訪問看護サービスの現場では、事故が起きてしまう可能性があります。
皆様が運営する訪問看護ステーションでは、事故が発生してしまった時のためにマニュアルを整備していると思いますが、「実際にどのような事故が起きているの?」、「今のマニュアルで大丈夫かな?」という疑問や不安を感じていませんか?
この記事では、訪問看護ステーションで発生した事故の事例、事故が発生した時の対応などについてご紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。
厚生労働省が平成25年に行った「訪問看護ステーションにおける安全性及び安定的な サービス提供の確保に関する調査研究事業 」によると、2カ月間で発生した医療事故(インシデント)は平均で『0.6回』、ヒヤリハットは平均で『1.6回』となっています。
ここでは、訪問看護の現場では実際にどのような事故が発生しているのか、公益財団法人日本医療機能評価機構の調査から事例をご紹介していきます。
【事故の程度】 障害残存の可能性がある(高い) 【事故の内容】 アブレーション治療後、訪問看護ステーション利用となり、契約のため訪問する。契約のみで訪問したが利用者本人より本日より入浴希望あり、準備しようと立って歩き初めて転倒する。救急搬送され左大腿骨転子部骨折にて入院となる。 【事故の背景要因の概要】 もともと契約だけのための自宅訪問であったが、本人より入浴希望あり、あわてて準備しようと自分で動いた。 床に敷物があり、敷物が固定されず動く状態であった。 【改善策】 訪問時、その場の状況に危険な状態がないか契約前に確認する。 患者の動きに注意する。
【事故の程度】
【事故の内容】
【事故の背景要因の概要】
【改善策】
【事故の程度】 障害なし 【事故の内容】 在宅において、訪問看護をうけていた。浮腫・胸水貯留認め、利尿剤投与していた。尿回数頻回。医師に指示があり、訪問看護において膀胱留置カテーテル14Fr挿入した。抵抗なく挿入できたが、血性尿流出あり。カテーテル抜去し泌尿器科受診。軽度尿道損傷認め、医師より再挿入となった。 【事故の背景要因の概要】 看護師による膀胱留置カテーテルの挿入。受診を嫌がり、医師と相談の上、看護師が挿入した。 カテーテル閉塞予防のため、前回挿入したカテーテルより太いカテーテルを挿入した。 抗凝固剤を服用しており、止血しにくい状況であった。 【改善策】 男性の膀胱留置カテーテル挿入や交換は在宅訪問対応ではなく病院受診とする。
【事故の程度】 障害なし 【事故の内容】 脳梗塞後遺症、高血圧、認知症により週2回訪問看護を実施。訪問時、シャワー浴介助を行っていた。訪問看護師Aはいつものようにシャワー浴介助のため、ベッドよりシャワーチェアに移乗介助をした。患者は下肢の硬縮があるため、理学療法士と相談し、仰臥位の状態で両肩・両膝にしっかり腕を入れ込み、かかえるようにして端座させるようにしていた。今回もそのように行ったが、ベッド下に両足をさげようとしたが、右下肢がベッドの上に残った状態になった。 右下肢をベッド下まで下そうとした際、右ひざが「ぼきっ」と音がした。膝の周囲を観察するが、患者自身の痛みの訴えなく、腫脹、変色等骨折の兆候がなかったため、そのままシャワー浴を行った。痛みが出現するようであれば、連絡をいただきように家族に説明し、その日は訪問を終了した。 3日後位より膝の痛みあり、当院整形外科受診。X−P上明らかな骨折は判明せず。認知症があるため、MRIによる診断はできなかった。1週間後再受診をするように言われ、1週間後に受診。X−P撮影の結果剥離骨折と診断された。ギプス固定を行い、入院加療となった。 【事故の背景要因の概要】 移乗介助時、移乗方法について、両膝の保護と筋力低下のある下肢への配慮が足らなかった。 【改善策】 スタッフ全員への手技の実技確認。理学療法士による安全な移乗方法について再教育の実施。
【事例の内容】 訪問看護師がインスリンを注射。本来8単位だったが、10単位注射した。注射後、家族の送りノートをみて過剰投与に気づく。 【事例の背景要因の概要】 退院前に関係者会議を実施したが、その後インスリンは減量された。インスリン減量指示について、看護添書に記載を忘れ、また、訪問看護師に申し送りもしなかったため、訪問看護師はインスリン減量指示を知らなかった。 【改善策】 退院時に看護添書を再チェックし、重要薬剤について変更があった場合は、訪問看護師に連絡する。
【事例の内容】
【事例の背景要因の概要】
【事例の内容】 訪問診療時、人工呼吸器トリロジーの回路交換を実施した。訪問看護師は滅菌された回路を開封し、手順通りに回路を交換した。また確認点として各接続の緩みがないか、1回換気量等に異常がないこと等医師とともに確認した。 診療後、家族から回路がいつもとちがうと業者に電話があり、業者が訪問したところ蛇腹の長短が逆につながっていることが判明した。家族には電話にて謝罪し医師へ報告した。患者には異常は認めなかった。 【事例の背景要因の概要】 呼吸器回路蛇腹(ISディスポ回路パッシブ)はすでに長短が間違って接続された状態で袋に入っていた。看護師は接続が間違っていないか確認はしなかった。 【改善策】 呼吸器回路蛇腹(ISディスポ回路パッシブ)の販売会社に報告した。 人工呼吸器回路に付属する部品の正しい位置を写真で確認できるようにする。 回路交換時は訪問看護師2名で対応するか業者に同行してもらう。
