自立度、過去の病歴・疾患等)
        • 事故の状況(医療機関の受診状況、死亡の場合は死亡年月日)
        • 事故の発生日時
        • 事故の発生場所
        • 事故の種類(転倒・転落・誤嚥・窒息・異食・誤薬・感染症等)
        • 事故発生時の状況
        • 事故の内容
        • 事故発生時の対応(時間、実施した内容)
        • 受診先・受診方法
        • 診断名・診断内容
        • 利用者様の経過
        • 家族への報告(担当者、報告した家族、報告年月日)
        • 関係機関への連絡(自治体、警察、ケアマネジャー)
        • 事故の原因
        • 再発防止策
        • 損害賠償の有無、状況

        事故の原因と再発防止策の検討

        事故が発生した場合、原因を分析し、再発防止策を検討し、職員に周知します。

        【原因分析】

        • 要因(本人要因・職員要因・環境要因)
        • 要因の詳細、可能性

        【再発防止策】

        • 手順の変更
        • 環境の変更
        • その他の対応
        • 再発防止策の評価時期

        行政への報告はどうする?神奈川県横浜市を例に。

        死亡事故や感染症の発生などは事業者の過失の有無に関係なく、市町村が定める様式の事故報告書を作成して報告しなければなりません。

        市町村によって報告する内容に若干の違いがありますので、事業所の所在地の市町村と利用者様の保険者である市町村のホームページ等を確認しましょう。

        ここでは神奈川県横浜市の事故報告の流れを例としてご紹介します。

        【報告しなければならない事故の範囲】

        • サービスの提供による、利用者様のケガ(医療機関で受診を要したもの)又は死亡事故の発生
        • 食中毒、感染症、結核の発生
        • 職員(従業者)の法令違反・不祥事等の発生
        • 誤薬(与薬漏れ、落薬含む)
        • 離設・行方不明

        【報告の流れ】

        1. 事故後、各事業者は、速やかに横浜市に電子申請システムを用いて第一報を提出します。
        2. 事故処理の経過報告については、必要に応じて横浜市に適宜報告します。
        3. 事故処理の区切りがついたところで、電子申請システムを用いて本報告(最終報告)を提出します。
        4. 各事業所は、利用者様に事故報告の内容を積極的に開示し、求めに応じて交付します。

        本人や家族への損害賠償を行う

        事業者に損害賠償責任がある場合は、損害賠償責任を果たさなければなりません。そのために損害保険に加入することをおススメしています。様々な保険会社が、訪問介護事業所向けの損害賠償に対しての保険商品を提供しています。

        例えば、全日病福祉センターの「介護サービス事業者賠償責任保険」という保険が挙げられます。この保険では、対人・対物事故、管理下財物事故、人格権侵害事故、行方不明時使用阻害事故、感染症対応費用等に対して保険金が支払われます。

        【事故の想定例】

        • ヘルパーが車いすのストッパーをかけ忘れたために、車椅子が動き出し、バランスを崩した高齢者が転落してケガをした。
        • ケアプランの内容に問題があったため、ケアプランに基づいて行動した高齢者がケガをした。
        • ホームヘルパーが利用者様宅で介護のためにサービス利用者様の食器を使ったところ、誤って落として壊した。
        • サービス利用者様から預かった買い物用の現金を盗まれた(この場合、警察への届出が必要です。)。

        事故発生時の流れ②従業員の交通事故

        それでは、従業員が訪問途中に交通事故に遭った場合の流れを詳しく見ていきましょう。

        事故の全体状況の把握

        訪問介護員は、交通事故が発生した場合、相手の状態を確認し、警察への連絡、必要に応じて救急車を呼ぶ等の対応を行います。

        【確認のポイント】

        • 自身のケガの有無
        • 相手のケガの有無
        • 救急車の必要性
        • 物損の状況

        現場にいる訪問介護員は、状況把握や初期対応が終わる段階で、事業所に事故が発生したことについての連絡をします。

        担当者の変更を利用者様へ連絡

        事故の報告を受けたサービス提供責任者は、事故にあった訪問介護員の状態等を確認し、精神面や受診等で就業が不可能だと判断した場合は、別の訪問介護員の手配や訪問スケジュールの調整を行います。また、別の訪問介護員を手配できた場合は、利用者様に訪問する職員が変わった旨を連絡します。

        事故報告書を職員に共有

        事故の原因を特定し、再発防止策を検討して、社内用の事故報告書を作成します。

        そして、同じような労働災害の再発を防ぐために、社内用の事故報告書を職員に共有します。

        訪問介護の事故防止のために行うべき取り組みとは?

        訪問介護事業所では事故を防止するために、どのような対策ができるでしょうか。

        対策をたてるにはまず、訪問介護サービスを行う中で、どこに事故のリスクが潜んでいるのか「特定」します。次に、特定した事故のリスクを「分析」、「評価」した上で、具体的な「対応」を考えていきます。

        【事故防止のための取り組みの例】

        • 事故発生時の対応手順が明確になっている手順書・マニュアルの作成
        • 事故の現場で対応する職員向けに「誤飲・誤食」「転倒」「ケガ・打撲」など、状況別の対応マニュアルの作成
        • 訪問介護員が携帯できる形の手順書・マニュアルの作成、配布
        • 自然災害や感染症に対するBCPの作成、研修・訓練の実施
        • ヒヤリハット報告書の分析、職員間での共有
        • グループチャットなど速やかに情報を共有、周知するための仕組みの導入

        まとめ

        訪問介護事業所での事故事例や事故防止のための取り組みについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか。

        事故が起きてしまうことを想定し、損害賠償責任を果たせるような保険への加入、日頃から事故を予防するための取り組みを職員に浸透させていくことなど、事前の対策が重要になってきます。

        この記事でご紹介した内容が、皆様の事業所の事故防止に対する更なる取り組みの一助になれば幸いです。

        最後までお読みいただきありがとうございました。

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