【事例の内容】 訪問時に撮影した褥瘡の写真を、主治医の医院当てにメール送信した。その際、メールアドレスの入力を誤ってしまい、誤送信となった。 【事例の背景要因の概要】 4月15日、15時54分訪問患者の褥瘡の状態を文章と写真を添付して主治医にメールを送ったがメールアドレスの入力を誤ってしまい誤送信してしまった。 4月16日、メールが送られてきていないとの連絡がありメールを誤送信してしまった事に気づいた。しかし、メール発信者該当なく支障はなかった。 【改善策】 初めてメール送信する場合、まず空メールを送り相手に届いているか確認する。 メールで写真を送る際は、送信前にダブルチェックする。 口頭でのアドレス確認はしない。 ルール化しマニュアルを作る。
訪問看護事業所でこれまでにご紹介したような事故が発生してしまった場合、どのような対応をとれば良いのでしょうか。
介護保険法と健康保険法の運営基準に定められる「事故発生時の対応」について詳しく見ていきましょう。
介護保険法の運営基準には「事故発生時の対応」について以下のように記載されています。
1 指定訪問看護事業者は、利用者に対する指定訪問看護の提供により事故が発生した場合は、市町村、当該利用者の家族、当該利用者に係る居宅介護支援事業者等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。 2 指定訪問看護事業者は、前項の事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなけらばならない。 3 指定訪問看護事業者は、利用者に対する指定訪問看護の提供により賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない。
1 指定訪問看護事業者は、利用者に対する指定訪問看護の提供により事故が発生した場合は、市町村、当該利用者の家族、当該利用者に係る居宅介護支援事業者等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。
2 指定訪問看護事業者は、前項の事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなけらばならない。
3 指定訪問看護事業者は、利用者に対する指定訪問看護の提供により賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない。
【ポイント】
死亡や骨折などの重篤な事故が発生した際は、行政へ事故報告書を提出することになります。
報告を行わなければならない事故の種類や報告方法は指定権者によって違いますので、三重県を例に見ていきましょう。
【事故発生時の報告】
【報告を行わなければならない事故の種類】
健康保険法の運営基準には「事故発生時の対応」について以下のように記載されています。
1 指定訪問看護事業者は、利用者に対する指定訪問看護の提供により事故が発生した場合は、全国健康保険協会、後期高齢者医療広域連合又は健康保険組合、当該利用者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。 2 指定訪問看護事業者は、利用者に対する指定訪問看護の提供により賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない。
1 指定訪問看護事業者は、利用者に対する指定訪問看護の提供により事故が発生した場合は、全国健康保険協会、後期高齢者医療広域連合又は健康保険組合、当該利用者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。
2 指定訪問看護事業者は、利用者に対する指定訪問看護の提供により賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない。
訪問看護で事故を予防するためには、ヒヤリハットや事故事例の情報を収集し、事故に至るまでの背景を理解することが重要です。
それでは、具体的な予防策を見ていきましょう。
ここまで、訪問看護ステーションで発生する可能性がある事故や、事故が発生した際の対応、事故予防などについてご紹介してきました。
事故を予防するためには、職員の事故に対する意識を高め、サービス提供時の留意点をステーション内で共有することが大切です。
また、それでもすべての事故を防ぐことはできないので、万が一のために損害保険に加入しておくのが良いでしょう。
ここでご紹介した内容が、皆様の事業所運営のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。